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襲来と巫女 3

投稿いたしました。

「ロイ! それじゃこのお嬢ちゃんを頼んだよ。わしも前線の指揮をとらないといけないからね」

「分かりました! みんなを無事に避難場所に誘導したら俺も直ぐに向かいますから!」


ロイという青年は、額に手を当てると、部屋を出ていくマリア村長に直立で啓礼の様な状態で送り出してから、僕の方に振り向いた。


「えっと、お嬢さん」

「あ、マコトと言います」

「マコトさんか、今から俺について来てくれ。村の女、子供を連れて避難場所に向かうから」

「はい、お願いします」


とにかく今は、僕に出来る事はみんなの無事を祈って、村の人と一緒に避難するだけだ。


「ロイさん」

「は、はい!」


何故か顔を赤くしているのはどうしてだろう?


「大型の魔獣って、そんなに強いのですか?」

「あ、ああ、このところ魔獣の大型化が顕著なんだが、こんな大きな魔獣は初めてだ。ドルガさんも元冒険者でAランクをはっていた有名人なんだが、引退して長いし、討伐は難しいかもしれない。それ程の大物だよ」


ドルガさんって村の人からそれだけ信頼されている程、強いんだ。ただそれでも勝てないかもしれないのか?


「でも、大丈夫なんですよね?」

「そうだな。他の連中もいるし多勢で押し切ればなんとかなるはずだよ」


僕はロイの言葉に少し安心しながらも、それだけ強い魔獣相手にアマネさんがその近くに行くこと自体が心配で胸が痛くなってくる。


「ロイさん、とにかく皆を非難させましょう。僕も手伝いますから」

「ありがとう。それじゃあ、皆にこの家に一度集まるようふれ回ってほしい」

「分かりました!」


僕と、ロイさんは二人同時に村長さんの家を飛び出すと、二手に分かれ村の中を駆け回る。


「アマネさん、どうか無事でいてください」



~ドルガ魔獣戦~



「くそー!! 止められねぇ! なんて馬鹿力なんだよ!」


その大きな魔獣は、体中に巻き付いている太いロープそのままに、村へと歩みを止めずに進んでいた。ロープを繋ぎ留めていた、大人が抱えきれない程の大木がその力に負け引き抜かれ、太いロープは次々と千切れていく。

