大樹 1
投稿いたしました。
ベアドップとの闘いから3日目の朝を迎えていた。
僕の体調は完全回復! 魔力の操作もかなり覚えてきたので、その練習とリハビリを兼ねて今日は朝早くから、コルコネ村周辺の森の中を探索し歩き? いや走り回っている。
「体が軽い」
大木の合間を縫うように人が一人通れるだけの小道を軽やかに進む。
うん、無重力空間を歩いているみたいだ。自分の体の重みを全然感じない。
自分の体の性能に驚いていた。
「リハビリとか無重力空間とか、前世の記憶が戻りつつあるのかな?」
僕は、あまり聞きなれないだろう言葉を自然と口にする事が多くなってきた気がする。
アマネを家族として迎え入れた辺りからだろうか? 徐々にではあるが、昔の自分の事を思い出す事が多くなってきているような気がした。
僕は、このエルデリードの世界以外、つまり異世界の記憶がある事などだ。アマネやマリア村長に聞いても、そんな言葉はこの世界では聞かないと言っていたからまず、間違いないと思う。
ただ、思い出す事は、前世だと思う世界の単語や名前などで、自分自身がどうして倒れていたのか、とか、怪我をしていたのか、とか、僕が一体何者なのかは、まだ思い出してはいなかった。
ただ、何者か? については・・・
「まさか、神様だったなんて、意味がわかんないです」
朝露で濡れる木々の間を歩きながら、僕は独り言を言っていた。
神様(女神)。それが僕の正体だった。
ベアドップを撃退した後、アマネが気絶した為、確認は次の日になったのだけど、アマネの天職への解放は魔道鑑定具での調査でも同じ結果が出た事と、アマネが目を覚まし、最初に発した言葉が
「わが主神たるマコト様! おはようございます!」
だった。
それに、天職、巫女の解放は神以外、できないというので、その時点で僕が神である事は疑いようもない事実だそうだ。
まあ、どうして僕が神様なんか、とは思うけど事実は事実として受け止めるしかない。
ただ、一つ気になることがある。
アマネを僕の眷属、家族にしてしまったのは、あの大型魔獣の襲来を撃退するために、偶然に、やってしまったという事だ。
アマネの了解も得ずに、僕も何も知らない状態で眷属にしてしまった。アマネにとってそれが幸せな事なのか、それとも本当は巫女になど成らなかった方が良いと思っていたのか、それが今は気になる。
そんな事を考えながら森の中を進んでいると、小さい池の畔にでた。
「うわぁ~! きれい・・」
絵の具の様な鮮やかな青色の水、波紋も何もたたない時が止まったように、朝露に濡れる新緑の葉を鏡の様に映し出すその光景は、とても新鮮でとても懐かしくて、とてもきれいだった。
僕はその光景に見惚れ暫く佇んでいた。
すると池の水にいくつかの波紋が広がって行くのが見えてきた。気になった僕はその波紋が広がり始めた方へと視線を送ると、木々の枝や葉に隠れるその先に・・・
「アマネ?」
何気なく僕は、名前を呼んでいた。
「マコト様? おはようございます。こんなに朝早くにどうかされましたか?」
満面の笑みを僕に向けて、挨拶してくれるアマネの姿がそこにあった。
「え? あ、その、体も完調したし、ちょっと朝の散歩を、と、おも・・・・って?!」
僕は今、たぶん釘付けになって目を離せなくなっている。顔がどんどん熱くなっていく。恥ずかしはずなのに見惚れて動けない!
「どうかなさいましたか?」
そんな僕を不思議に思ったのかアマネが水に波紋を散らしながら近寄ってきた。
「きれい・・」
「え?」
本当に綺麗なんだもん! 僕よりよっぽど女神様なんじゃないかと、本心から思える。
白装束一枚だけで、池の水に浸かっていたのだろ。うっすらと透ける肌と、しっとりと濡れる黒く長い髪が輝いて見える。絶世の美少女はアマネの事を指すんだろうと、僕は思うね。
「その、あまりジロジロと見られると、恥ずかしいです・・」
「ああ! ごめん、つい」
「いえ、ここでなくて、お家の中でしたらいくらでも・・・」
な、なんてこと言うんだ! この娘っ子は! 顔から火が出るかと思ったじゃないか!
