第一話 プロローグ
「ねえ、人間の本質は何だと思う?」
黒江の目の前に座る怠惰な少年はそう尋ねた。
黒江に聞いたのか、それとも黒江以外に聞いたのか…
誰に聞いたのかすら分からない、抽象的な問いかけだった。
しかし、困惑する黒江に反して、部屋にいる他の六人は口々に言った。
「人間の本質は傲慢だ。他者を見下し、蔑み、自らの優位を誇示する。だからこそ、上下関係なんてものが生まれた」
傲慢な少女はそう話した。
「人間の本質は色欲よ。生物としての繁殖行動こそが本質。だって、生物であるなら、誰しもが持ってるものだもの」
色欲な少年はそう語った。
『人間の本質は憤怒。憤り、怒ることこそが原動力。だから、人が何かを起こす時は怒りが原因』
憤怒な少年は手持ちのフリップボードにそう書いた。
「人間の本質は嫉妬だよ。自分が持っていないものへの妬み嫉み。それが、人間が何かを生み出す切っ掛けだよ」
嫉妬な少女はそう述べた。
「人間の本質は暴食です。人間は決して満たすことのできない飢餓を誰しもが抱えたまま生きています。そして、その飢餓こそが人間が生を実感できる唯一のものです」
暴食な少女はそう説いた。
「人間の本質は強欲だ。人間の欲望に際限はない。だからこそ、人間は進化を続けて生き続ける」
強欲な少年はそう断言した。
「人間の本質は怠惰だよ。人間は争うことで進化し、発展を遂げていく。にも関わらず、心の何処かでは常に停滞と平穏を願っている」
そのすべてを聞いた後、最後に怠惰な彼はそう言った。。
少年はそう言った後笑った。
ほの暗く、凄惨に。
“さあ、君の答えを聞かせてよ”
黒江はそう投げかけられた。
七人全員の意見を聞いた後、自らの答えを出すのがここのルールらしい。
黒江は瞑想し、考える。
目を瞑り、今までの自分を考え、周囲を考え、人間を考えた。
そして、目を開き、言葉を発した。
「私が思う、人間の本質は――」
黒江の言葉を切っ掛けに、停滞していた怠惰な物語は動き出す。
黒江自身も、その物語で巻き起こるトラブルに巻き込まれていく。
そうして、私立夕顔学園高等部ミステリー研究会を舞台とした物語は幕を開けていく。