大樹 5
投稿いたしました。
そこには、少し日に焼けた肌に小さな葉で作られた王冠を頭に乗せた緑色の長い髪を持つ女の子が俯きかげんに佇んでいた。
その女の子が顔を上げる。
「凄い、瞳がエメラルドの様な綺麗なグリーンだ、僕の目の色に似ているかも?」
僕に似た色の瞳の女の子は、上げた顔を僕に向け、じーっと見つめ続けてくる。
「えっと、この女の子が青の大樹様の分身体なのかな? 女の子だよね?」
「はい、マコト様。でもかなり小さいですね?」
アマネが冷静に言ってくる。そう、その女の子は小さかった。いや小さいというより、小っちゃ! といった方が正解だ。だってその女の子は手の上に乗りそうなほど、小さかったからだ。
「えっと、お話できるかな?」
僕はその小さい大樹様の分身に視線をなるべく合わせるようにかがみ、問いかけてみた。
「・・・お、」
「お?」
「お、おかぁ・・・」
「おかぁ?」
「お母さま!!」
可愛らしい分身体は、可愛らしい口から発せられる可愛らしい声で、僕に向かって、お母さま、と言って飛びついてきた。
「うぉ! と、びっくりしたぁ! ねぇ、君、僕のことお母さまって言ったのかな?」
「はい! お母さま!」
やっぱり聞き間違いではなかったみたいだ。
「お、お、お、お、お・か・あ・さ・ま? ですって・・・・」
あ、アマネが様子がおかしいぞ? 体が震えてないか?
「お、おちびちゃん、なんでマコト様がお母さまなのかな?」
アマネの顔、引きつりながら笑っている。こ、怖い。
「何を言っているの? 当たり前のことを聞かないでよ。血を流され痛い思いまでされた行為から生まれた私のお母さまがマコト様であるのは当然じゃない?」
「行為ですって? そんないやらしい事マコト様するわけがないじゃない!」
「こらこら、行為なんていうと変な想像しちゃうよ? それに痛いって・・・あ、まぁ確かに痛い思いしたし血は流したけど、いやらしい行為をしたわけじゃないからね? アマネも変な想像しない! 実際に見ていたでしょ?」
「う、た、確かにです・・すみません取り乱して。でもお母さまって、じゃあお父さんは、この変態老木ですか?!」
「そうですよ? お父様はこの青の大樹以外いません!」
胸をはって言い切る女の子。あ、空中を浮かんでいる。君飛べるんだ。
「ちょ、ちょっと、アマネ! 落ち着いて!」
アマネ目が座っている! 腰の刀に念を込めない! ほら、鞘が赤く染まってきているって!
「ここで、消し炭にして差し上げます・・・」
ぼそりとそんな事を口走って、今にも大樹に跳びかかろうとするアマネを僕は必死に抱き着いて止めるけど、一向に大樹へ向ける殺気が納まる気配がない。
『だ、だからマコト様の血は嫌じゃったんだ』
涙声で訴える青の大樹。こうなることを予見していたのか? それはすみませんでした。でも仕方ないじゃないか。アマネの血は見たくなかったんだから。
青の大樹が怯えているせいか、この子も怯えている。
「アマネ、許してあげて。別に僕の貞操が犯されたわけじゃないしね、便宜上そういう関係の方が分かりやすいだけだからね。あまり深刻に考えないで!」
「でも、でも、それでもマコト様を汚されたみたいで、私は・・・」
大粒の涙を流すアマネを必死になだめながら、震えるおチビちゃんをあやす事になった僕。
そんな状態が2、3時間続いたと思います。
「・・・・・わ、分かりました。百歩譲ってこの子の事は認めます。でも! この変態老木を父親と名乗るのは看過できません!」
青の大樹に向かってビシッと指をさすアマネ。
「わ、わかったわよ。それならお爺ちゃんという事で良い?」
「ま、まぁ、それなら・・・」
それで良いんだ?
取り敢えず、おチビちゃんとアマネが、納得しあったみたいだから、よしとしよう。
「それじゃぁ、君、では呼びにくいから、名前をあげるね」
「名前ですか?」
「そう、ルリ、で良いかな?」
「ルリ? ・・・・うん! 素敵! ありがとうお母さま!」
喜んでくれたみたいで良かった。あれ? 頭の中に何か浮かんできたぞ? これは・・・
『ルリ(元、青の大樹・現、青の世界樹の分身 0歳』
『天職:世界樹の大精霊』
『後職:無』
『魔操位:238』
『天職特性:神族契約(マコト・エルデリード神(幼生体))』
アマネの時と似たものだ。これってルリの現状なのか? なんだかこの内容凄くない? 魔操位が238って、アマネの倍はあるし、それに世界樹の大精霊って。
僕は慌てて、青の大樹の幹の根本付近に手をかざし、頭の中に文字を浮かべるようにイメージしてみた。
『青の世界樹(元、青の大樹) 5830歳』
『天職:青の世界樹』
『後職:無』
『魔操位:不明』
『天職特性:神族契約(マコト・エルデリード神(幼生体))』
・・・・・・世界樹になっておられました。
「大樹様」
『申し訳ないのじゃが、様付けは止めていただけますかの? こうして神族の末席に加えていただいた主神であるマコト様に様付けで呼ばれると、不敬の罪が増え罰せられますからの』
「え? そんな事あるの? 誰が罰を下すの?」
『マコト様ご本人がですよ? 神との契約とはそういうものですからの』
「う~ん、僕はそんな事するつもりは無いよ? タメ口でも良いし、呼び捨てでも構わないよ?」
「「『それは無理です!!』」」
三人? に一斉に却下されてしまいました。
神様っていう立場も案外堅苦しいんだな。
それから僕達は、これからの事を話しあった。
青の世界樹になった大樹には、通称青の森と呼ばれるこの区域を引き続き管理してもらい、コルコネ村に被害が出ないよう、魔獣等の警戒を強めてもらった。その上で森に点在する古木達に、僕の存在を伝え、前エルデリード神の様な、駄目神では無いことを広めてもらうことになった。
「その件は、僕がこれからどんな神様になっていくかで決まるから、今の段階で両手をあげて喜んでもらっても失望させるだけかもしれないよ?」
「そんな事はありません! 私が愛する女神マコト様が、伝説にまでなる駄目神だった前エルデリード神の様になることなど、この私がマコト様を愛せなくなると同じくらいにありえない事です!」
「そうよ! 私のお母さまは、このエルデリード世界が始まって以来の最高の女神さまなんだから自信を持って!」
『この老木にも優しく話してくれた貴重なお方じゃからの、駄目神なはずがないぞ!』
お三人方、そんな事、本人の目の前で、熱く語られると恥ずかしくなるから極力止めてね?
「それにしても、そんなに前のエルデリード神って駄目神だったの?」
いくら駄目といっても、一応神に選ばれたくらいなんだから一定の理性や秩序はあると僕は思うんだけど、アマネ達の話しを聞いてその考えは間違っていることに気づかされた。
読んでいただきありがとうございます。