少し戻って、あの世から 3
「か、神様、何か引き込まれそうなんですけど?」
「それで良い。そのまま力を抜いてゆだねるのじゃ。そうすれば誠君の魂は、新しい体へと移る事ができるのじゃよ」
「そうですか」
「うむ、それで誠君の魂が移ったと同時に、エルデリード世界へと自動的に転送される事になるのでな、わしとはここで一旦お別れじゃ」
「え? いきなりですね」
「まあ、これ以上はエルデリード世界への干渉につながる可能性があるからの。わしはここまでしかしてやれないのじゃよ」
「神様世界の縄張りみたいなものなんですか?」
「いや、一応これでも、ここらの区域世界を見守る。高位神じゃからの。世界そのものへの干渉は、誠君達のような、各世界に存在する世界神以外は厳禁とされておるからの」
はあ、神様の世界も結構、規律に縛られているんだな。
「とにかく、誠君には簡単な着物と、当面の金銭は持たせておくからの、取り出すときは念じれば時空収納から、念じた分だけ取り出せるから当面はそれで過ごしてほしいのじゃよ。そこでエルデリード世界の事や、魔法や神聖術、それからその世界に住む人々を直接見て感じ、人々の求めるものを見つけ出し、成長した誠君が、自分の理想とするエルデリード世界を築いてほしいのじゃ」
「思ったより、大仕事ですね。僕にできるんですか?」
「できると思ったからこそ、ここに来てもらったんじゃよ」
ん~、期待が大きいなあ。
でも、どのみち転生するしか道が無いんだし、とにかく頑張ってみるか!
「どこまでできるか分かりませんけど、頑張ってみますね」
「ああ、頼んじゃよ・・・ああ、それとじゃな、エルデリード世界についたら、巫女とよばれる職業スキルを持った者を探すとええ」
「巫女さんですか?」
「うむ、巫女は、神々の従者であり、友人であり、大切な眷属となってくれて、色々な外敵等から守ってくれる存在じゃよ。特に誠君のような幼生体の時は必要じゃからの」
「それはどうやって探せば宜しいのですか?」
「近づけば自然と分かるし、心が通じ合えば眷属にできるからの」
なるほど、当面はその巫女さん探しが目標になるか。
「分かりました。ちょっと漠然としていますけど頑張ってみますね」
「頼んだぞ」
神様とのやり取りをしている間に、僕の体、魂を具現化したものらしいけど、その体がかなり透け始めていた。
意識もかなり、希薄な感じだ。逆にもう一つの自分だろうか? そんな存在も確かに感じ始めている。これが新しい僕の体の感覚なんだろうか?
「うむ、もうじき完了するようじゃ。」
「はい、色々ありがとうございました」
「いや、わしらの方こそ、誠君にエルデリード世界を託す事が出来て一安心じゃよ」
笑顔の神様に僕も笑顔で応えた。
「そうだ、最後に一つ質問していいですか?」
「なんじゃ? なんでも聞いていいぞ」
「はい、えっとエルデリード世界の今いる神様ってどんな神様達がいるんですか?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・あの~?」
「よし、完全に魂を新しい体に定着できたようじゃ!」
「あの~」
「誠君! いや! マコト・エルデリード神よ! 人々の希望となる神になるよう精進して欲しいのじゃ!」
「あの~!!」
なんだ。神様の目に落ち着きがないぞ? まさか何かあるのか?
「・・・・その、だな、ほ、他の神はおらん! 全て堕落しエルデリードの何処かに引き籠ってしまったのじゃ! その堕落した神々の主神、世界神の代わりが、マコト君なのじゃ」
はあ~!? なんだそれ?
「じゃから、エルデリードの住人は神に見放されたと思っておっての、その信頼回復もお願いしたいのじゃよ」
「そんな事、最初に言ってくださいよ!」
「まあ!君ならなんとかなる!」
「そんな、無責任な!! え?」
一瞬だった。目の前が一瞬で真っ暗になったのだ。
「心配せんでもええよ。意識が完全に新しい体になじんだ証拠じゃよ。今はこの器の中におるからの、視界には暗闇しか映らんからの」
「ちょ、ちょっと待ってください! さっきの話・・」
「転送座標確認」
なんだ? 急に機械ボイスみたいな女性の声が聞こえたぞ?
「転送まで、あと5秒、4.3」
「い?! ちょと! 神様!! まだ話は終わってな・・」
「2」
「あとはよろしくじゃ! そうそう楓君にもよろしく言っといてくれ。それとその体は可愛らしい女神にしてあるからの! 存分に楽しんでくれ給え!」
「1」
「はあぁ?! 女神なんて聞いてないぞ!! 神様~!!」
「0」
「何を楽しむんだよ!!! あほー!!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「行ったようじゃの。マコトよ、大変じゃろうが、お前さんならできると思っておるからの。エルデリードの世界で神の威厳の回復を頼んだぞ・・・・」
遠い目をしながら、涙ぐむような仕草をする神だった。
「ビー!ビー!ビー!」
マコトを送り出した神様の居る空域に、そこには似つかわしくない機械的な警報音がけたたましく響いた。
「な?なんじゃ?」
「マコト様の転送軌道上に何者かが侵入し、転送座標を狂わされました」
神様の問いに、これもまた機械的な女性と思われる声が、抑揚の無い喋り方で答える。
「な! なんじゃと!! 至急座標の修復を!」
「不可能です。こちらからの干渉はこれ以上できません」
「く! どこに転送されるか確認できるか?!」
「現状では、確認できません」
「・・・・い、いったい何が起きている? こんな事が出来る者などそうそう居ないはずだが?」
「推測されますのは、悪魔か引き籠る元神が考えられます」
機械の声に推測に神様の表情は思わしくないモノを聞いたと険しくなっていた。
「まったく、また一からなのかの? わしが直接行ければ良いのじゃがな・・・」
神なのに、それに似つかわしくない表情をする神様だった。
・・・・・・・・・・・・・・
ヴォン!!
「うおっ?!」
僕は、突然暗闇だった場所から、一気に明るい場所に投げ出されて感覚を体感していた。
眩しくて、目がすぐには開けられないな。それになんだか浮遊感があるんだけど?
僕は、目を細め光にならしていく。すると徐々に景色が見え始めて来た。
「凄い!! 綺麗な青空だ」
さっきの神階の空と良く似てはいるけど、雲の色が全然違う。白だけでなく薄いグレーや濃いグレー、その色が微妙に重なり合う自然の雲だ。
そう考えると、神階の雲って、ほぼ白一色だった気がする。
そんな事を考えていたんだけど、おかしい? 体に受ける風が下から上に勢いよく吹き上げていっている? いや、落ちてる?
僕の長い髪? が上へとたなびき、来ている簡単なワンピースの服が風で上へとめくり上がっていた!
「お、お、落ちてる~~~~!!」
上空何千メートルか知らないけど! 相当な上空から地上に向かって落ちてる?!
「これも修練なんですかあ!!」
僕は、神様に愚痴を言いながら、さらに加速をつけて落ち続けていった。