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NAROWエンジン起動





 2004年4月2日。エイプリルフールを1日過ぎたその日に、日本のどこかでそのスーパーコンピュータは密かに起動された。


 NAROWエンジンと名付けられたそのコンピュータは、人間200万人の頭脳が30年間で処理する情報量を、わずか3日で処理するというエイプリルフールの嘘としか思えない驚異的な性能を有していた。


 NAROWという名称に込められた意味は、公式には記録されていないため、詳細は不明である。

 一説には、”Non Active Resources to the Other Worlds”の略であるといわれている。

「休眠人材を異世界へ」とでもいう意味であろうか?

 それはあくまでも俗説に過ぎないのであるが、確かにNAROWエンジンは、人間を異世界に転生させることができる。


 そもそも人間は自分の存在と、自信が存在するその世界をどうやって認識しているのか?

 たとえばあなたは、自分は確かにこの世に存在していると認識しているであろう。

 しかし、その認識はあなたの脳による情報処理の結果に過ぎない。


 NAROWエンジンは同時に200万人の人間に対して、彼らが異世界に存在するという30年分の認識を与えることが出来る。それもわずか3日の間にである。

 その認識のレベルはいわゆるVR(仮想現実)などというお遊びとはまったく異なる。

 NAROWエンジンが提供する異世界に転生した人間は、確かにその世界に存在している。

 それは、あなたがこの世界に存在していると認識しているのと同じくらい、確かな認識なのだ。


 NAROWエンジンの本体は、とある地方都市にある一見なんの変哲もない役所ビルの地下20mに設置されている。ここは一種のシェルターになっていて、万全のセキュリティーに護られている。

 世界最高レベルの巨大サーバー群により、全国に密かに展開されているNAROW端末ステーションに接続されている。



小鳥遊(たかなし)君、現時点でちょうどNAROWエンジン起動から二時間だ。NAROWの様子はどうだね」

 天井の高い壁面いっぱいに数十の巨大なモニターが並ぶNAROWエンジン管理室で、国立T大学の電子工学教授、敷島博士が助手である研究員の小鳥遊灰音(たかなしはいね)に尋ねた。


「エラーチェック完了しました。博士、エラーはひとつもありません。NAROWエンジンは完璧に動作しています」

 灰音は敷島博士の研究室に入って間もない、まだ若い女性研究員であるが、少女のような幼さを残すその外見に似合わぬ優秀な頭脳を買われて、国家の最高機密であるこのプロジェクトへの参加が認められたのだ。


 NAROWエンジン開発にはもちろん多くのスタッフが関わっていた。しかし最終段階である起動と初期設定の現場に立ち会っているのは灰音の他には敷島博士ともうひとり、科学技術庁長官の宮本の三人のみである。

その宮本が口を開いた。


「博士、NAROWエンジン起動成功、お見事です」

宮本の労いの言葉を聞いた敷島博士は、満足げな笑みを浮かべた。

「お待ちいただいただけのことはありますよ。転生そのものについては転生法が立案されるより以前から、十二分なテストを繰り返してきましたので問題ありません。そして今回このNAROWエンジンを起動したことにより、理論上はわずか3日間で200万人を異世界に転生させることができます。もっともこのシステムの弱点はその3日間、こちらの世界に居る本体を生命維持装置に接続することが必要なことです。そのため現時点で1日に転生できる人数は最大で2000人程度です。後は政府からの予算しだいですな」


「そちらの方は私にお任せください。そして早速ですが博士、記念すべき転生法適用第一号となる山田さんをお連れしてよろしいですかな」


「もちろん結構ですよ。ただその前に最終テストをして作動をチェックいたします」


その言葉を聞いた灰音が少し驚いたように博士に尋ねた。


「すみません、テストのことは博士からお聞きしていませんが。どのようなテストですか」


「うむ。山田さんに異世界に行っていただく前に、試験的に別の一名を異世界に送り込もうと思っているんだよ」


そう言いながら敷島博士は灰音の顔を見つめた。

灰音は嫌な予感がした。


「博士、転生法が適用されるのは山田さんが最初です。それ以前に他の人を転生させるのは違法行為になります」


敷島博士は無表情でつぶやくように応えた。


「小鳥遊君、君は実に優秀だ。しかし時に優秀過ぎる頭脳は災いを招くものだ」


「・・・博士?」


「君は転生法の真の目的に気づいてしまったね。それで私のPCをハッキングして、極秘のファイルを覗いていたのだろう」


敷島博士の手が灰音の身体に伸びた。その手には小さな黒い物体が握られている。

全身に衝撃が走り、灰音は床に崩れ落ちた。

敷島博士は動けなくなった灰音の腕に、何かを注射する。

薄れゆく意識の中で、灰音は敷島博士と宮本の会話を聞いていた。


「博士、重ね重ねご苦労様です。これで機密は護られますな」


「小鳥遊君にはこれから30年間の異世界を楽しんでもらいますよ。こちらの世界では3日ですがね。ただしこのテストは転生法に基づくものではありませんので、後の処理はあくまでも隠密裏に願います」


「もちろん承知しております。彼女には気の毒ではありますが、未来の日本を救う尊い犠牲ということですな・・・」

共にNAROW異世界を破壊せんとする同志たちよ、今こそ諸君の★★★★★とブクマが力となる!

強大な敵を滅ぼすために、ぜひとも諸君の力をこの禁断の書に!

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