僕達は暫くの間、向かい合いながらも、まともに顔を見る事が出来ないまま、じっとその場に立ったままでいた。
「クシュン」
くしゃみ?
「ご、ごめん! その格好じゃ風邪ひいちゃうね」
「す、すみません。服、着替えますね」
小さく会釈して、アマネは近くの木々の中に入っていった。そこには幾つかの衣類が枝とかに掛けられているのが見えたので、そこで着替えている事がわかる。
い、いけない! 想像しちゃう! 神様なのにこんなに煩悩だらけでいいのか? やっぱり僕には神様なんて向いてないのかもしれない。
ゴオオー!
風? アマネの入っていった林の方から暖かい風が巻き起こったけど、すぐに止んでしまった。
何だろう?
「お待たせしました」
そのすぐ後にアマネは巫女装束姿に着替え現れた。
これは、毎朝このコルコネ村の近くにある、御神木に祈りを捧げる時に着る装束らしいんだけど、僕の記憶にも、これと同じ物を見たことがある気がしたんだ。前世の記憶なのか、この世界での記憶なのか? でも巫女装束と言われて違和感が無かったのは確かだ。もしこれが前世の記憶をもとにしているなら、この世界って前世と似たところがあるのかもしれないと、思ったんだ。
ああ、そうか?
「ごめん、祈りの為の禊、だったんだ。邪魔してごめんね」
「そ、そんな事ありません! それどころか神水で清められましたから、いつも以上に浄化されたと思いますよ?」
嬉しそうに、自分の体を見ながらそんな事を言ってくれる。
そう言えば、僕の足が少し池の水に浸かっていたかも? そんな事で喜ばれるのもどうかと思うけどね。
「でも、少し困った事がおこりました」
「な、何!? どうしたの?」
「それが、今までは、この森の御神木、つまり以前、この世界の神、エルデリード神が座したと言われる大樹を、いつでもお戻りになられるよう、この村の方々が手厚く守られ、巫女職を持つものが、祈りを捧げてきたのですが、今、女神様、マコト様が降臨されましたので、朝のお務めはマコト様だけにさせていただいた方が良いのではと?」
朝の務め? 祈り? 僕に? う~ん、想像すると相当恥ずかしい気が・・・
「い、一体どんな風にするのかな?」
「はい、その昔、お隠れになる前のエルデリード神がその大樹にお座りになられた時、コルコネ村の巫女に、御身が座する間は、朝の務めを求められたそうです。それは、この身を包み隠さず御身の前に捧げ委ねる事だったそうです」
はあ~?? それって、綺麗なお姉さんに来てもらって、自分の好きなようにさせろ! と言っているようなもんじゃないのか?
「その後すぐにお隠れになったので、それ以降はその大樹を神の身代わりとして祀り、今に至っているそうです」
やり放題やって逃げた最低男にしか思えなくなってきた。
勝手に世界を放りだして世界を危機に陥れたといい、会う事がもしあったら一発殴ってやりたくなってきたぞ!
「わかった。とにかく僕もその大樹の所にいくよ。それで今後どうするかその大樹に聞いてみよう」
「わ、わかりました! 大樹様には申し訳ありませんが、もしマコト様がこの地を離れる事になったら私は何を置いてもマコト様についてまいりますので、一応、大樹様にはお話しておく必要はあるでしょうしね」
「大樹様に了承してもらわなくても大丈夫なの?」
「なんで、大樹様にわざわざ断りを入れる必要があるのですか?」
なんだか、可哀想な大樹様。アマネ大樹様に対して淡白だね?
そして僕とアマネは、その大樹様の所へと向かった。
読んでいただきありがとうございます。




