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男子三日会わざれば刮目して見よ。
この言葉は、三日もたてば男は成長しているものだという教えを説いた慣用句だ。しかしこの言葉、もはや時代遅れと言わざるを得ない。なぜなら、昨今の男女平等主義に則れば、女子もまた男子同様に成長するのは自明の理であり、つまりは女子の成長にも同じく刮目しなくてはならない。それが3日でなく1年ともなればなおさらだ。
だから俺は、そのありがたい言葉を胸に、目の前の少女の成長を刮目して見ていた。
「これ、おいしいぃぃ~~~っ!!!」
少女が歓声をあげて体を悶えさすたび、彼女の持つ豊かな胸部の膨らみが後を追うように揺れる。
スタンドネックの白いノースリーブに包まれた2つの果実を、俺は過去の記憶と照らし合わせながら眺めていた。
揺れる。揺れる。πが揺れる。いや、2つあるから2πか。
Oh ! two pai ! 略しておっぱい!
……うん、おかしい。あ、俺の頭がじゃなくて。
何がおかしいって。
エマってこんなに、おっぱい大きかったっけ。
「ホントにおいしいっ! ありがとね、ユウト!」
「えッ!? あ、お、おう……」
急に声をかけてきたエマに俺は慌てて目線を上げる。
胸を凝視していたなんて知られたら……どうなるかわからないが、少なくともろくなことにならないだろう。何より俺が恥ずかしい。
下卑た視線を送っていたことがバレてないか心配だったが、当のエマは特に気になった様子はないらしく、俺に満足そうな笑みを向けると、再び手元のステーキへと手を伸ばした。
今俺たちがいるのは中心街の一角に店舗を構える行きつけの料理店だ。値段が良心的なので仕事帰りとかによく寄る。ちなみに24時間営業である。
そして先ほどからエマが大袈裟に舌鼓をうっているのは、この店の名物『おまかせ肉のスペシャルステーキ』だ。
なにがおまかせって、何のモンスターの肉が出てくるかわからないところ。
え、これって食用なの? と目を疑いたくなる色や匂いの肉塊が提供されることもあるが、現在エマの皿に乗っかっている分厚い肉は、見た目的には特に問題なさそうだった。
いやそれにしても……。
ゴクリと唾液を飲み込む。
ダメだとわかっていても、再び目線が下へと引き寄せられる。肉ではない肉塊に。これが万乳引力というやつか。
今更ながら、目の前の少女がエマであるという事実に疑問を抱かざるを得ない。
最初に注目すべき彼女の変化が胸の膨らみと言うのは何とも下賤な話だが、それほどまでに彼女の胸部はこの1年で激変ともいえる成長を遂げていた。
それだけではない。
厚手のローブを脱いで露わになっている彼女の肢体は、全体的に健康的な丸みを帯びており、胸部とは対照的に引き締まった腰の曲線がこれでもかと女性らしさを強調している。肩から指先にかけてむき出しになった血色の良い肌つやが美しい光沢を放っていた。
「エマ。お前、なんか変わったな」
そんな感想がポツリとこぼれた。
彼女の見た目に対する変化からではない。……無論それも少しはあるが。
俺の知っているエマは、線が細くて、自信なさげで気弱な性格。
例えるなら、健気に立つ、けれども決して花を咲かすことのない蕾のような存在だった。
目の前で元気いっぱい肉にがっつくナイスバディ少女とは真逆の印象だ。
何より、前とは比べ物にならないくらい生き生きとしている。
「うん、そうだね。昔の私とはちょっと違うかも」
彼女自身も自分の変化には気づいているらしく、的を得ない俺の抽象的な言葉にも頷きを見せる。
「でも、ユウトも変わったよ。背も伸びたし……あと、少しやさぐれた?」
「俺の変わったところそれだけかよ……」
「でも変わらず、冒険者やってるんだね。すこし、嬉しいかも……」
エマはそう言って、俺の背中に携えられた剣を懐かしむように見やる。
そこでようやく、エマがあの市場の混雑の中で俺を見つけ出せたわけを理解した。
街中で黄金の剣なんて背負ってたら目立つか。
もう誰も見向きさえしなくなってたから、気にせずにいたんだが。
「ただ単に、他に生活する手段がなかっただけだ」
俺は頭をかいてそっぽを向く。無論、気恥ずかしさからではない。
昔のことを――俺がまだ勇者であった時のことを思い出してしまったからだ。




