王都での陰謀 5
投稿いたします。
竜族現る!
「どこへ行かれたのやら。まったく情報が入らないとわの・・・」
薄い桃色の長い髪をなびかせて、うつろな瞳で遠くを見つめる美しい女性が、街の中央にある噴水広場の片隅に置かれてあるベンチに腰掛けていた。
「お嬢さん、どうかされましたか? ご気分でも悪いのですか?」
「はあ?」
「なんでしたら、私が良い診療所を知っておりますので、お連れしましょうか?」
「はああ?」
「い、いや、そのですね、そんなに着物を乱しながら、苦しそうにため息をつかれているので、ご気分が優れないのではと?」
その女性に近寄り、何やら言葉をかけて来たのは、高そうな身なりをした、ひょろっとした男だった。
その表情も少し、にやけ気味で、明らかにその女性に対して下心が見え隠れする軟派な男に見える。
はあぁ、どうしてこんな男ばかり寄ってくるのかの? あたいの情報では、この様に肩を露わにし胸元を強調した上に、太ももが見え隠れするように気崩した着物を着こなせば、男共が勝手寄ってきて色々な情報を届けてくれると聞いたのだが? どうしてこう色ボケ男子ばかり来るのか?
どうも色々と間違った情報を鵜呑みにし、実践していたが、思うようには事が運ばず、気を落としていたようだ。
「もういい、あっちに行ってもらえんかの?」
「そんなつれないね。こうして美しい君を心配してあげる僕を、そんなぞんざいに扱わないでほしいな?」
「いや、ぞんざいも何も、お主が勝手に寄って来たんじゃないのか?」
「はは、分かったぞ。照れているんだね? 僕みたいな綺麗な男に言い寄られたことがないのかな? 大丈夫。僕はとっても優しいから。その上、教団の幹部の息子だからね。お金も地位もあるんだよ?」
「教団?」
教団という言葉に、今まで視線も合わせなかった彼女が、急に男を伺い始めた。
「はは、そうだよ。僕は赤竜帝教団の幹部の一人で、この国最大の商会であるバクス商会の会長、ブルルロエ・バクスの息子、バルロナと言うんだ。君、僕と話が出来たことに事態に感謝していいよ」
「・・・・・・・・」
「びっくりした? そうか驚くよね? 僕みたいな金持ちでハンサムな男が、急に現れたんだからね。照れていてもしかたないか? 大丈夫。僕は優しいよ? 今なら特別にこの国一の宿泊施設で、豪華な夜を過ごさせてあげるから。僕と一緒に夕ご飯でもどうかな?」
男は、腰を変な形でくねらせて、人差し指を彼女の顎に着け、心持ち持ち上げさせ、自分の視線を無理やり見つめさせた。
「ぬし、その汚い手を引っ込めろ。あたいは今ある人を探しておるのよ。おぬしみたいな、軟弱な男を相手にしている程、暇ではない。そもそもあたいは、赤竜帝教団が好かんのよ。そのおかげであの赤竜の馬鹿が勘違いして、大騒ぎだったのだぞ?」
男の仕草に悪寒が走るが、彼女は毅然と男に対して、言い放つ。
が、男もさるものそれぐらいでは、女性を口説くのになんの障害も無いとばかりに、さらに顔を近づけてきた。
「君、あまり大声で教団の悪口は言わない方が良いよ? ほら僕の後ろにいる連中わかるかな? あれ教団の施設軍なんだよ? あいつらにそんな言葉が聞こえたら、すぐに牢獄いきだよ?」
彼女はチラッと後ろに視線を変えてみると、確かに赤竜を模った紋様を背に付けた外套を身にまとった男共が2人こちらを遠巻きに伺っていた。
しかし、なんじゃあれは? 教団などと言っても品性の欠片も無いような男よの? まあこのバル・・なんとか言った男も大概に気色悪いが、今の教団はここまで腐っておったのかの? これ以上は放っておく訳にはいかんの。帰って黒竜殿に相談する必要があるかの?
まぁよい、その前にこいつらなら何か知っておるやも知れんの?
「おぬし、もしもじゃが知っておるなら教えて欲しいのじゃが、」
「はは、君の頼みなら何でも聞いてあげてもいいが、その代わり今晩、付き合ってもらうよ?」
「・・・・・まぁ良いじゃろう。聞きたいのはの、ここ最近、銀色の長い髪で緑色の瞳をした10~12才くらいの美少女を見んかったかの?」
「なんだ。人探しか? しかしいくら何でもそれくらいの情報じゃ特定は難しいよ」
ふむ、まあそうじゃろうな。
「それじゃあどうかな? 僕の財力と情報網でその美少女とやらの捜索を手伝ってあげても良いけど?」
「なんと、それは助かるがの? 何か引き換えが必要なのかの?」
「はは、そんなあさましい事はしないよ。ちょっと僕の為に奉仕してくれるだけで良いんだ」
あさまし過ぎじゃろ? それに財力だの情報網だのと言っても自分の努力ではなく、親父の力じゃろうに?
こういう輩は身の毛もよだつほどに腹がたつがここは我慢するべきかの?
考えようによっては教団の内情も調べられるチャンスじゃしの、人との交尾なぞ、人に言わせれば蚊に刺されたくらいのもんじゃし、たまには良かろう。
「分かったのじゃよ。お主の提案受けるとするかの」
「それは賢明な答えだね。じゃあ行こうか?」
はは! この俺にかかればちょろいもんだぜ! これで当分のおもちゃが出来たぞ。だいたい親父が、フィエルルシエ王女を奴隷契約できると言っていたから、最近は我慢していたのに、失敗なんかするから、俺が一々街で探す羽目になったんだぞ。でもまあ結構な極上な女が手に入ったから良しとするか。
ふふ、とことん食い荒らしてやるから楽しみにしているんだな。
爽やかに微笑む笑顔なのに、気色悪い目つきがどうにも駄々洩れなのを判っていないバルロナだった。
ふん、どっちが食われるのか、その身にきちんと教えてやろうかの・・・
前を歩くバルロナの後ろをついていく彼女の方が獰猛な瞳を向けているのだが、バルロナにはそれが見えては、いなかった。
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