危険な出来事 6
投稿いたしました。
是非、読んでみて下さい
二人は、同時に返事をすると、僕とアマネにゆっくりと近づき手を伸ばしてきた。頬を紅潮させ、吐く息が荒くなっている彼女達。でも瞳はとても悲しそうで、何かに耐えているように見えた。
そんな彼女達の顔が僕の目の前に迫る。微かに開かれた唇は艶やかでとても綺麗で、それがもう僕の唇の直前、小指一本分くらいしか空いてない状態まで近づいてきた!
初めての口づけがこんな状態って絶対にヤダ! でもそれを受け入れるしかないと判ってしまう。
彼女達、息が荒いのは、気分が高揚し発情している訳ではなく、首にある奴隷の証の首輪が少し肌に食い込んでいたからだ。
なんてことをするんだ!
それは、アマネの方に体を寄せるレリーアの方も同じようだった。
僕は、その姿を見てしまい、怒りがこみ上げるのを抑える事が出来そうになかった。
そんなことを考えていたら、カルナがどんどん近づき、もう唇同士が重なる寸前、彼女は両腕を伸ばし僕の頭を包み込むように抱え込んできた。
「え?」
「わたしたちにおまかせください。そして助けて下さってありがとうございます」
それは、本当に虫の息のような微かな声で、僕の耳元で囁かれた。
その時だった。突然、首を斬られ部屋の片隅に放置されていた、冒険者の男の一人が、煙を立ち上らせ、そして一瞬で発火し始めたのだ!
「な! なんだ!?」
驚く、ロエバルバが後ろで燃え上がる炎を見ようと、身をひねったせいで、椅子事バランスを崩した。
執事のラーデンも、注意していなかったせいか、燃え耀遺体の方へと注意が行っていた。
その二人の動きを見抜いたかのように、アマネに抱き着いていたレリーアが、アマネをラーデンの方に突き飛ばし、その反動で、ロエバルバに襲い掛かった。
ラーデンは、レリーアの動きを素早く察知し、ロエバルバを守ろうと動き出すが、アマネの体が軸線上に迫っていたので、それをかわそうと少し横へ動く。
しかし、アマネもレリーア達の行動の意味を感づき迫ってくるラーデンに向かって体を伸ばす。
しかし、鎖で繋がれた体は、ラーデンに届く事無く途中で止まってしまった。
「くっ! ごめんなさい!」
しかし、そのちょっとした動きでほんの少し、大きく横へ移動しなければならなかった、ラーデンの速度を落とせた。
「これで!!」
レリーアは渾身の力を込め、胸の合間に隠し持っていた指程度の長さのナイフを手に握りしめ、最短の移動距離でバランスを崩し倒れかかっているロエバルバに迫った!!
「え?」
そのレリーアのナイフが確実にロエバルバに届くように僕も見えたのに、今、目の前に起こっているのは、バランスを崩していたロエバルバの椅子が、時が止まった様に、動きを止めていた。つまり、バランスを崩していなかったんだ。
そして、ロエバルバの持つ小剣が、レリーアの胸に深々と突き刺さっていた。その上後ろから迫っていた執事のラーデンの細見の剣もレリーアの背中に突き刺さり、胸から飛び出していた。
「レリーア!!」
僕は、叫ぶしかなかった。鎖に繋がれた僕は今、とても無力なのだと今更に気付いた。
「はは、レリーアよ。これくらいの事は予測が出来たのだぞ? 私の言うことを聞き続ければ、もう数年は可愛がってやれたものを、フハハハハハ!」
馬鹿にした笑いがロエバルバから聞こえる。
「グゥ・・・フ、フ、そ、れは、どうかしら?」
胸を前からと後ろからと両方から突き刺さっていたレリーアが突然笑い出した。
「私、こそ、これくらいは、想定、済みだよ」
「?! う、動かない!」
ロエバルバとラーデンは剣を持と、レリーアの体に突き刺している状態から身動き一つ出来ないでいたのだ。
「硬化魔法か!? フン! その程度ならば!!!」
ラーデンが、声を大きく発し、その効果から逃れようとしたと思ったその時、手が宙を舞っているのが皆の目に映ったのだ。
「魔導士特化の私は、普段動くのは専門外だけど、魔操力は結構出来る方なのよ。だから一瞬だけなら、尋常じゃない速さで動くことができるの。そのかわり体の筋肉はあちこち切れて痛いけどね!」
それはカルナだった。
魔法を込めた手刀が、ロエバルバの指輪をはめた手ごと斬り放していた。
「ぐ、ぐうぉおおおおおお!! きさまら!!」
絶叫の叫びをあげたロエバルバが、聞こえない程の小さい声で一言呟いた。
「がぁあ!!?」
「げぇっふ!」
バキッ!! ボキ!!
