転生法適用第一号
「おめでとう、山田君。君は休眠人材活用に関する法律、いわゆる転生法の栄えある適用者第一号として、これから異世界に旅立ってもらう。気分はどうだね」
上等そうなスーツを着た、いかにも高級官僚らしい中年男が尋ねる。
「ありがとうございます。今からワクワクしています」
山田と呼ばれた男は晴れやかな笑顔で応える。山田は手術台のようなベッドに寝かされ、頭部にヘッドギアのようなものを被せられている。体中から伸びた管やコードは物々しい機械に繋がっている。
「そうそう転生先の異世界でのパートナー指名は第一号の特権だよ。君の希望通り橋田カルナさんに来てもらった。カルナさん来たまえ」
部屋の一角にスポットライトが当たると、有名私立女子校の制服を模した衣装に身を包んだ美少女が照らし出される。山田の推しアイドルである橋田カルナである。カルナはベッドに横たわる山田の姿を見ると、小走りに駆け寄りその手を両手で包むように握る。
「山田様、カルナを異世界にお誘い下さり光栄でございます。末永くお供させていただきますよう、よろしくお願いいたします」
1000年に1人の笑顔の持ち主といわれたカルナがそう言って微笑む。
「はうっ!カルナ・・ちゃん。。はうっ、はうっ」
本物の橋田カルナを間近に見て、しかも手まで握られた山田は明らかに様子がおかしい。
白衣を着た医療スタッフが慌てはじめる。
「ダメです、山田さん興奮しすぎて過呼吸になっています」
「ああ、もう心拍数もヤバいことに・・・もう、やっちゃいますが、いいですか?」
スーツの高級官僚は大きく頷く。
ヤマダが目を開けるとそこは見渡す限りの大地であった。
空は青く晴れ渡り大きな白い雲がいくつも浮かんでいた。風は涼しく心地よかった。
「ヤマダ様、むこうに見える森のさらに奥に町があります」
ヤマダの隣に立っていた魔法少女カルナが言った。 ヤマダはカルナの細い肩を抱き、長い黒髪に顔を埋めた。カルナの髪は甘い桃のような良い匂いがした。
「じゃあカルナ、行こうかその町へ。そこから僕たちの冒険を始めよう」
「はいヤマダ様。今日から30年、お供いたしますわ」
異世界では彼らは年を取らないことになっていた。ヤマダはこれから30年、この異世界でカルナと過ごす愛と冒険と魔法の日々を想像した。
(第一号に選ばれてなんて幸運だったんだろう・・あれ?なんだったっけ第一号って)
言い知れぬほどの幸福感に包まれたヤマダには過去の記憶など最早不要であった。
「うぇ~気持ち悪かった。あいつの手、握ったんですよ。徹底的に消毒したい」
控室に戻った橋田カルナは、マネージャーにぼやく。
「亡くなった両親の腐乱死体と生活していた引き篭もりの50男だからね、気持ち悪かったよね。でもこれは政府の仕事だから断れなかったんだ。ごめんね」
「あいつ私のアバターと30年も旅するんでしょ?それもなんだか気持ち悪い」
「30年といっても現実世界では3日だけ。それに単なるプログラムだからカルナちゃんにはもう関係ないから。さあ次のお仕事行きましょ」
2002年に成立した「休眠人材活用法」は、100万人を超えるニートと呼ばれる無職者、そしてこれから増え続ける定年退職者などを休眠人材と指定し、有効活用するための法律である。これにより、年金、保険、生活保護など社会保障の問題は一気に解決するはずだ。
共にNAROW異世界を破壊せんとする同志たちよ、今こそ諸君の★★★★★とブクマが力となる!
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