王都での陰謀 14
「何? 王女が来られただと?」
「はい、3人の従者の方と何やら大旦那様にお渡ししたいと、荷物をお持ちになっております」
「なんだ? 借金の返済に何か持って来たと言うのか?」
「それは分かりませんが、何やらお話があるとかでお越しになったようです」
「・・・・・・分かった。奥の応接室へ通せ。それとあの冒険者組合のラーナとかいう、くそ生意気な女はいたか?」
「いえ、皆フードを目深に被っておりますので分かりにくいですが、あの女の様な大きな者は居なかったそうです。ただ全員女性のようですが」
「そうか、しかし3人も従えて来たのか? 王家にそんな人を雇えるほどの財政は無いはずじゃが? まさか別の所から借金をしたのか? それは良くないぞ、我が商会が独占してこその、乗っ取り計画だというのに、他の商会や国に手を出させてたまるか!」
アポなしの突然のフィル王女の来店で、色々と考え始めてしまうブルルロエ・バスクは、急ぎフィル王女を待たせている応接室に向かおうと思ったが、ある事を思いついて立ち止まる。
「そうじゃ、マホロ殿を呼べ!」
「マホロ、殿ですか?」
「そうじゃ! 今朝うちのバカ息子を従えてきたあの女だ! 名前を教えないのでこちらが勝手にそう呼ばせてもらう事になったあの女だ!」
「あ! はい!!」
ブルルロエの指図しに店員は急ぎ足で、部屋を出て行った。
「どういう要件で来たのか知らんが、もうこの辺りで計画を進めないと、教団から何を言われるか分かったものじゃないからな。あの竜女に働いてもらう事にしよう」
独り言をつぶやき、店員が彼女を呼びに行ったのを確認してから応接室に向かうのであった。
僕達が通されたのはかなり質素な応接室だった。窓も小さなものが一つあるけど、陽の光が直接入らないせいか、部屋全体が薄暗かった。
「まるで取り調べ室みたいだ」
「取り調べ室ですか?」
「え? あぁ、まあね」
「?」
アマネが困った顔をしている。僕も咄嗟に出た言葉だったが、それほどはっきりと覚えてるわけではなかったけど、昔こんな薄暗い部屋で、犯罪者を取り調べる部屋の雰囲気を思い出してつい言葉が出てしまったようだ。
昔の記憶が戻ってきているのかも?
ガチャ
「お待たせいたしましたな」
特にノックもせずにバスク氏がいきなり部屋に入って来た。マナー違反な気もするがここは、バクス氏の商会の一室。
持ち主が気にする必要も無いと言えばそれまでなんだけど、女の子しかいない部屋にオッサンがいきなり入ってくるのはどうかと思うけどね。
「いえ、急に押しかけてしまい申し訳なく思っております」
立場上は王女なのでこの様な態度をとるバクス氏を注意する事も出来るのだけど、それを敢えてしない、と言うより出来ないのだろうな。
何せお金を借りている本人なのだから。
なのか、王女は座っていた椅子からわざわざ立って、バクス氏を迎え入れ、お辞儀までしっかりとしていた。
それを当たり前のように上から目線で見るバクス氏の表情が凄く嫌なものに見えた。
ちょと、ひいき目で見てしまうのだろうか?
それでも、王女が立って挨拶するのだから、僕らも倣って挨拶しないといけないだろうな。
それで僕達もフィル王女に合わせバクス氏にお辞儀をした。
「王女様の来訪ならいつでも宜しいですよ。それに借金の支払い月の日ですからな。そろそろ、お越しになるのではと思っておりましたので」
「そう言っていただけると助かります。」
そして、バクス氏の椅子への腰かけを促す動作を確認し、フィル王女が座るのを確認してから僕らも座った。
「さて、今日お越しになった要件は一体なんでございましょうか? 借金の月々の返済は店舗で行えますから、それ以外でという事なのでしょうか?」
さすがに商人だな。そう言った事は目敏い。
「はい、実はその借金返済の件でご相談したい事がございましてお伺いさせていただきました」
「そうですか? それで今回はどれくらいご入用でございますか?」
ブルルロエは、至極当たり前の様に、懐から掌程の大きさの紙を取り出し、テーブルに常備してあった羽ペンを掴むと、その横に置いてある拳大の陶器で出来た瓶の蓋を開けて、その羽ペンを瓶の中に差し込んだ。
その後は、その髪にペンを置く手前で止めて、再度フィル王女の方を見る。
「それで、おいくらですか?」
なる程、それは小切手みたいなものか。
「いえ、今回はお借りするのではなく、返しに来ただけですので」
「はい?」
「パルティナ、アマネ様、お願いできますか?」
「分かりました。ではこちらを」
フィル王女の言葉に従って、パルティナさんが手押し車で運んできた例のものを、アマネが担いでテーブルの上に静かに置いた。
もちろん薄布を被せてまだ見えないようにしているので、これが何かはバクス氏は分からないだろう。
でも、結構大きいのに、アマネは軽々と持てるものだな。
どう見ても僕より重そうだもの。陶器で出来た器だけでも大の大人が抱えようとしても手が届かない程の大きさなんだ。相当思いはず。
「どうかしました?」
アマネが僕の考えていたことが分かったのか聞いてきた。
相変わらずアマネは僕の考えが分かるみたいだ。フードを目深に被って表情は見えないはずなのにね。
「い、いや。それよりフィル王女」
「は、はい。バクス様、今日はこれをお返しさせていただきたく足を運びましたの」
そう言って、フィル王女が腰を半分浮かすと、かかっていた薄布をファサっと取り除いた。
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