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3話

  第15惑星周辺宙域サンゴウ船内。生存者の収容機器を搬入した部屋である。


 3人の女性がほぼ同時に目覚める。飽きずにモニター前でガン見していたシンは心の中でこいつ動くぞ!などと一人ネタ遊びをしながら歓声をあげる。


「起きてくれたぞ!」


「はい。起きたようですね。ではまずは音声のみで意思疎通を試みましょうか」


 いきなり映像付きってのもそれはそれで有りなのだろうが、なるべくショックが少ない状態で意思疎通を始めたほうが良いのもまた事実であろうと、シンはなんとなく納得して了承する。


「こちらは宇宙船サンゴウの船内です。私は有機AIのサンゴウと申します。この会話は言語解析による翻訳で行われております。意思疎通には十分な翻訳がなされているとは思いますが、理解不能な言葉があったり、意味がおかしくないか? などと感じることがあれば申し出て下さい」


「まずここはどこなのか?なぜここに閉じ込められて居るのかなど疑問に思うことが多々お有りかと思います。ですが当船のAIの私および艦長は貴方方になんら危害を加える意思はありません。現在の状況をご理解いただくため、当船が持つ記録をそちらにあるモニターにて映像と音声で流します。映像の終了後質問など受け付けますのでまずはご覧下さい」


 怯えているのか言葉は一言も発せずただ3人で身を寄せ合っている。混乱の極致といったところなのであろう。そこへ映像と音声が流される。

 内容は救助を求める通信の受信から始まり、サンゴウからのベータワンへの通知、返信の受信、サンゴウの攻撃による賊の排除、そしてベータワンの捕獲から子機での3人の搬送収容までである。


 3人は真剣な面持ちでずっと無言のままモニターを見ていた。そして扉をこじ開けた場面での2人の遺体映像を見て涙を流した。


「映像はここまでです。ご自身の状況はご理解いただけましたでしょうか?」


「理解しました。助けて下さってありがとうございます」


 1人が気丈な面持ちに変わり返答。ついに言葉を発した。その声をモニター越しに聞いていたシンは美声に感動していた。


「先ほどの映像は、不要と思われる当船内でのサンゴウと艦長の会話はカットしているものの、それ以外は特に加工がされているものではないと宣言しておきます。そして、とりあえず食事をなさってもらい、落ち着いてから艦長とモニター越しになりますが、面談をという段取りを考えています。なにか不都合な点ございますでしょうか?ああ、あとお名前だけでも教えていただけると助かります」


「ごめんなさい。まだ名乗ってもいなかったわね。私はベータシア伯爵家の長女ロウジュ・ハ・ベータシア。私の右手を握っているのが次女、左手を握っているのが三女。それぞれ自分で名乗らせたほうが良いわね。私のことはロウジュと呼んで下さって構いません。この度の救出本当に感謝しております。ほら二人ともちゃんと名乗ってご挨拶を」


「次女のリンジュ・ハ・ベータシアです。助けて下さってありがとうございます。リンジュとお呼び下さい」


 続いてもう一人が名乗りをあげる。


「三女のランジュ・ハ・ベータシア。助けてくれてありがとう。ランジュ呼びでよい」


 3人が名乗ったところにひょっこりと壁を抜けて子機がやってくる。球体部分がパカッと開いて、中にはパンのような物と、湯気が立つ見た目で温かいとわかるシチューのような物。そして水が3人分。男のシン視点でも、これ3人で食い切れるのか?って程の十分な量である。

 サンゴウからは食べられそうか?という確認だけは入り、長女から問題なしの返答がなされた。分量的には足りないよりは残されるほうが良いという判断なのであろう。


 そして食事が始まるのだが、そこを監視のように眺めるのはさすがに無粋であるだろうし、気が引けるシンである。なので、サンゴウには食事が終わるまでは緊急時を除き映像OFFを頼んだ。


「サンゴウさん。美味しくいただきました。ありがとうございます」


 ロウジュが代表してなのか、モニターに向かってそう呼び掛ける。


「はい。では食器などは子機の中に戻して下さい。艦長との面談は行えそうですか?時間が必要ならもちろんお待ちしますので遠慮なく申し出て下さい」


「いろいろとお気遣い感謝致します。クルーや従者を失った悲しみはもちろんあります。気持ちの整理が完全についているかと問われればそれも否です。ですが、私たちは隣の星系との中間にある中立コロニーに向かわねばならないのです。時間が限られているのでのんびりとしているわけにもいかないという事情もあるのです」


