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「文字通り路頭に迷っていた私は、頼るアテも無く、所持品もその時身に着けていた宝衣1着のみという状態でした。はぁ。……ここまでは大丈夫ですよね?」


俺たちを無視したまま、心痛な面持ちでリィウェンはなおも語り続ける。語り口がどこか仕方なく話している風に聞こえるのは気のせいだろうか。なんか腹立つ。


「結局、あの夜は西門の壁に背中を預けて眠ることになりました。寝心地は最悪でしたが、宝衣のおかげで寒さを感じることもなく朝を迎えられました」


 宝衣カリストーーリィウェンを選んだ宝位と呼ばれる宝の1つ。通称「生ける万能衣」。所有者に合わせて形状と能力が自由自在に変化する特殊な戦闘服である。万能というだけあって防寒にも優れていたらしい。


「しかし、目覚めたとき、私は異変に気付いたのです!」


「な、なんだって~~っ!? じゅるる」


 早い、早いぞエマ。驚きの相槌を入れるならこのあと。それと涎は拭こうな。

 何が何でも早く話を終わらせて菓子にありつきたいのか、エマはリィウェンの話をまるで聞いていなかった。

 旅のおかげでハングリー精神が鍛えられたのかもしれない。違う意味で。


「はは……」


 話の腰をへし折られたリィウェンは呆れたように苦笑いをしている。

 しかし、少し興奮気味になっていたのを自省するように溜め息をつくと、


「まあ、その異変というのが、これなんですけどね」


 そう静かに言って、メイド服の肩口を覆う白いフリルを両方の指でそれぞれ摘まんでみせた。メイド服全体が持ち上がり、衣擦れの音とともに胸部の膨らみが強調される。背筋が伸ばした状態で服を持ち上げたもんだから、中の形まではっきりと見えてしまいそうだった。

や、やっぱり、スタイルいいっすね……。

 俺は目線が下に向かいそうなのをぐっとこらえて、リィウェンの言葉に意識を傾ける。


「で、これというのは?」


「いえ、ですから、このメイド服が宝衣なんです」


「……は? その可愛さに全振りしたようなデザインのメイド服が?」


「はい」


「マジ?」


「マジです」


 リィウェンはこくりと首肯する。こんなやり取りエマともしたな。

 着れるものなら鎧だろうが何だろうがあらゆる装備に変化させられる万能衣。

以前のリィウェンは宝衣をカンフースーツ風の戦闘服に変化させて戦っていたが、まさか今はこんなふざけた姿に……。

だが、今の話しぶりから察するに、彼女の意志とは関係なく宝衣が勝手に形状を変化させている模様。しかし、よりによってこんな時代錯誤なメイド服に変化させるなんて……宝衣のやつ、なかなかセンス良いじゃねえか。


「その服、本当に生きてるみたいだな」


 率直な感想を口にする。


「ええ、私も驚いています。さすがは、この世界で最高の『宝位』に位置づけられる代物の1つ、といったところでしょうか。しかも、無理に脱ごうとすると、襟の形状を変化させて首を絞めつけて抵抗してくるんです……」


「それ、風呂とかどうしてんの」


「なぜか、入浴の意志を示すと不思議と脱がせてもらえるんです。一時的ですが」


 空気の読める服だな。

 それにしても、脱がせてもらえるって……なんか響きがエロいな。言葉だけ聞くと、露出癖のある痴女が普段は脱ぐのを我慢しているように聞こえなくもない。


「ちょっと脱いでみてくれ」


「殺しますよ?」


 リィウェンの拳から、メイドらしからぬペキパキという骨が鳴る音が聞こえた。宝衣の力で大幅に強化された身体能力から繰り出される剛拳……。喰らったら一発で死ねる自信がある。実際、魔獣は一発で頭吹き飛ばされてた。

ネコさんなんだから、ここは可愛く猫パンチ程度にしてもらいたいところだ。

 ん? ネコ?

俺はふと疑問に思ったことを口にする。


「まさかとは思うけど、その猫耳も……」


 リィウェンの頭上に装着されたカチューシャを指さしながら問うと、待ってましたと言わんばかりに猫耳がピンッと跳ねた。


「よ、よくぞ聞いてくれましたっ! そう、そうなんです、この猫耳も猫しっぽも全て宝衣が変化したものなんです!」


 リィウェンはまたもや興奮気味に言うと、俺たちに背を向けて、猫耳とメイド服の間のちょうど首筋あたりに人差し指を通した。その指の腹をよく見ると、何やら猫耳とメイド服を繋ぐように1本の糸が張られているのに気づく。


「ほ、ほらっ、見てください、ユウト、エマ! この猫耳、メイド服と糸で繋がっているんです! つまりこれも宝衣の一部なんですよ! 好きでこんなふざけた格好をしているわけではないんです、分かってくれましたよね!?」


「うん、リィちゃんがメイド服似合うっていうのがわかったふぉ」


「全然わかってないじゃないですか! あと、なに勝手に食べてるんですか!?」


 隣を見ると、エマが焼き菓子をハムスターみたいにもふもふと頬張っていた。今ので完食してしまったようだ。さっきから静かだと思っていたらこういうことか。しかもいつの間にか俺のぶんまで食べられてるし。

 俺は空になってしまった皿を惜しみつつ、適当に相槌を打つ。


「なるほどね。ということは、妙に猫耳との親和性が高いそのツインテールも宝衣の仕業ってわけか」


「えッ!? あ、え~っと、その……これはですね……」


 なぜか口ごもるリィウェン。まさか。


「この髪型は…………自前です」


 リィウェンは俺と目を合わせるのを躊躇うように下を向く。俯く顔は耳まで赤くなっていた。ちょっとコスプレ気分を楽しんでたのね、キミ。

 改めてリィウェンの髪型をじろじろと見つめる俺たち。真面目一辺倒でオシャレとかそういうのには興味ないと思ってたけど、意外と可愛らしい面もあるんだな。

思わず笑みがこぼれる。エマもニコニコしながら頷いていた。

 なごなごしい雰囲気ですなぁ。

が、リィウェンにとっては居心地悪かったようで、ガバッと勢いよく顔を上げて弁明を試みる。


「ち、違うのですっ! この服装に自然に合わせるのに最適かつ業務に支障がでない機能的な髪形を選んだというだけで……」


「大丈夫だよリィちゃん。猫耳と似合っててとっても可愛いと思うよ!」


「そ、そうですか……? って、そうじゃなくてっ!」


 しかし、エマの真っ正面からの誉め言葉を受け、更に顔を真っ赤に染め上げた。普通に返り討ちにあっている元勇者パーティーの一番槍の姿に、俺は少々複雑な気持ちを抱えながら口元を緩ませる。

世の女性が全員猫耳をつければ世界は平和になると思いました。

 


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