大樹 4
大幅な変更いたしました。
「一つ提案なんですが、聞いてもらえます?」
『提案じゃと?』
「はい」
少し考えているのか、暫く沈黙が続いたが、木の葉がこすれ騒めき始めた。
『まあ、聞いてやらんでもないぞ』
老齢のツンデレなんて聞きたくはなかったけど、ここは我慢しよう。
「提案というのは、僕とアマネの旅に大樹様も一緒にはどうかと思いまして。ほら、これだけの年月が経つ大樹様ですし、こうしてお話もできるのですから、分身体とか出来ないものかと思うのですが?」
『・・・・・・・・・・その手があったか』
「今、何か言われましたか?」
『な! 何でもないぞ! ま、まあ、わし程の大樹ならば、容易いことではあるな!』
忘れていたのかな? 声が弾んでいるし乗り気なのだろうけど案外分かりやすい方なのかもしれないな。
「では、無理な提案ではない、ということでしょうか?」
『ふ、ふん、当然! お前さんみたいな幼生体の神と違って、何千年も生きておる、わしなら出来るに決まっておる!』
大樹なので判らないけど、今、大樹様、胸を反り、ふんぞり返っているように見えた気がする。
それをアマネも感じ取ったのか、何故か殺気を込めた視線を大樹様に投げつけている。
「青の大樹様、あまりマコト様の前で不遜な態度でおられますと、私の理性が何処かへと行ってしまいそうになりますのでご注意ください」
『ひ! す、すまん、じゃない、すみません!』
アマネさん、その刀を抜いた状態で凄まないでね。
「青の大樹様、それでどうすれば良いのでしょうか?」
『あ? ああ、いえ、そうですな、まずは、わしの根本近くにある、窪みの所に若葉を生やしますのでな、少々お待ちくだされ』
そう言葉を残すと、大樹様の気配が静かになった。何だろう? その窪みに引っ張られる力を感じる。大気の何かを吸っているような感じだ。
いや、実際、光の粒子みたいな物が、その窪みに吸い込まれるように入って行くのが分かる。その光景を暫く見ていると、次第に吸い込まれる光の粒子が少なくなり、完全に止まった。
「マコト様、あそこに金色の芽が・・」
アマネの言葉が指す窪みの中心に視線を動かすと、金色に光る幾つもの若葉を持つ芽が掌の倍くらいまで伸びているのが見えた。
『さて、お判りになりますかの? この金色に輝く新芽の中に、大気中の魔素とわしの大樹の生気を織り交ぜております。これに人の血を降り注げば、人の形をしたわしの、分身体が生まれます』
「ならば、私がその血を注ぎましょう!」
大樹の言葉にアマネが即座に反応して、白く綺麗な細腕の肘から先を露わにし、自分の刀を抜いたが早いか、肌に向かって切ろうとしていた。
「ちょ、ちょっと待って! アマネ! 簡単に肌に傷を付けちゃダメだって!」
「え? どうしてです?」
「そんな不思議そうな顔しないでよ。アマネの肌が傷付くなんて僕は我慢できないよ!」
「でも、ここには今、私とマコト様しか、いないのですよ? でしたら私が血を提供するしかないかと思うのですが?」
「駄目! 僕が許可しません!」
『い、いや、わしもアマネの方が良いのですがな?』
僕がアマネの血の提供を止めていると、大樹様が言ってきた。
う~ん、僕では駄目みたいな、というより僕だとこまるのかな?
「大樹様、もしかして僕だと困る事があるのではないですか?」
『い、いや! そんな事はないですぞ!』
明らかに焦っているぞ。
僕が血を提供されると困る事があるのかもしれない。
「それならば、良いじゃないですか。僕が血を提供しますよ?」
『いえ、その、マコト様は人では、ありませんからな・・・』
「そうなの? アマネ」
「いえ、たぶん大丈夫だとは思いますが、私はマコト様に傷をつける事が許せないので、賛成しかねます」
「それは、大丈夫だよ。僕の治癒再生能力はかなり高い方なんでしょ?」
「え? ええ、それはもう神という事を踏まえてもその再生速度は凄まじいと思いますけど」
そう、僕が目覚めた時の頭の傷も相当重症だったはずなのに、アマネの治癒術を使ったとしても異常な速度で再生していたらしいと聞いていた。
なら、僕がちょっと傷を付け、血を提供した方が良いに決まっている。
「だから、僕が提供するよ。良いね?」
「・・・・それでも・・・」
それでもまだ、アマネは渋っているようだ。
「我がまま言ってごめんね。でもアマネの治癒術もある事だし、再生能力を考えれば僕が血を提供する方が望ましいと思うんだ」
僕は満面の笑みと一緒に、アマネの頭を背伸びしながら撫でてあげる。
「マコト様、ずるいです。そんなことされたら許さなきゃいけなくなってしまうじゃないですか」
顔を赤くして、ちょっと恨めしそうに僕を見るアマネ。ちょっと心が痛みそうになるけど、ここは曲げられないから我慢してアマネを見ていると、小さく頷いてくれた。
僕はもう一度頭をポンポンと柔らかく撫でると、大人しく身を引いてくれた。
「と、なりましたので僕が血を提供させていただきますね」
『いや、しかし・・・』
「良いですね?」
僕は青の大樹様に、数歩近づき、少し威圧を加えると、木の葉が騒めき震えだした。
『う、うぅ、し、仕方がない・・か、それではお前さんの血をその新芽にかけてもらえますかな』
何か渋々といった感じだけど、青の大樹様も良いというので、さっそく僕は自分の腕を新芽の上に差し出す。あらかじめマリア村長からいただいていた小刀を懐から取り出すと、親指に軽く切っ先を突き刺し縦に小さく引く。
「ん!」
一瞬の痛みの後、親指から鮮やかな赤い血がスーと筋を作り滴り落ちはじめた。
ぽた、ぽた、ぽた。
数滴の血が、新芽の茎や葉に落ちる。
ガサガサガサガサガサ!!!!
すぐに変化が起こった。
血がかかった葉が、急激に動き始めたかと思ったら、一気に茎が蔦の様に伸び、そこには無数の葉が飛び出すように生え出す。それはどんどんと数を増やし僕の伸長の半分くらいまで成長する。しかしそこまで大きくなったかと思うと今度はうごめきながら絡まり、密集し始めた。それは葉が折り重なるように密集し、一つの塊の様に見え始めた。
「あ? 少し人の形に見えてきたぞ?」
そう、それはただの葉の密集した塊から、うごめきくっつき、手や足の様な四肢が形成され始め、どんどんと人の形を取り始める。
「マコト様、色も変化し始めています!」
アマネの言葉で気付いたが、蔦の様な茶色い部分が集まったところは人の肌色に近づき、頭部と思われるところは鮮やかな緑色へと分かれ変化を続ける。
そしてその変化は1分程続いた後、動きを止めた。
「お、女の子?」
また、お越しください!




