冒険者組合 8
投稿いたします。なにやら良からぬ雰囲気が。
「ここがローズ師匠が紹介してくださいました、お宿みたいですね」
アマネが指さしたその先に、3階建ての石造りの建物があった。構えはさほど大きくないけれど、入り口周りや、通りに面した全ての窓下には綺麗に整えられた草花が掛けられた綺麗な佇まいの宿屋だ。
「憩いの止まり木亭と看板に書いてあるよ。ここで間違いないよ、お母さま」
「うん、綺麗なお宿だ。さっそく入ってみよう」
カラン、カラン
「いらっしゃいませ! お食事ですか? それと・・・うっわー! 綺麗なお嬢さんとお姉さん! うっわー! うっわー! 精霊様までいる! お、お母さん!!」
扉を開けて入ると、いきなり僕より少し小さな女の子が、急に大声を出して、驚きの声をあげ始めた。そう言えば、この宿までに来るまでにも結構周りの人が僕達の事見ていた様な気はしていたんだけど、普通にしていても僕達って目立つのかな?
「こら! プエル! お客様の前で、はしたない・・・か、可愛い!!」
この親にしてこの子ありだな。
少し癖毛の赤い髪に、コバルトブルーの瞳と愛らしい顔つきが良く似ている親子だった。
「あ、あら、ごめんなさい。あまりに可愛らしかったからつい、ね。改めまして、憩いの止まり木亭へようこそ。お泊まりですか?」
「はい、冒険者組合のマリナエルス組合長様からのこちらをご紹介していただきましたので寄らせていただきました」
「そうですか。それはありがとうございます。それでどれほどのご予定で?」
「当面、1ヶ月分の先払いでお願いしたいのですが?」
「かしこまりました。大人一人1日、300ルぺの銀貨3枚、子供一人、100ルぺで銀貨1枚です。精霊様は無料でよろしいですので、1ヶ月1万2千ルぺで、金貨12枚ですけど、1ヶ月の長期利用ですので、1万ルぺの金貨10枚でいかがでしょう? ちなみに朝食は含まれます。昼食、夕食は別料金となります」
たぶんここの女将さんだと思うけど、その方の説明を、しっかりと聞いているアマネに僕は一つ忠告をしておくことにした。
「アマネ、一応僕、成人しているってこと忘れないでね?」
「あ?! そうでした。女将さん、こちらの御方は成人しておられますので、大人料金でお願いします」
「え?! うちの子より少し大きいくらいかと・・・そう言えば、体に似合わずお胸の方はしっかりと・・・」
うう~、そんなに胸を見つめられると、こう胸のあたりがムズムズするんですけど!
「分かりました。それでは、お二人で1万5千ルぺでどうでしょう? お嬢様の可愛らしさ割引という事で」
どんな割引ですか?!
「さすが、ローズさんの紹介していただいたお宿です! マコト様の可愛らしさを分かっておられます!」
何故か、女将さんとアマネが意気投合しているのは気のせい?
「そう言えば、まだ紹介がすんでなかったわね。私はこの憩いの止まり木亭の女将をしているラナエって言います。この子は娘のプエル、8歳になったばかりです」
「いらっしゃいませ! ようこそ憩いの止まり木亭へ。お部屋まで案内しますね」
愛くるしい笑顔のプエルちゃん。小さいのにしっかりと宿のお手伝いして偉いぞ!
「えっと・・・」
「アマネでいいです、女将さん。それとこちらの御方がマコト様です」
アマネがちょっと恭しく紹介するものだから、女将さんが身構えてしまったじないか。もしかしたら貴族とか思ってない?
「マコトと言います。そしてこの肩に乗っているのが精霊のルリです」
「ルリです。木の精霊でマコトお母さまの契約精霊だよ」
「まぁ! アマネさんの精霊様かと思っていました。マコト様の契約精霊様だったんですね。マコト様って魔導士さんなんですね。しかも契約精霊がお持ちとは、その歳で凄いじゃないですか!」
はは、驚かれるのも少し慣れてきたかも。
でも、今、様って言ったよね? やっぱり貴族か何かと間違えているのか?
「あの~、女将さ・・」
「あ! すみません! 立ち話しをして申し訳ありません。プエル! お嬢様方をお部屋へ案内して差し上げなさい」
「はい! ではこちらからどうぞ!」
プエルちゃん、すたすたと歩き出したので、僕達はその後をついて歩きだしました。とりあえず部屋に荷物を置いてからだな。後で女将さんに誤解を解いておこう。
僕達は、宿の食堂部分を通り、奥の階段へと向かい、そのまま上がって3階、その一番右奥
へ向かう。エプロンからプエルちゃんが鍵を取り出し、扉を開けてくれた。
「うわー! 結構広いね。あれベッドが結構大きいけど一つだけ?」
「はい、アマネ様のご希望で」
僕は、瞬時にアマネの方に視線を向ける。そこには恥じらう少女の様なアマネが佇んでいた。
「その、こ、今晩、えっと、が、がんばります!!」
頑張らなくていいから!!
「お母さま覚悟決めてね」
外堀から戦略的に埋められていっている気がする。
「それでは、鍵をお渡ししておきます。注意ですけど、鍵を失くされたら金貨1枚のご負担になります。朝は5の刻から8の刻までに朝食をすませて下さい。食堂では昼食と夕食も別途料金で用意できますけど、前もって言っていただけると助かります。一応予約無しでも食べられますけど、完売したらそれまでですのでご注意下さい。では、私はこれで失礼いたしますので、ごゆっくりとお寛ぎください」
8歳なのに、やっぱりしっかりした女の子だ。丁寧にお辞儀をして1階へと戻っていった。
さて、これからどうしようか?
「あ、お母さま。」
「どうしたのルリ?」
「どうもお爺ちゃんから連絡が入っているみたいなんだけど、詳しい内容を聞くには、大樹の情報網に繋がる木の近くに行かないといけないからちょっと出てくるね」
「え、でも、そんな木近くにあるの?」
「うん、どんな街でも、必ず幾つかに分散しながらこの街に根付いている子樹は結構いるからね」
「そうか、じゃぁ、お願いするかな? 僕はついて行かなくて良い?」
「大丈夫よ、お母さまは休んでおいてね」
「分かった。気を付けてね」
僕の返事が終わると、ルリはその場からスーっと音もなく消えていった。
す、凄い! そんなことも出来るんだ!
ルリが出たあと、静けさが部屋を支配した。
し、しまったー!! アマネと二人きりになってしまった! これは!?
「マ、マコト様、その夜まで待たなくても・・・」
やっぱりそう来たか!
「ア、 アマネ! その、えっと~」
コンコン
その時だった。タイミング良くドアをノックする音が聞こえた。
「は、はい! 今開けます!!」
僕は、それこそ目にも止まらない程の俊敏さで、その場を回避! 今、二人っきりになるのはもの凄くまずい!
「失礼します」
あれ? プエルちゃんだ。
「あの~今、冒険者組合の人から、アマネお姉さんに至急、組合の方においで下さいと伝言がありました」
「私に? 何でしょうか?」
「さあ、でも急ぎみたいだから早く行った方が良いんじゃない?」
「そうですね。ちょっと行ってきますので、マコト様は、ここでお休みください。夕ご飯までには帰ってきますので」
「うん、分かった。気を付けてね」
「・・・今晩の為にも早く終わらせてきます!」
そう、言い残しアマネは冒険者組合へと向かって部屋を出ていった。
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