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 ウキウキで坂を上るエマを背後霊のようにフラフラとついていく。

 日差しも時間の経過とともに真上から降り注ぐようになり、王都の街並みも全体的にその明度を増している。路傍にさす影もより深い闇色になる。まさに今の俺の心理状況を表しているようだ。


「一人目から濃度100%じゃねえか……。ルシ――ルーシーのやつ、なんで前よりキャラが濃くなってるんだよ。イケメン冒険者で我慢しておけよ」


 まだあと2人も残ってるのかと思うとげんなりする。

 ところが、そんな俺とは正反対にエマは俄然仲間との再会を果たしたことを喜んでいる様子で、


「でもさっ、ルーシーちゃんは会ってみた感じ、けっこう手ごたえあったよね!」


 と、頭の中まで元気いっぱいお気楽娘になっていた。

 てるてる坊主のように纏った白いローブが彼女の動きに合わせて揺れるたび、影の形もゆらゆらと楽し気に変化する。

 日焼け対策はバッチリのようですね。


「お前それ本気で言ってるんだとしたら、もう勧誘は諦めて一人旅の続きをした方が良いと思うぞ」


 俺がそう痛言しても、エマはどこか腑に落ちていないようで、ほえ?とアホっぽく首を傾げる。


「え? でも、私が一緒に冒険しようって言ったとき、ルーシーちゃんは断らなかったよ?」


「あれはな、俗に言う『呆れてものも言えない状態』ってやつだ」


「もう~そんなこと言って~、ユウトったらネガティブなんだから~」


「自分の方がポジティブ過ぎるという考えに至らないのが、もう救いようのないポジティブだな」


 俺はあくまで現実主義者なだけだ。

 というわけで現実的な話をしよう。

 夢も希望もない現実の話を……。


「ねぇ。なんで俺たち、この坂のぼってんの?」


「そんなの、貴族街に用があるからに決まってるじゃん」


「ですよねぇ……」


 現実はいつも残酷。

 薄々嫌な予感はしていたのだ。王城が間近に迫りつつあるのに気づいたときに。

 中央街からさらに高地へ進むということは、それすなわち王城や貴族街が控える北部エリアに向かっているということであり、俺にとっては、過去のトラウマが抉り出される確率が非常に高い。

 嫌だ、行きたくないぃ!

 ここは男らしくビシッと断りを入れておこう。


「あの~エマさん? 俺、ちょっとお腹が痛くなってきたので早退させてもらってもいいですか?」


「えっ!? だ、大丈夫? 私が治してあげよっか?」


 そう言って、エマが背中の宝杖に視線を送る。

 そうでした。こいつの杖、なんでも治せるんでした。


「やっぱり大丈夫です……」


「痛くなったらいつでも言ってね? 一瞬で治してあげるから!」


 万物を癒す杖の存在が、こんな形で障壁になろうとは……。

 一瞬にして作戦が瓦解し、俺は思わず歯噛みする。なにも仮病まで治さなくてもいいのに。


「さて、ここで問題ですっ!」


 ジャジャン! と自分で効果音を付け足して、エマが唐突に声を上げる。

なんか始まったぞ、おい。


「私たちが次に会いに行く仲間はいったい誰でしょーか?」


「2択じゃねえか……」


「10秒以内にお答えください。チクタクチクタク……」


 指を振り振りカウントし始めるエマ。効果音がいちいち古くさい。まあ、憂鬱な気分を紛らわすにはちょうどいいか。

 正解はまだ会っていない2人のうちどちらか。

 1人は、身体能力強化と魔術耐性に特化した宝衣の使い手・リィウェン。

 もう1人は、この世界の最高位魔術である超級魔術が記された宝典の使い手・ミラ。

 う~ん、わからん。

 というか、2人のことを思い出そうとして真っ先に事務的な情報が出てくるあたり、あの頃の俺たちは仲間というより、一緒に戦ってた同業者程度の仲のだと思い知らされる。

 いや、頑張れば思い出せるんだけどね? でもこれ以上思い出そうとすれば過去のトラウマに触れる恐れがあってですね?

 ……なんか考えるの面倒になってきたな。


「じゃあ、ミラ」


「むーっ。じゃあ、その心は」


「じゃあってなんだよ」


 適当に言ったのが声のトーンでバレたのか、エマが少し不機嫌そうに頬を膨らます。このクイズ、再提出あるのかよ……。


「なんか目ざとくイケメン貴族とか捕まえて幸せに暮らしてるんじゃねえの」


「テキトーだ……」


 適当にひねり出したのだから当然だ。

 まあ、もし仮にそうだったとしたら、ますます勧誘断られるだろうけどな。悠々自適な貴族の生活を自ら手放す必要ないし。

 クイズに対する非協力的な俺の態度にテンションがダダ下がったのか、エマは呼吸のついでくらいの勢いで正解を発表する。


「ちなみに正解はリィウェンちゃんでした」


「え!? あのリィウェンがイケメン貴族と!?」


 それは意外過ぎる。

 いや、容姿とかの問題ではなく、あいつの性格的にそんなタイプではないと思っていた。……のだが、どうやらそういう意味ではなかったらしく、エマが驚き混じりに否定してくる。


「なんでイケメン貴族から離れないの!? 違うよ、リィウェンちゃんはね、貴族の屋敷で奉公人として雇われてるんだって!」


「うわ、なんか一気にあいつらしいな……」


 なるほど、そりゃ納得だ。奉公、雇われてる、あたりが特に。

 リィウェンという転生者の性格を一言で表すとしたら『真面目』以外に思いつかない。しかも頭に『バカ』がつくほどの。

 例えるなら、学園ものアニメの委員長キャラを擬人化させて特性強化させたような人物だ。

 奉公人とは、いわゆるメイドというやつである。衣食住に困らず生活も安定しているため、王都でも人気が高い職業の1つだ。堅物のリィウェンらしい堅実的な生き方だと言える。


「すごいよね~、貴族街で働いてるなんて~」


 エマが坂の上にそびえるグランデア王城を眺めながら言う。その城下には大豪邸とも呼べる建物の装飾過多な外装も見えてきた。

王城の白色が鮮明に映るにつれ、過去のトラウマが掘り起こされそうになる。必然、足取りもますます重くなっていった。はぁ。


「ユウトはやっぱり貴族の人たちって嫌い?」


 俺の心中のため息が聞こえでもしたのか、腰に手を当てながら覗き込むようにしてエマが尋ねる。前かがみになって豊かな胸元を強調するような仕草に、俺は思わず目を逸らす。

無意識にこういうことしてくる女子っていたよねー。ほんと、ありがとう(やんなっちゃう)。おい建前、仕事しろ。


「き、貴族なんて好きになる要素がないだろ。それに、“やっぱり”ってなんだよ。べっ、別に、宝剣の力を失ってめちゃくちゃ怒られたときのことを根に持って王都滅びろとか言ってるわけじゃないんだからねっ! 純粋に王都が滅びてほしいって思ってるだけなんだからっ!」


 やましい心を悟られないよう、早口でまくし立てる。


「やっぱり根に持ってるじゃん! ……それと、なんか口調が変になってるけど大丈夫? お腹痛い?」


「そ、そういうネタだよ……。気にすんな」


 普通に心配されるとなお恥ずかしい。

 ああ、お腹より心が痛い。

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