危険な出来事 9
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僕の問いに、ラーデンは特に表情を変えなかった。
「私ですか? そうですね。簡単に言い表すなら、神と異なる存在というべきでしょうか?」
神と異なる? ラーデンは僕が神だって知っているのか? それに異なる存在っていったら・・・
「悪魔ですか?」
アマネが低い声で、相手を威嚇しながら問いかけた。
「ほぼ正解ですね。ただ私は悪魔真族のなかでも下端の使い魔にしか過ぎませんから、たいした事はありませんがね」
アマネと互角に渡り合えるのに、下端だって? 悪魔ってどれだけ強いんだ? しかしその悪魔を退けた高位種族も強いってことだよね?
「その悪魔が、何故人族に仕えているのですか?」
確かに。
「別に私は仕えてなどおりませんよ? たまたまこのロエバルバの心が隙だらけで都合が良かっただけですから」
「つまり利用しただけという事ですか?」
「その通りですよ。私はあなた、マコトさんの素性の確認をしに来たまでです」
そのラーデンの言葉を聞いた途端、レリーアとカルナはさらに攻撃の姿勢を強め、注意深くラーデンの動きを追い始めた。
「それで、どうなんですか? マコト様の何を探りに来られたのです?」
「それは、あなた方が良く知っている事ではないのですか?」
「そんな事、知りませんね」
ラーデンとアマネの駆け引きの様な話し合いを僕は横でずーっと聞いているだけ。ここで下手に手、じゃなくて口を出す勇気が僕にはありません。こういう難しい話はなんとなく苦手です。
「まぁ、私としては十分情報を得られましたので、この辺りで退散させていただこうと思います」
「へぇ、簡単に言いますね。そう思惑通りに逃げられるとでも思っているのですか?」
うわぁ~、どちらも凄い自信だな。なんかドキドキしてきた。
「マコト様、どうされました? 何か顔が嬉しそうに見えますけど?」
「え? ああ、アマネがあまりに格好良いから、つい嬉しくてね」
「! ・・・・・・」
あれ? 黙っちゃった? アマネ顔、赤いよ?
「その、いちゃつきぶり、神と巫女そのものだな。いいもの見せてもらいました、でわ」
そう言ってきたラーデン。
あれ? 顔がにこやかになったまま、動かないよ?
バサッ!
え? ラーデンの背中から黒い羽が生えた?!
そこから一瞬だった。
ラーデンの、その黒く大きな蝙蝠の様な羽がほんの少し動いたと思ったら、その場から消え失せた・・・・・・様に普通の人なら見えたんだろうけどね。僕もアマネもちゃんと見えていますよ。
あ、レリーアとカルナも見えているみたいだ。
「なに!」
「だから、簡単に逃げられると思わないでと、言ったはずです」
ラーデンは、部屋で唯一の入り口を背にし、一番逃亡し易い場所に立っていた。だからそこから高速で逃げるには有利なはずなのだが、今、その光景は逆転していた。
扉に向かおうと体勢が入り口に向かうラーデンの目の前にさらに入り口側、ラーデンの進行方向の前に、さらに高速で移動したアマネが刀に手を掛け身構えていた。
「馬鹿な! いくら何でも早過ぎ・る・・・」
ヒュン!
ラーデンの驚愕する声が聞こえたと思った瞬間、アマネの腕は横一閃に投げられ、その先には血の一滴も付いていない鏡の様に輝く刀身が輝いていた。
アマネ早過ぎです。
ゴト!
ラーデンの頭と胴体が完全に離れ地面に転がっていた。斬られたラーデンも、自分が斬られたこと判ってなかったかもしれないな。
「お見事です! アマネ姉様!」
「ありがとう、レリーア。カルナもよくマコト様を、お守りしてくれて感謝します」
「そんな、私達こそなんと言ってお礼を申し上げればいいのか・・」
なんかこうして見ていると本当に姉妹の様に見えてきた。それにしてもお姉様って、レリーアの方が年上の様な気がするんだけど?