その間にも、周囲から弓が飛び、槍がその魔獣目掛けて突き出されるが、その厚い毛皮に阻まれ深い傷をつける事が出来ないでいた。

その中で、唯一ドルガの大斧が魔獣の毛皮と表皮を引き裂き、血を流させていたが、それでも致命傷になるには程遠かった。


「ちっ! ベアドップ、のさらに大型化した魔獣か。唯でさえAクラスの大型魔獣なのに、さらに大型化しやがって、力が桁違いじゃねぇか!」


舌打ちするドルガ。彼も十数年前までは一流の冒険者として世界に名を知られる程の強さを誇っていたが、それでもこの化け物相手では進行を遅くするのがやっとだった。


「ドルガさん!」


大型の長剣を肩に乗せた40過ぎくらいの男性が、声をかけてきた。


「どうした、バルバ!」

「アマネが正門の外まで来てくれたそうだ。怪我人を一旦引かそうと思うが大丈夫か?」

「ああ、ちょうど良い。誘導するくらいなら残った俺達だけでも十分だ。引くついでに罠の状況も確認しておいてくれ」

「分かった! じゃあ後は、タイミングを計って実行するよう待機しておくぞ!」

「頼む」


バルバが去り、数人の仲間と怪我人を抱え、後方に下がるのを確認するドルガ。


「よし! そんじゃあ最終地点に向けて、進むとしようか!」


そう一声大きな声をあげると、体の大きな自分の上半身と同じ様な大きさの大斧を軽々と持ち上げ、前に構えて魔獣と相対した。


「さあ、良い子だから、こっちに来るんだぞ!」



~コルコネ村正門前~



「アマネさん! こっちもお願いします!」


また、負傷者が運ばれてきた。

村の正門の直ぐ内側に、臨時の救護所が設けられ、十人くらいの男達が包帯を巻かれて休んでいた。

アマネはそんな中、まだ重症者が出ていない事もあって、軽症の者から治療を施していた。


「すまんな、これぐらいの怪我で」

「いいえ、なるべく完調の状態で前線に戻っていただかないといけませんからね」

「はは、優しい顔してきつい事言うなぁ、アマネさんは」


そう口にする村の男の顔は、笑っていた。


「少し動かないでいてくださいね」


アマネは村の男の怪我をした太ももの上に両手をかざし、目をつむり集中しだした。


「我が手の中の壊れし身物、在りし形へと戻し願う・・・」


小さく呪文のように言葉を紡ぐと、手の平から光が灯り、怪我をした足全体を包み込んでいった。

その間、ほんの数秒だった。


「お! 完全に傷が塞がったみてぇだな。ありがとよ!」


簡単に、お礼を述べた村の男は、そのまま立ち上がり、横に置いてあった大鉈を担ぎ上げ、颯爽と、正門をくぐり魔獣のいる森へと駆けていった。

それを見送る、アマネの表情は怪我を治した者の顔ではなく、情けない表情をしていた。


「この腰の刀を、私が自由自在に操れれば、皆の役に立てるというのに・・・」

「何、言ってんだい。今でも十分に村の者の役に立っているじゃないか」

「きゃ! ババ様?!」


アマネの傍にいつの間にか立っていたマリア村長が、アマネのお尻を叩きながら、檄を飛ばしてきた。


「何だいその出で立ちは? 巫女の戦闘装束じゃないか? あんた戦闘にでも向かうつもりか?」


マリア村長の言葉に、複雑そうな顔をするアマネだったが、首を横に振り否定する仕草を見せる。


「今の私では足手まといですから、ここで皆の支援に徹します。でももしこの場が戦場になる時は、敵わないまでもこの村の為に戦います。それが無能職持ちの私を受け入れてくれたこの村へのお礼ですから」


マリア村長は、何かを言いかけたが、アマネの表情を見てその言葉を飲み込む事にした。


「分かったよ。まったく義理堅いというか、堅物というか、巫女って言うのは、皆そうなのだろうかね?」

「どうでしょうね?」


二人は並んで正門の奥にある森を見つめながら、笑みを浮かべていた。


「さて! みんな! そろそろドルガ達がこの正門前に魔獣を連れてやってくるよ! 魔獣の姿を確認したらすぐに正門を封鎖! 手筈通りに罠を発動させるよ!」

「おおおお!!!」


正門周辺に陣取っていた数人の男共が、マリア村長の掛け声に、一斉に反応した。


それからほんの数分後、奥の森から大きな樹木が薙ぎ倒される音がし始めた。


「来るよ! 準備おし!」


マリア村長の言葉に、村側は静まり返り、森からは次第に大きな音が地響きをたてて近づいて。


バキバキ!! ガン! ズドーン!!

ヴォオオオオオオ!!!!!!!


「で、でかい・・・」


村の男の一人が呟いた。その言葉に誰も反応せずただその大きな魔獣を見上げてしまっていた。


「ばかもん! 正門封鎖じゃ!!」


マリア村長の激に全ての男共が間髪入れずに反応したが、その声に魔獣も反応したのか正門の方へと進み始めた。

一人の男が村を守り大きな壁に上で、これまた大きな蔦を大鉈が振るい断ち切った。

バン! ズドーーン!!!


それと同時に、人の10倍はありそうな大きな正門が蔦を切られた反動で地面物凄い勢いで落下していった。

魔獣はその正門の動きを見てそれにつられるように前に進む。

しかし、その後方からはドルガ達が十数人掛かりで魔獣に掛かっているロープを引きその進行を防いでいた。


「よし! 今だ! ロープを放せ!!」


ドルガの掛け声とともに幾つも絡んでいたロープが一斉に外された。

魔獣は今まで後ろに引かれていた力が一気に無くなった為、前につんのめりそうになり勢いをつけて前に向かって走りだした。

その時だった。


バキバキ! グワァシャ!!!!


魔獣が一歩踏み出した前足が地面の中に埋没し、その体重と勢いのせいでそれを止める事が出来ず、落下するように地の中へと埋没していった。


「放て!」


マリア村長の掛け声で、待機していた弓をもつ男共から火の矢が魔獣の落ちた落とし穴へと目掛けて降り注ぐ。全ての矢が魔獣の落ちた穴に吸い込まれ、一瞬静けさがその場を支配した瞬間、轟音と共に火の柱が穴から天空目掛けて立ち上った。


「よし!」

「やった!!」


穴の周りに集まった村人から、歓声があがる。


「よくやったね、ドルガ」

「まあな。でも結構手こずったぞ。あんな化け物始めてだからな」


マリア村長の所にドルガがやって来て、燃え盛る炎を前に魔獣の事を話していた。

「最近特に大型の魔獣や、強力な魔法を放つ怪物まで出始めてやがるからな。もっと防御を固めなきゃ駄目かもしれんぞ」

「そうだねぇ。それでもこの方法ならまだなんとかやっていけそうだ」


二人は、今回の魔獣の大型化が異常であることを感じながらも、現状、対応できる事に一応は納得していた。


「ドルガさん、お疲れ様でした」

「おう、アマネか。ありがとうな。お前さんが治療してくれたおかげで、前線の戦力が維持できたんで助かったぜ」

「そんな、大したことではないですよ?」

「謙遜すんなって。ここにいる誰が欠けてもあんな魔獣とやり合えないんだからな」


ドルガの言葉にアマネは少し恥ずかしいものの、自分が少しでも役に立てた事が嬉しかったようだ。


「さて、炎が沈下したら、魔獣からの戦利品を回収するよ」


マリア村長の声で皆がそれぞれの場に戻り始めた。


ドン!!


「ん?」


グァガガギャガガガドガ、ガガガガガガ!!!


「な?! なんだ?!」


アマネ達が立つ地面がいきなり揺れだし、大きな地響きが村中に轟きだした。


ありがとうございました。また来てくださいね。

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