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ウルトラファンタジーノベル編集室にて 3

 集談社のラノベ部門であるウルトラファンタジーノベルの編集室。若手編集者の前畑紘一は、先輩編集者の島田とミーティングルームに籠っていた。

 第六回ウルトラファンタジー大賞応募作の中から、バッドエンドのものだけを抜き出しているのだ。無論、これは賞の選考などではない。


「島田さん、やはりバッドエンド作品は全体の半数近くありますね。そしてそれらは、いずれもどこか暗示的な作風です」


「うん、確かに作者はそれぞれ別人だし、文体も異なるんだが、どれもどこか共通する雰囲気があるな。この中に何かキーになる作品があるんじゃなかろうか?」


 島田の言葉を聞いた紘一は、自分のノートPCのモニターを島田に向けた。


「この『NAROW異世界の破壊者』という作品に目を通してもらえませんか。まさに我々の読者層が好みそうな和製ファンタジーの世界を、ただひたすら破壊しようとする女性が主人公なんですがね。彼女の破壊の動機がいまひとつ不明ですし、すごくチートな存在であるにも関わらず、破壊活動はそれほど実を結んでいるように見えない。謎は残ったまま。なんか煮え切らない話なんですよね」


 島田は自分のPCで、紘一のいう作品を開くと、非常に速いペースで読了した。


「このハイネという主人公が偽の国境の町に封じ込められて終わりか。バットエンドというか、はっきりしない終わり方だな。破壊活動は確かに成功していない。これはまるで読者に訴えかけるようなエンディングだ。なあ前畑、この作品は読んだか『転生法適用第一号』だ。これは転生法すなわち休眠人材活用法を風刺した作品なんだけどね、『NAROW異世界の破壊者』の国境の町の章と共通する人物が登場するんだ。山田という男と橋田カルナだ」


 紘一も急いで『転生法適用第一号』に目を通した。


「山田という苗字はありふれていますし、橋田カルナは実在のアイドル女優をモデルにしていますから、単なる偶然の可能性はあります。この小説にはハイネは登場しませんしね。しかしそれにしても・・・」


「話がリンクしているように見えるだろう?」


「ええ、確かに」


 島田は応募作中、バッドエンドの作品をピックアップしたリストを開き、それぞれのタイトルを見比べながら言った。


「前畑、他にもリンクしている作品が無いか調べるんだ。俺の勘が正しければ、俺たちはとんでもないパンドラの箱を開けちまったかもしれん。それは俺たち平凡な会社員の人生を破壊しかねないものかもしれんが、開けてしまったからには今さら嫌だと言っても、もう遅い」


 それから二時間ほどの間、紘一と島田はバッドエンド作品を猛スピードで読み漁った。

 もちろん編集長には大賞の二次選考の読みということにしてある。

 選考に残す方はどうせ読まなくてもどれも同じような内容なので、後から無作為に抽出すればよいのだ。


「島田さん、これ『異世界地獄変』。これに出て来るミンミンて、実はハイネなんじゃないですか?」


「ああ、間違いないだろう。ハイネは変幻自在だからな。それにしても惨いラストだな。編集長が怒っていた『辺境でスローライフを』も確かに酷い。過去の罪がどうであれ、辺境でただ静かに暮らそうとしていただけのミゲルに、ここまで惨たらしい罰を与える必要があるかね?ハイネは少々サイコパス傾向があるんじゃないか」


「『シーアーンの奴隷市場』ではハイネの別の性格が垣間見えますね。奴隷のエルフの少女に優しさを見せている。ハイネは男の勝手な欲望で、女性が虐げられるのが許せないんじゃないですかね」


「ハイネは異世界における女性解放の闘士なのかね?しかしハイネが常に女性であるとは限らんぞ。国境の町では少年の姿で勇者ルートを名乗っているからな。ひとつとても気になる作品がある『異世界探偵』だ」


「『異世界探偵』?これは関係ないんじゃないかなあ。この探偵はハイネじゃないでしょう」


「いやよく読め。ハイネは探偵じゃなく、マサルじゃないのか」


「マサルがハイネ?現実世界に存在していると思い込んでいた探偵に、実は彼自身も異世界に存在していたことを教える少年・・・え、どういうことだろう。。。」


 紘一の心のどこかに、何か引っかかるものがある。

 この作品は他の作品以上に暗示的なものを感じるのだ。それも、これ以上深く考えてはいけないような、何か取り返しのつかない暗示が含まれているような気がした。


「前畑、思考停止を試みようとしても、もう遅い。この小説は隠しコマンドだ」


「隠しコマンド?」


 島田はやや陰鬱な表情で、しかしゆっくり力強く紘一に言った。


「コマンドはすでに実行されている。ここからはお前にすべてがかかっているんだ。続きを書け。偽の国境の町でヤマダと対峙しているハイネはどうなるんだ?それをお前が書くんだ」


 紘一には島田が何を言っているのかがよく理解できなかった。


「どうして俺にそれが書けるんですか?」


 島田は確信に満ちた声で応えた。


「なぜか俺にはわかるんだ。これはそういうコマンドなんだ。さあ書くんだ」

共にNAROW異世界を破壊せんとする同志たちよ、今こそ諸君の★★★★★とブクマが力となる!

強大な敵を滅ぼすために、ぜひとも諸君の力をこの禁断の書に!

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