襲来と巫女 2
投稿いたします。
「今は、鑑定魔道具で判るようになっています」
「へぇ、そんな道具があるのですね?」
「はい。神様が居た時には、巫女の仕事の軽減目的で作られたのですが、巫女達の判定を聞く方が簡単だったのでそれほど普及はしていなかったのですが、神が姿を消されてからは一気に普及した魔道具です」
話しを聞いて、僕は魔法がある事に何故かワクワクしていた。なんだろう? この高揚感は? 僕は魔法という言葉に凄く興味を魅かれた。昔から知っているような、憧れだったような? とにかく僕の記憶に有ったんだと思う。
ワクワクとする一方、僕は神様がもともとは、身近に居て、それが突然居なくなるという事はどうなるんだろう? という疑問が頭に浮かんだ。
「アマネさん? 今、この世界には神様が居ないのですよね?」
「そうです」
「それってこの世界にとって、アマネさん達、住んでいる人達にとって影響が出なかったんですか?」
僕の質問に、アマネさんは少し驚いた後、直ぐに僕に微笑んでくれた。
「マコトさんは、本当にお優しい方なんですね。私、たぶんそんなマコトさんだからこれだけ興味を持ったのかもしれませんね」
「え? 僕なんか普通ですよ? それよりもアマネさんやドルガさん、マリア村長さんの方がよっぽど親切で優しい方ですよ。見ず知らずの僕をこうやって治療してもらい、休ませてくれているのですから」
「ふふ、じゃあお相子ですね。だから遠慮なんかしないでくださいね」
優しいアマネさん。でもどう見ても僕の方が世話になりっぱなしの様な気がする。本当にいつかちゃんとお返ししなきゃいけないと思いながら、小さく頷いた。ここはお言葉に甘えておこう。
「それで、神様の件ですが?」
「あ、ええ、そうですね。確かに神の存在が消えてから、この世界には不安が広がりました。特に500年前神が消えられた直後は、国同士での戦争が耐えなかったそうです。相手国が神を独占して隠されたのではないかとかの理由で」
まあ、そう考える人も出るのか?
「それも50年くらいで落ち着いたそうですが、その後です。鬼や悪魔が現れ、魔獣が大型化したと言われています」
「それは大変な事じゃなかったんですか?」
「はい、初めの頃は鬼や悪魔達による侵略が凄まじく、人は世界の果てまで追い詰められたと聞きます。しかし人も魔法の強化や魔道具を進化させ徐々に勢力を戻し、今では世界の5分の1を人類が、5分の1を鬼族、5分の1を悪魔族で支配され拮抗している状態ですね。残りは精霊界などの他勢力になります。ちなみに魔獣はどこにでもいますので3大勢力や他の者でそれぞれが対抗しているといった感じです」
なるほど、楽観できる状況じゃないけどなんとか、やっては、いけているわけだ。
「ただ、年々魔獣の脅威が大きくなっていますし、鬼族の動向も気になりますので、人類にとっての悩みは絶えませんね。けどこの数年悪魔族が大人しくなってきているのが幸いでしょうか?」
そういうアマネさんの表情は暗かった。確かに人類にとっては良い状況ではない事は今の出分かったけど、アマネさんの表情はどちらかというと悔しそうな感じに見える。
「アマネさん、何か思うところがあるんですか?」
「え?」
「いえ、何かアマネさん、辛そうでしたから」
目を大きく見開くアマネさん。
「どうして判るんです?」
「いえ、何となくです。ただアマネさんが辛そうだと僕も嫌な気持ちになってしまったのでつい聞いてしまいました。嫌でしたら聞き流してください。」
僕が頭を下げ謝る。暫くすると僕の頭に柔らかい手が乗せられてきた。
「どうしてでしょうね。マコトさんって凄く温かくて、こうしていると嫌な事や辛いことをちゃんと受け止められる強さをもらえるような気がします」
アマネさんの僕を見つめる表情がとても魅力的で、僕は顔を赤くしていると思う。
アマネさんも少し頬を赤くしているように見え、僕達はお互いを見つめ合って動かなかった。
「ゴホン! 少しお邪魔していいかの?」
マリア村長さんの声がいきなり聞こえたので、僕達二人で驚いて少し後ろに座ったまま飛び退いてしまった。
「おやおや、いつの間にそんなに仲良くなったんじゃ?」
そう言って冷やかすマリア村長さんの言葉に、僕達はお互いを見た。
飛び退いた時にお互いを庇い、体を支え合ったせいで顔を間近にしながら抱き合っている状態になっていた。
「ご、ごめんなさい!」
「い、いえ、こちらこそ!」
僕達は瞬間的に間を取ると、少し恥ずかしくてお互い下を向いてしまった。
「別に、女の子同士なのじゃから、抱き合ったって誰も咎めはせんよ。異性どうしならこの村長の鉄拳が落ちていたかもしれんがのう?」
ニッと笑う村長の顔は、本気と書いてあるように見えた。
「さて、アマネから色々聞いたと思うが、そろそろ鑑定をさせてもらおうかと思ってきたんじゃが?」
「そうですね。僕も自分の素性が少しでも分かれば、記憶の戻りも早いかもしれませんから」
「そう言ってもらえるとたすかるよ」
「マコトさん、良いのですか? 少し体を休められてからでも良いですよ? 少しお疲れでしょう?」
不安そうな顔で僕を心配してくれる。
「大丈夫だよ。ありがとう、アマネさん」
「・・・・・・・・・・・」
「ゴホン!! 何また見つめ合っているんじゃ? 鑑定が終わったらいくらでもさせてやるから今は我慢おし!」
させてやるって、何か卑猥な感じに僕とアマネさんが再び赤くなって俯いてしまった。
「やれやれ、それじゃあ、この鑑定魔道具に・・・」
「村長!! 大変だぁ!!」
突然、扉をけたたましく開ける音と共に、大声で若い男の人の声が家中に響いて聞こえた。
「どうしたって言うんだい!?」
ドタドタと上がり込んできたのは、最初に僕が会った門番のあの若い青年だった。
「村長! 出やがった、大型の魔獣だ! もう村の入り口近くまで来ている! 今ドルガさん達の守衛組が応戦しているが、防戦一方らしい。けが人も出ているようだから、アマネさんには治療師として、来てもらえないか!」
青年の形相が只事でないことを物語っていた。
魔獣、さっきアマネさんが言っていた、神が居なくなってから大型化した、魔法の力を使用する獣。あのドルガさんが出ているのに、防戦一方だなんて、いったいどんな化け物なんだ?
「分かりました。直ぐに向かいます!」
「助かる!」
「アマネ、無理すんじゃないよ。あんたの天職は、今は使えないんだからね!」
マリア村長の言葉に一瞬躊躇うような仕草を見せるが、一呼吸をおいて大きく頷く。
「分かりました。無理は致しません。でも刀は持っていきますから」
「・・・・仕方ない。でもあんたは治療に専念するんだよ!」
「はい! マコトさん、あなたはこのロイについて行って避難してください」
アマネさんは僕の手を強く握り、さっき飛び込んできた若者、ロイについて行くように言ってくれる。
「でも、大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。幸いドルガさんもいますから、この村の砦を突破されることはないでしょうから」
「そうですか・・・気を付けてください」
「はい。じゃあ行ってきますね」
そう言葉を残し、彼女は部屋を後にし、駆け出していった。
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