「そうですか。ご自身の事情も含め艦長との面談でお話されると良いかと思います。では艦長との面談を始めますね」


 そうしてついにシンは美人のエルフさんと初めてお話することになるのである。感動のご対面である。


 ファンタジー世界で勇者やってたくせに、シンはエルフさんドワーフさん獣人さんといった方々と接点を持てなかった。

 というか、召喚拉致を行った国は、人族至上主義の王国であり、王都で人族以外は迫害されていた。人族以外が下手に王都に入ろうものなら、無条件に切り殺される危険すらある場所なのである。 

 そんな王都にいわゆる亜人さん扱いの種族が寄り付くはずもなく、シンは王都隣接のダンジョンでひたすら魔物を狩って修行する日々。王都ダンジョンのコアは、魔王城へ人族が飛ぶことの出来る唯一のキーアイテムであったこともあり、ダンジョン攻略からの対魔王戦。その後の流れは第一話冒頭に繋がるので、ついに勇者時代にシンはエルフさんを直接目にすることはなかったのである。

 せっかく異世界ふぁんたじーしてたのに!知識としてのエルフさんの存在はもちろん知っていたのだが。


「初めまして。艦長の朝田信です。家名が朝田で名が信ということになります。家名があるのは祖国の風習であって、祖国の国民全員に家名があります。ですから貴族であるとかそういうことではありません。艦長あるいはシンと呼んでいただいて構いません。では面談を始めたいと思います」


 異世界あるあるの家名があるのは貴族だろ!をさっそく潰しに入るシンなのである。実はこの世界においては平民階級でも家名を持っている。よって、家名=貴族が常識ではないのである。シンの言葉を聞いてロウジュ達3人は、きょとんとした顔になるだけだったりする。


「初めまして。ベータシア伯爵家の長女ロウジュ・ハ・ベータシアと申します。こちらが次女のリンジュ。そしてこちらが三女のランジュと申します。サンゴウさんより伝わっておられるかもしれませんが改めてお礼申し上げます。この度の救助。本当にありがとうございました。そしてこの面談は、代表で私がお話させていただく形で良いでしょうか?」


「ああ、もちろん構いません。ただ、リンジュさんやランジュさんにどうしても直接確認したいことがある場合は、その限りではないということで了承いただきたいな」


「はい。それでお願いします」


 こうして面談が始まったわけであるがシンの内心は歓喜に溢れている。美人エルフさんとお話!美人エルフさんとお話!ホントにヤバイ勇者である。むろん、それを表情に出すことはないので一応問題ないのであるが。


「さて、何から話すべきか。うん。まず、護衛艦も無しに輸送艦のみで航行していたのは何故だろうか?また輸送艦の目的は何だったのだろうか?」


「はい。輸送艦のみでの伯爵領内星系の航行は普通のことです。まがりなりにも軍艦であるので最低限の武装はありますし、軍に喧嘩を売る馬鹿な賊は普通は有り得ない存在ですので。輸送艦の目的は隣接星系との中間点にある中立コロニーへ私たちを運ぶことですね。もちろん交易品も積んではおりましたが」


 シンは当然知らないが、軍用の武装は軍以外に建前上は流通することはなく、中古払い下げのような扱いでも厳格に管理され、財力の低い貴族の領内軍へと流れていくのである。もしくは完全廃棄でスクラップである。

 したがって通常の賊の武装というのは民生品もしくはその改造品であって軍の武装よりもかなり劣る。そして、民間船を襲うにはそれで十分であったりするのであった。

 だが、何事にも抜け道、裏稼業というのは存在する物であり、極少数の賊に限られた話ではあるのだが、軍用の武装を非合法で手に入れていたりするのである。


 そうした極少数の限られた賊というのは、当然狙う獲物もそれなりの物になるし、入ってくる美味しい獲物の情報のルートも確保されていたりする物なのである。また、闇で請け負う襲撃の仕事の質も当然それなりの物になる訳で、今回の賊はそういう部類であったというだけの話である。


「そうなのか。そういう物なのか。実は私達は超空間での移動中の事故でね。元の宙域がどこだかもわからないほど遠い現在位置に出てしまったんだよ。なのでこの星系の事情、国の事情、銀河の事情というものが全くわからないんだ」


「それで納得がいきます。この船。このような船が配備運用あるいは開発されているなんて聞いたことがないですもの。賊との戦闘映像からわかる戦闘能力も有り得ないほど高いですし。全く情報が入らないような遠方で作られた物であればそういうこともあるのでしょうね。そもそも今話している共通語が、言語体系が違うので翻訳をとおっしゃる時点で異文明の方だと察してしまいますしね」


