大樹 6
『わしが蓄えていた、魔素や地力を無駄に使っては、気に入った女子を捕まえて、わしの目の前で交尾しとったからの、どれだけの女子をはらませたか、両手ではきかんの』
「そのはらませた女の子達は、後に天職が巫女になる者が多かったそうです。なので前エルデリード神が雲隠れしたせいで、天職を発揮する事ができなくなって、私のように無能扱いを受けた女性は結構いると昔話の中で言われていました」
青の世界樹が当時の事を話しだし、それにアマネが付け加えてきた。
昔話になるくらいなのか?
「お話の締めくくりには、女性の敵、無責任の象徴、それがエルデリード神だと伝えられ続けています」
それって、僕がエルデリード神だと分かったら、結構冷たい目で見られないのかな?
「そんな輩は、私が成敗いたします!」
いや、だからアマネさん、もう少し冷静に判断しようね?
『その為のわしじゃよ。古木や各々の精霊にマコト様の事を伝えれば、エルフ族や獣人族には伝わりますからな。少しずつですが、悪い噂を消して行くことにいたしますぞ』
これは、みんなの協力が必要だな。僕だけじゃ無理だと思う。
「私は、行く先々で、お母さまの可愛らしさと、美しい心を言い触らし廻ってあげる!」
「う~ん、それは止めようねルリ。」
「どうしてぇ?」
「そんなの決まっています! 悪い虫が寄ってきたら大変だからですよ!」
「あ、なるほど。さすがお姉さまね! じゃあ精霊達に言い触らし廻るわ! 私の仲間なら変なのはいないと思うから」
どっちもどっちのような気もするけど、人族よりはましかな?
どのみち皆には協力してもらう必要がある事は確かだ。
それと、僕は後二つ気になることがあった。
「昔いた多くの巫女達は今でも結構存在しているのですか?」
『たぶんじゃが、500年程たっておるからの、血も薄まり、巫女職を持つ者は少なくなっていると思うが、それでも元々の巫女を持つ者も含めれば、それなりの数になるじゃろうて』
やっぱり巫女職を持つ人は少なくないんだ。
「その巫女達は、僕一人が全て眷属にしないと活躍できないのですか?」
『それは無理じゃの。ただ神といっても最高神のエルデリードを筆頭に数多の神は存在しておったからの、それらの神々がそれぞれ巫女を神族契約し眷属としておった』
「その神々は、今はどうしているのですか?」
『最高神が雲隠れしたからの、神の力が世界から消え、他の神々も存在できなくなったのじゃ。だが今はマコト様が降臨されたからの、このわしの様に神族契約すれば、神の末席に入る事が許され、それらが巫女を眷属化させる事ができるようになるじゃろうて」
「おじいちゃん! もしかしたらアマネ姉様の代わりに、誰か巫女と契約して傍にいさせようとしてない?」
『な!? 何を馬鹿な事を言うんじゃ!! わしは純粋に巫女に幸せになってほしくてじゃな、別に、根本を優しく摩ってくれとか、枝の上で添い寝してくれとか、そんな事は考えておらんぞ!』
「「エロじじい、駄目神じゃん!」」
二人の冷たい視線が世界樹の老木に向けられていますよ。
「まぁ、まぁ、その、前エルデリード神みたいに無責任でなく、ちゃんと愛してあげられるんだったら問題無いじゃないかな?」
「おおお!! さすがマコト様! 女神の中の女神! 最高の主神であらされますな!! この青の世界樹、どこまでもマコト様に忠誠を誓いますぞ!!」
あ、彼女達の視線がさらに冷たくなったような?
「取り敢えず、僕が神々を復活させていけば、巫女達もちゃんと天職を真っ当できるんだね?」
『その通りですじゃ』
「あれ? でも世界樹もアマネも神族契約しているんだよね? だったらアマネも神様なの?」
「いえ、天職に巫女を持つ者の神族契約は眷属であり、仕える主神を補佐する役目ですので、単独神にはなりません。ただ、下級神の位と同等の扱いはされますけど。ですから巫女が巫女を眷属にする、なんて事はありませんよ?」
そうなんだ。
『マコト様』
「何、世界樹」
『とにかく、マコト様には、これから多くの神々を復活させていただき、このエルデリード世界に神威の加護が行き渡るようにしていただきたい。今この森は急速に大型魔獣が逃げ出したり、力つき倒れていっております。これはマコト様がこの地に降臨され、わしを神族に招き入れていただいた影響です。』
「そうなんだ」
『はい。神威が世界中に行き渡れば、大型の魔獣は鎮静化し、悪魔の出没も極端に減る事ができるはずです。』
神妙な声で世界樹が真面目に話して来る。
アマネは僕に向かって膝をつき神妙な顔で僕を見つめる。ルリも僕の肩の上に座り、何かを思うように僕に頬擦りしてきた。
皆の気持ちが伝わる。
「うん、僕は僕のできる精一杯をしてみるよ。アマネのような女の子を少しでも早く救うためにもね。だから協力してくれるかな?」
「「はい!」」『お任せを!』
三人が、決意の返事をしてくれた。僕はそれに答えれるよう努力しよう。
・・・・それと、もう一つ。どうしても心に残る名前、カエデ、たぶん女の子の名前なんだと思うけど、どうしても引っかかっている。この子が僕にとってどういう存在なのか、それを知るためにも探してみよう。
たぶんこの世界の何処かにいると思える。そんな根拠はどこにも無いけど僕はそう感じていた。
「マコト様、どうかいたしました?」
「ん? いやちょっと戻った記憶の中に、女性だと思うけど名前が一つあるんだ。何故かとても大切な人だったような気がするんだよね」
「そう? なんですか?」
「うん、それもこの世界に居ると思うんだ」
「その人は、マコト様にとってどんな人なんでしょうか?」
「分からない。でも探さなきゃいけない気がする」
「・・そう、ですか」
あれ? アマネ少し寂しそうな顔してないか? まさか他の女の子の事を話したからなのか?
「えっと、アマネ。その、これだけは言っとくね。どんなことがあってもアマネは僕にとってこの世界で最初の大切な人である事には変わらないからね」
「は! はい!!」
一気に笑顔になった。分かりやすいよ。でもそれだけ慕ってくれているんだから、僕も裏切るようなことはしないと誓おう。
そんな事を考えながら、僕たち三人? で良いのか? は、青の世界樹の下を離れて一度コルコネ村に一旦戻るべく、歩きだした。
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