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第二話 いじめ

私立夕顔学園高等部二年八組、クラス委員長縁取黒江(へりとりくろえ)

 彼女は、クラスの大半が集まりガヤガヤと賑わっている時間にいつも登校している。

 黒江が教室のドアを開けると、それまでの喧騒はまるで嘘っであったかのように教室内は静まり返った。

 しばらくすると、喧騒の代わりに大勢からは同情の視線が、一部からは冷笑が向けられる。

 黒江は、そんな視線を無視して自らの席へと向かう。

 しかし、黒江の席は見るも無残な状態になっていた。

 机の上にはペンか何かで書かれたと思われる大きな文字で《ブス》《学校に来るな》《バカ》《クズ》《クソビッチ》などなど…目を背けたくなるような言葉が至るところに書かれている。

 教科書類は全部持って帰っている為無事だが、机で無事なところは一つもない。

 黒江はその様子に眉一つ動かさず掃除を始める。

 雑巾を持ってきて、教室においてある掃除用のアルコールで机を拭く。

 すると、数人の少女が黒江の元へ歩いてきた。

 その中で、中心人物と思われるけばけばしい少女が話しかけてくる。


「あらら~大丈夫、縁取さん。毎朝大変だね~。手伝ってあげようか?」


 その言葉で、取り巻きの少女たちは声を上げて笑う。

 そんな、明らかに挑発するような言動に対しても黒江は動じない。


「別にいいわよ。この程度すぐ終わるし」


「いいの~?せっかく親切で言ってあげてるのに」


「ええ、構わないわ。そもそも、こんな猿みたいに低俗なことしかできないような連中のことなんて放っておけばいいのよ。ねえ、そう思わない、お猿さん?」


 少女たちの方を見ながら、黒江は挑発を挑発で返す。

 その言葉を聞くと、すぐにその少女たちは怒りを顕にした。


「はあ?なに、アタシたちのこと馬鹿にしてんの?」


「あら、あなた達だなんて一言も言ってないわよ。私は私の机を荒らした誰かさんたちに言ってるのよ」


「明らかにアタシたちの方見ながら言ってんじゃん。ナメてんの?」


「別に、会話をしている人を見るのは人として当然でしょう?それなのにヒドイ言いがかりだわ。それとも、なにか心当たりでもあるの?」


 黒江がそう言うと、少女たちは押し黙る。

 黒江はそんな少女たちを無視して言葉を続ける。


「まあ、別に何でもいいわ。誰が犯人であろうと、私には全く関係ないもの。こんな些末な悪戯、私には何の影響も及ぼさないわ」


 黒江はそう断言した。

 少女たちは、黒江を恨みがましく睨んでくる。

 不意に、少女たちの思考や思考が黒江に流れ込んでくる。


 ―――――『偉そうに』『だからアンタは気に食わないのよ』『死ねばいいのに』『その強がりが何時まで続くかしら』『次は直接やってやる』『その生意気な顔に一生残る傷跡付けてやる』『消えてしまえ』『殺してやる』『次はどうしようかしら』―――――


 キーンコーンカーンコーン

 黒江は少女たちの思考に飲み込まれそうになったが、始業のチャイムの音で我に返った。


(いまのはヤバかったわね)


 黒江は内心冷や汗をかいていた。

 あと一歩で取り返しのつかないところまで侵食されそうになった。


(ホント、何なのかしら…この妙な力)


 黒江は中等部に入学したあたりから、たまに他人の感情や思考が流れ込んでくる事があった。

 タイミングはいつもバラバラで、どんな瞬間に発動するのかまるで分からない。

 自らの意思で使おうとしても使うことはできず、発動しても抑えることすらできない。

 流れ込んでくる感情は激流のようで、気を抜いたら意識を奪われることもある。


(本当に使い勝手の悪い力…)


 思わず頭を抱えたくなる。

 しかし、そんなことをして弱っている所を見せれば、いじめを助長させるだけ。

 だから、黒江はいつものように演じる…完璧な自分を。


「ねえ、縁取さん。大丈夫?」


 気を落ち着かせていると、後ろから声をかけられる。

 振り向くと、後ろの席の少女が心配そうにこちらを見ていた。


「ええ、大丈夫よ。気にしないで」


「あの、ゴメンね…私、あの人達が縁取さんの机に落書きしてるの見てたんだけど…怖くて止めれなかった……」


「だから、気にしなくて大丈夫よ。そんなことをしたらあなたまでいじめられるかもしれないわ。気持ちだけで十分よ」


「う、うん…その、縁取さん、先生やご両親に相談とかは?」


「してみたけど無駄ね。先生たちはことを大きくしたくないみたいで、見て見ぬ振りをしてるわ。両親にも心配かけたくないから話してないし」


「そ、そんな…」


 少女は愕然とした表情になる。

 学校の怠慢を知れば、生徒としては当然の反応だろう。

 しかし、それだけでは無く黒江のことを思ってショックを受けているようだ。


(この子がここまで気遣う必要なんてないのに)


 黒江はそんなことを思っていた。

 少女は今も黒江の現状をどうにかしようと俯きながら必死に考えている。

 すると、少女は何かを思いついたのか、勢いよく顔を上げた。

 そして、少女の口から放たれた言葉は、黒江にとって予想外のものだった。


「ねえ、縁取さん。ミステリー研究会に相談してみたら?

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