嫌な鈍い音が響いた。
その音と共に、彼女達の頭があらぬ方向に向いてしまった・・・
「マコト・さ!!!」
そんな状況で、カルナの声が聞こえた気がした。そして僕の方に投げ飛ばされたものを見て目を見開いた。
ロエバルバの手が、正確に僕の縛られる右手に向かって飛んできた。
それは、何かに誘導されるように、弧を描きすっぽりと僕の右手に収まったしまった。
すると、今まで力が湧かなかったものが、嘘のよう湧き上がってくるようだ。
僕は、何も考えずに、ただ鎖から解き放つイメージを浮かべると、今まで手足を拘束していた鎖が、勝手に動き出し拘束から解き放たれた。
でも、何故かその鎖は僕の体に巻き付き、スカートの様な形をしてくれた。
でも、今はそれどころでじゃない!
「レリーア! カルナ!」
僕の叫び声と共に、アマネも鎖から解き放たれたようで、素早くテーブルの上に置かれてあった刀の白竜丸を再び手にし、膠着状態になっていたラーデンに向かって切りつけたのだ。
さすが、行動が早い!
しかし、相手のラーデンもその反応は素早く、魔力操作したのか、硬化魔法から逃れ、アマネの突き上げてくる刀を間一髪でかわすと、主人を捨てて、部屋の入り口付近まで後退してしまった。
それを見て僕は、アマネの傍へと駆け寄り、切られた手を抱えながら床に転がるロエバルバに、冷たい視線を投げつけてやった。
「さっき、彼らにした仕打ちと同じことをされて、どんな気持ちだい?」
「くっ!! い、いたぁい! 痛い! だ、誰か! 助けろ! ラーデン! どこへ行った!?」
僕の話を全く聞こえていないのか? それとも聞く気がないのか? まぁ、どっちにしても放っておこう。
僕はロエバルバなんか放っといて、レリーア達が倒れている間に座った。
「まだ、息がある?」
「はい、でももう直ぐにでもこと切れそうです!」
僕とアマネは扉の前で、構えて待つラーデンに気を配りながら、二人の容体を確認していく。
「アマネは、あいつをけん制していて! 僕はこの子達をなんとか助けてみる!」
「は、はい! でもこの様な状態では私の治癒魔法でももう手遅れです」
「それでも、最後まで諦めたくない! この子達、初めから命を捨てて僕を助けようとしてくれたんだ! 今度は僕が助ける番だよ!」
「・・・・・分かりました! あの男は私が引き受けます。その間にマコト様は彼女達を!」
「うん! ありがとう!」
アマネは、刀を正眼に構え、ラーデンを威嚇すると、ラーデンもぴたりと動きを止めた。
その間に僕は、まだ息がある事を再確認してから、両の手をそれぞれ彼女達を拘束していた首輪の上に置き、意識を集中させた。
目をつぶり、首輪のイメージを頭に浮かべるように集中させてみると、次第に頭の中に首輪の姿と、それにつながる無数の細い線を二つずつ見る事ができた。
「これって、首輪? それに繋がっているのって何?」
「お母さま、それはこの子達の体に繋がる神経みたいなものだよ」
突然、僕の頭の中にルリの声が響いてきた。
ありがとうございます。