「えっと、レリーアさん、カーナさん?」
「もったいない!」
僕が二人に声を掛けようとしたら、突然レリーアさんが大声で発して膝をつき頭を下げてしまった。それに倣うかの様にカルナさんも膝をついて頭を下げてしまった。
「マコト様、我が主よ! 私たちの事は呼び捨てにして下さい! でなければしめしがつきません!」
「しめしって言っても・・」
「そうです! 私達二人は、マコト様の使徒としてこの世に新たなる生を承った身であれば、対等なる呼び方は恐れ多いのです!」
レリーアさんもカルナさんも切実な思いと思える程の真剣さで見つめてくる。
はあ、使徒ね。
つまり僕の部下みたいなものなのか?
でもこうしていても感じる。アマネとの繋がりと同じようなものをこの二人からも感じられる。ただ感覚的にはアマネが筆頭でそれに次ぐ感じがする。
「ねぇ、アマネ? 使徒って言うのは僕の部下でいいの?」
「そうですね。神の御言葉や方針を世界に広める使いであり、巫女を助力する者とも言われていますね。私も昔の事で、どうだったかは聞いた範囲でしか知りませんが、この感覚はそれで間違いないと思いますよ?」
「はい。私達は、マコト様の力がこの体に宿った事で、マコト様が神である事を認識出来ております。そしてアマネお姉さまが巫女であり、私達を取りまとめていただくリーダーであると感じております」
そう言ってさらに頭を下げる、レリーアとカルナ。
「分かりました。でもこれでは奴隷の時の扱いとさほど変わらない気がするんだけど気のせいかな?」
だって、せっかくロエバルバの手から解放させたのに今度は僕が主人となって、彼女達を束縛するんだから。
「ぜんっぜん!! 違います!」
ああ、びっくりした! レリーアがいきなり物凄い勢いで首を振って大声出すんだもん!
「ロエバルバの時は、強制的で悪意に満ちておりましたが、マコト様にお仕えするのは喜びであって、幸せに満ちております!」
「そうですよ! この胸の内にマコト様を感じられる事の喜びと気持ち良さは、幸せである以外のなにものでもありません!」
二人が訴えるように言い寄ってくる。
それにしても、その煽情的な姿でそんな潤んだ瞳で見つめられると、僕としてはちょっと恥ずかしいかも。
「とにかくレリーア達の気持ちは分かった。けどその恰好はなんとかしないといけないね?」
「「?」」
何故そこで首を斜めに傾げる?
「この格好はお気にめしませんか?」
「いや、それってロエバルバに強制的に着せられたんじゃ・・」
「そうですが、今はマコト様に捧げるという意味では問題ないかと」
「私も、これぐらいはしないとマコト様に愛していただけないかと・・」
二人とも、僕に何を求めているんだ?
「って、コラコラ! アマネ。服を脱ごうとしない!」
「え? マコト様に愛していただけるのでしたら、私もそのような恰好になろうかと思いまして」
「ああ! そんな恰好しなくても大丈夫だから!」
「え? では、普通にしていても愛していただけるのですか?」
「え? う、うん、まあね」
「・・・・・」
「聞きましたか! レリーア! カルナ!」
「「はい! アマネお姉様!」
「それでは、今宵は二人がマコト様の眷属になった記念に私を含め三人を愛していただけるようご奉仕いたしましょう!」
「「はい!!」」
何を今宵、どんなご奉仕するんですか! と突っ込む気力を失くしてしまいそうです。
「お母さま?」
「あ、ルリ。どうしたの?」
「いえ、今晩はそれなりに覚悟していた方がいいと思いますよ?」
「そうなの? それってどの辺まで?」
「アマネお姉さま達が満足するまで?」
恐ろしい事言わないで!
「それより、この男と、悪魔の事どうします?」
「取り敢えず、冒険者組合に話を持っていこう。そこでローズさんに相談してみるってのはどうかな?」
「そうですね。それが良いと思います。それじゃあ私が組合まで運んでおくね」
「う、うん。ありがとう」
僕は、簡単に運ぶと言ったルリに戸惑ったが、次の光景を見て納得した。
ロエバルバと、悪魔の亡骸を、うごめく木の根がすっぽり覆いつくし、地中の中へと消えていったのだ。
「ルリってすごい」
今更ではあるけどね。
とにかく、僕の誘拐騒動が一段落したので、みんなで帰る事にした。
まずはお風呂に入りたいです。
読んでいただきありがとうございます!