「ああ、確かに。この艦は特別製だ。有機AIのサンゴウも含めてな。そして、そうだな間違いなく俺もサンゴウもこの艦も異文明の産物にあたるだろうよ。少なくともこの銀河においてはだがね」


 いくらシンでも、なかなか本題である、「助けた対価としてこの銀河の情報を知る限り全部くれ」というのはさすがに切り出しにくい。そもそも相手はお礼は述べるが謝礼についてとか、対価としてという話を一切しないのである。


「さてと、お互いの理解が若干なりとも進み、少なくとも危害を加える気は無いという程度の信頼は得られたと思うのだがどうだろうか?」


「そうですね。性的に襲うつもりであるのであれば今現在の状況は有り得ませんし、全面的に信頼しているとまでは言えないのですが、信頼したいと思っていますし、信用してお願いするしかない立場だとも思っておりますよ?」


「お願い。ですか?どんなお願いなのでしょう?それとそのお願いに対する対価という物は?」


「当初からの目的地である中立コロニーへ私達3人を送り届けていただくことがお願いとなります。そして対価についてですが。救出していただいたことの対価も含めてのお話になります。私達は当主ではないため自由になる財産はささやかなものですし、当主であり父である伯爵に報酬をお願いすることまでしかできず、決定権はあくまで当主にあるのです。なので対価はこれです!というお約束は出来かねるのです。どうしたら良いでしょうか?」


 ここだな!この流れで知識を要求は可能であろう。とシンは判断を下す。


「そうですか。ではまず確認なのですが。今現在私達が確保している賊の艦や小型機体の所有権というものはどうなるのか?ベータワンについてはどうなるのか?をお聞かせ願いたい」


「賊に関しては、所有権は討伐した取得者にあります。ベータワンに関しては軍の所有艦ですので、もしも、破壊された場合はその宙域を特定し、可能な限り回収をし、スクラップ処理。までが軍の義務となります。これは軍用の武装を軍以外に利用されないための措置であり法で定められています。しかしながら、その、今回のケースでは、ベータワンの艦自体を確保なさっておられるのですよね?大変申し上げにくいのですが確保している場所の情報を軍への通知が求められ、曳航引き渡しが要求されます。金銭での謝礼は出るはずですが、それが納得出来る妥当な額かと問われればおそらく否となるでしょう」


 ベータワンの艦体に関しては、あまり聞いて気分の良い内容の結末にはなりそうもないなとしか考えられなくなってきたシンである。しかしながら、曳航という言葉が出る時点でおそらくこの銀河の住人には収納空間の技能はないのであろう。

 となると、まさか持ったまま移動しているというのは想像外のお話になるであろうし、どこかに置いてある、あるいは隠してあると考えるのが妥当である。

 そして、今現在収納空間に入っている艦体を、シンが持っていると証明する手段は、この銀河の住人にはないハズなのである。

 知らぬ存ぜぬで持ったまま逃亡も可能ではある。最悪でも証拠隠滅で、サンゴウに全てエネルギーに変換で吸収してもらうという手段まである。さてどうしたものか。


「なるほど。ただ確保場所に見張りが居る訳でもない場合、そこから盗み出されるなんてことも有り得ますよね?そうなった場合の責任というのはどうなるのですか?」


「そうですね。前例から言えば、軍からお小言というか嫌味を言われながら、本当に隠して確保していないかの取り調べを受けて、無罪であれば放免ですね」


 おーけー!わかった!軍の態度しだいで持ち逃げするかどうかを決めるとしよう。などととても不穏な思考に傾くシンである。


「鹵獲品に対することはわかりました。そろそろ本題というか艦長としての対価要求を述べさせていただきます。先に申し上げた通り私達は、この銀河の知識が全くと言っていいほどありません。ですので可能な限りの情報提供をお願いします。もちろんご当主である伯爵様からは、ご当主が判断される報酬を別途モロモロの対価として受け取りたく思います。それでいかがですか?」


「はい。当家の機密事項とか、帝国の対外的にオープンにしていない情報については、私の判断でお伝えしないこともあるというのをお許しいただけるのであれば。可能な限り知識の提供に応じます」


「ええ。それで大丈夫です。良かった。情報提供して貰えないと中立コロニーの場所さえわかりませんからね。本当に良かった」


 一応チクリとできるだけ情報開示しておくれよーアピールをしておく。まぁホントにヤバイ情報は逆に提供されると困るかもしれんがな!危うきには近寄りたくないシンなのである。


 そうは思いながらも、過去には無意識に色々と首を突っ込んだりしているシンなのであった。

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[一言] 助けた補給船のコンピューターに相当するものからも当然情報を入手しているのでしょうね。
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