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国境の町 1

 広大な砂漠の真ん中に、その町はあった。

 それほど大きな町ではないが、周囲は高い壁に囲まれている。

 この町は、NAROWのすべての世界に通じている、通称「国境の町」である。


「止まれ。ここから先は管理者IDを持つ者しか入れない」


 町の入り口を護る番人ふたりが槍を交差させて、少年の行く手を遮った。

 麻のケープを纏った旅装束の少年は、外見はせいぜい15~16歳といったところのようだが、背中には巨大な剣を背負っていた。少年は革製のショルダーバッグをまさぐると、羊皮紙で出来たカードを取り出し番人に差し出した。


 そのカードを受け取った番人は、兜に仕込まれたスキャナーでIDを読み取る。

「管理者・勇者ルート。IDを確認しました、失礼しました勇者様。どうぞお通りください」

 ふたりの番人は槍を立てて入り口を開けた。その番人にルートが尋ねる。


「ちょっと聞きたいんですけど、ソースにはどこで会えますか?」


「それは私たちではわかりかねますねえ。とりあえず設定局に出頭してください。町に入ってすぐ左手にある、人形店が設定局の受付になります」


「ありがとう」


 ルートが町に入ると、すぐに店頭にマネキンのような等身大人形が数体並べられた商店があった。

 店先には、店番の親父といった雰囲気の中年男が椅子に座っている。


「すみません、ここは設定局の受付ですか?」


「ここはキャラクター屋で、俺はキャラ職人だよ。女性キャラが専門のカイトという者だ。まあそれと確かに受付も兼ねとるがね。まずIDを見せてくれ」


 カイトの言う通りにルートは羊皮紙のIDカードを手渡す。


「ふむふむ。管理者IDを持つ勇者ということは、NAROW管理室の上級職員だな。この世界では少年の姿を借りておるようだが、実態は四十過ぎってところか。設定局に何の用だ?」


「ソースに会いたいんです」


 カイトは少し驚いたような表情をした。


「ソースに会いたいだと?それはこのIDだけじゃ無理だ」


「どうすれば会えますか?」


「ソースはめったに人に会わんかならなあ。うーむ・・必ず会える保証はないが、とりあえず申請書類を書くしかあるまい。ざっと20枚ほど書かねばならんし、書式ひとつ間違えると通らんがね、あんた運がいいことに、俺は代書屋も兼ねとる。一枚あたり3ゴールドだが、どうするね?」


「お願いします」


「じゃあ今日中に書式を取り揃えて、徹夜で書くから、明日取りに来てくれ。それとお前さん、見たところ一人旅のようだが、旅のお供に女性キャラはどうだね?俺の店はあらゆる世界からのオーダーに対応しておるが、直接ここにやって来れる転生者はほとんどおらんからね。ここならサンプルを見て選べるし、在庫もたくさんあるぞ。見るだけでも見ていけ」


 カイトに手招きされて、ルートは人形店の内部に誘い込まれた。

 店内は外観から想像したよりかなり広く、壁面にはたくさんの人形が並んでいた。

 等身大のアニメキャラの女の子のフィギュアのように見えるが、それぞれ衣装は身に着けておらず、ただビキニの水着だけを身に付けていた。


「どうだね?気に入った娘はおるかね」


「うーん。どうもアニメ風は苦手です。3D化されたアニメ絵というのが、ちょっと気持ち悪い」


「ああ、あんたは実写版のほうが好きなんだな。それならこちらだ」


 カイトは店内の反対側の壁面前にある仕切りのカーテンを開けた。

 こちらのコーナーは、カイトのいうとおりまさに実写版で、動きが無いことを除けば人間そのものである。


「すごいなあ。かわいい女の子がいっぱいだ。でもちょっと若すぎるかな。みんな15歳以下くらいに見える。そっちの方はまるっきり幼女だし」


「いやいや、見た目は幼いが全員18歳以上だよ。設定上な。異世界というの何でもありだと思うだろうが、いろいろ法的な規制も絡んでるんだよ。だから全員18歳以上。ちょっと起動してみようか」


 そういうとカイトが何か呪文のような言葉を唱えた。

 おそらくは音声入力で起動するのであろう。

 黒髪のおかっぱ頭の東洋的な顔立ちの少女の表情に魂が宿った。

 少女は黒い大きな瞳をルートに向けると、うれしくてたまらないといった笑顔を見せた。


「ああ、勇者様が来てくださったのですね。どうか勇者様、わたしを旅にお連れください。きっとお役に立ちます」


 少女がそう言いながらルートの足元に跪く。

 カイトがニヤニヤと笑いながらルートに囁いた。


「こう言っておるがね、どうするね?」


「あの、とりあえず一度シャットダウンしてもらえませんか」


「ありゃまあ、こんなに健気な女の子をシャットダウンとは、冷たい男だのう」


 カイトが再び何か唱えると、その少女は元の人形に戻った。


「すみませんでした。どうもこういう初手からベタ惚れパターンは苦手なんです」


「ふーん。じゃツンデレが好みなんだな。ではそっちの娘はどうだ?」


 別の少女を起動しようとするのを、ルートは慌てて制止した。


「いや、本当にすみませんが、ここに居る娘たちはちょっと若すぎます。せめて二十歳過ぎくらいならいいんだけど」


「なんだ。熟女好みか・・・ここでは需要が少ないから、別注になるな」


 どうやらこの世界では二十歳過ぎは熟女に分類されているようだ。


「それほど長くはここに留まれませんので、それはまた次の機会にお願いします。とりあえず今回はソースに面会するための書類の方だけお願いします」


「そうか・・それは残念だ。一人旅はつまらんだろうに。俺なんか愛する女房と長年連れ添っとるので幸せだぞ。そうだ、俺の女房に会って行け。呼ぶからちょっと待ってろ・・・」


 そう言うとカイトは店の奥のバックヤードに向かって大声を上げた。


「おーいちょっとこっち来て、お客さんにご挨拶しろ」


「はーい」


 軽くハスキーだが、若々しい女性の声が聞こえた。


「いらっしゃいませ~ようこそ国境の人形店へ♪」


 ルートはやって来たカイトの妻の姿を見て驚いた。

 有名私立高校の制服を模したコスチュームに身を包んだその美少女は。


「まさか・・・は・・橋田カルナ・・?」

共にNAROW異世界を破壊せんとする同志たちよ、今こそ諸君の★★★★★とブクマが力となる!

強大な敵を滅ぼすために、ぜひとも諸君の力をこの禁断の書に!

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