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国境の町 2

「は・・橋田カルナ・・?」


 確かにそこに現れたのは、1000年にひとりの笑顔を持つという人気アイドル女優・橋田カルナに違いない。いや、正確に言うならかつて彼女がネットで「かわいすぎるローカルアイドル」と騒がれはじめた、中学三年生ごろのカルナである。


「橋田カルナのアバターか?だがしかし・・・」


「おいおい、他人の女房を呼び捨てはないだろう」


 そう言うとカイトは不自然なまでにひたすら笑顔のカルナの肩に手を回した。

 カルナは目を細めてカイトの目を見つめ、そして彼の胸にすがりつく。


「橋田カルナのアバターが作られたのは一度だけだ。それも現実世界で三日間限りの契約だったから、今ここに居るはずかない」


「それはちょっと違うな。正しくは三日間でログアウトする予定だった転生者の生存期間という契約だったんだよ。つまりその転生者はログアウトせずに、今も生きているということさ」


 カイトはカルナの身体を抱き寄せ愛撫しながら言った。

 そしてルートは身に危険が迫っていることを悟った。


「勇者さんよ、なかなか楽しかったが小芝居はこのくらいで終わろうか」


「お前は!」


「そうとも、俺こそは転生法適用第一号・ヤマダ様だよ。待っていたぜ小鳥遊灰音(タカナシ・ハイネ)


「なぜお前が生きている?いや、それよりもなぜ・・・」


「なぜ、お前に存在が気付かれなかったのか・・ってか?」


「・・・・」


 勇者ルートの姿をしたハイネは、会話をしながらも周囲の状況をスキャンしていた。

 しかし、そうして得られた情報は、この町が完全に閉じた世界であり、他のNAROW世界から孤立しているということであった。

 ヤマダはカルナの尻を撫でながら勝ち誇ったように、余裕の笑みを浮かべている。


「なあハイネ。お前今日が2020年4月2日のNAROW記念日だって知ってるか?つまりお前と俺がこの世界にログインしてから、今日で5844日になる。一日で十年を過ごす俺たちの時間でいうなら、58440年だぜ。六万年近くも生きていりゃ、神に近い存在にだってなれるってもんさなあ」


「・・・・」


「この世界でお前は限りなく強くなった。誰の世界にでも自由に出入りできるし、姿かたちも自由自在。設定だって自由にいじくれる。コードを勝手に書き換える事が出来るからな。しかしそんなお前にもひとつだけ自由にならないことがあった。それがソースだ。ソースこそがこの世界の真の神、お前は神に近い存在に過ぎん。だからこのNAROWの中核部分のコードだけは、お前にも書き換えることができない。そこでお前はいつかソースにアクセスするために、この国境の町にやってくるだろうと踏んで罠を仕掛けて待っていたのさ。しかし遅かったな。何万年待たせやがる」


「ここは国境の町では無いな。私にもわからなかったくらい上手く偽装しているが偽物だ」


「へっへっへ。お前に出来ることが俺に出来ないわけがねえだろ。俺はお前に気づかれぬように五万八千年以上もお前を監視していたし、こうやって罠を仕掛けることもできたのさ。俺はお前と同じ時を過ごして来た唯一の男だからな。つまりお前と互角の能力を持っている」


「ふん。年金をだまし取るために両親の死を隠し、腐乱死体と同居していたニート風情が私と互角だと?うるぼれるんじゃない」


 ハイネは背負っていた勇者の剣に手を伸ばした。


「おっと、バトルゲームを楽しみたいのか?それも一興だが、ここは俺の作った世界だぞ。この閉じた世界の中ではお前は単なる転生者に過ぎん。さて、神に近い存在である俺と、勇者ルートとしてどこまで戦えるのか見ものだな」


 ハイネは周囲に複数の殺気を感じた。

 先ほどまで人形だった女性キャラたちが、バトルモードになってハイネを包囲していた。


「なあ、ハイネ。戦いの前に俺はずっとお前に聞きたかったことがあるんだ。お前はなんで俺たちの安住の世界を壊そうとするんだ?転生法でこの世界にやってくる者たちが、お前に何か迷惑でもかけたかね?俺たちは現実世界では確かに負け犬だったさ。しかしNAROWは俺たちに、理想の自分になれるチャンスをくれた。ここでは俺たちは絶対の勝ち組になれるんだ。なのにお前は・・いったい何人の転生者の夢を打ち砕き、絶望の淵に叩き込んだ?まるで悪魔の所業じゃねえか。それも最強・最悪の悪魔だ。どうしてお前は悪魔になった?」


「どうして・・・だと?」

 勇者の剣を両手に持ち替え、身構えたハイネは答えた。


「キモイからにきまってるだろう。五万年以上たってもまったく発展性のない、十年一日にも満たないこのぬるま湯のような世界で、内臓抜き取られるその日まで、ガキみたいな筋書きの妄想エロ冒険ごっこに満足しているお前らが虫唾が走るほど気持ち悪いんだよ」


「なんだと?キモイとか、たったそれだけのことで悪魔の所業を繰り返してきたのか。。」


「悪いか。私はこの世界をもっとドラマチックに変えたいのさ。そのためにこれからもお前らのようなキモイ輩には、徹底的に地獄を見せてやる」


「カルナ!」

 ヤマダが手を差し出すと、カルナがその手に細身のロングソードを握らせた。


「悪魔め・・・このヤマダ様が貴様を成敗してやる!」


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