襲来と巫女 1
投稿いたしました。
夢、を見ていたと思う。とても重要な夢だった様な気がする。
「マコト・・・・名前? 僕の? トカゲ? 竜か? 神? なんだ?」
それだけだった。夢で見たはずの大半は忘れ、思い出せない。ただ、断片的な言葉と、マコトの名前だけを思い出していた。
とりあえず、マコトは僕の名前だと思う。言葉に出した時、何の違和感も無く受け入れることが出来たからだ。
それよりも、名前を思い出したということは、それ以外も思い出す事が出来る可能性があるということ。
僕は、自分の記憶が戻る前兆というか、切掛けをつかんだ事に取りあえず安堵した。
「気付かれました?」
優しい声が僕の耳に届いた。
とても温かい。凄くいい匂いだし、感触もフワフワして気持ちいい。何だろうこの感じ?
僕は不思議な感覚に抱えられている様な気がして、それが何か確かめたくなった。
目を開ける
僕はその声の主を探し、首を横に向けた。
どうも僕は、寝ているようだ。僕の目線には枕の様な物と布団が見え、その直ぐ先に正座をして座っている、綺麗な少女を見つけた。
どこかで見たような? ・・・・! ああ!そうだ。アマネさんだ。
僕は寝ている体を起こそうと、右手を着いて体を捻る。
「そのままで結構ですよ。あなたは、ドルガさんが連れて来られてからこの3日間、ずっと寝っておられたのですよ?」
「え!? 三日間も、ですか?」
僕はアマネさんの言葉に甘えて、横になろうとしたけど、3日も寝込んでいたと聞いて飛び起きてしまった。
「ふふ、その様子だと、もう体の方は大丈夫のようですね」
アマネさんは僕が飛び起きた様子を見て、頷いていた。
改めて布団の上に座り、自分の体のあちこちを確認してみたが、特に問題なさそうだ。
そういえば頭に大怪我していたような?
怪我をしていたはずの所を手でゆっくりと撫でてみる。
ん? 特に痛くもないし、傷の後の様なものもないぞ? 結構大怪我だった様な気がするんだけど?
「その頭、確かに3日前は大きな傷があって血がまだ滲んでおりましたが、その日のうちに傷が塞がり、次の日には跡形も無く消えてしまったわ」
「え? 一晩で直ったんですか?」
僕はさすがに疑ったが、実際、傷痕も無くなっているし、本当の事なんだろうけど、そんな事ってあるのか?
「その様子だと、自分でも良く分かってないようですね。たぶんですが、再生能力があると思われます。そして再生能力は自然治癒力とは違って、魔力を操れる魔操士じゃないと出来ない芸当です。それに、こんなに早い再生は見たことがありませんので、あなた結構高位の魔操持ちだと思います」
「魔操持ち? ですか?」
「それも忘れてしまわれたのですか? これはかなりの重症みたいです」
首を振るアマネさん。本当に分からないんです。ごめんなさい。
「では簡単に説明いたしますね?」
「はい! お願いします」
僕の返事に微笑んでくれるアマネさん。
優しくて綺麗な人だな、と改めて再認識した。
「まず天職とか後職とか関係なしに魔法を操れる才能がある者を総称して魔操持ちと言います」
「天職? って、なんですか?」
「それも、説明が必要ですか?」
「本当にごめんなさい! お願いします。」
僕が何も知らない事に、呆れるわけでもなく、優しく頷いてくれるアマネさん。こういう人を天使とか言うんだろうな。
天使? なんでそんな名前知っているんだ? やっぱり記憶が少し戻り始めているのかも?
あ、そういえば!
「アマネさん」
「はい、何でしょう?」
「その、僕の名前なんですが、マコト、というのだと思います。さっき夢を見て何となく思い出したんです」
僕は自分の名前を思いだした事を伝え忘れていたので、アマネさんに伝えた。
するとアマネさんが、少し驚いたかと思うと、笑みを浮かべて頷いてくれた。
「本当ですか?! 良かったです! これをきっかけに記憶も少しずつ戻ってくるかもしれませんね」
本当に嬉しそうに喜んでくれるアマネさん。傷を治してくれたのもアマネさんの様だし、いつか恩返ししないといけないなぁ。
「えっと、マコトさん?」
「は、はい!」
「説明の続きをいたしますね?」
「あ、すみません。お願いします」
途中で話の腰を折ってしまった事を謝罪しながら、説明の続きをお願いした。
「分かりました。まず、天職。これは正しくは先天性適正職業と言います。これはその人が生まれ持った得意な職業の事を表しています」
「先天性適正職業、ですか?」
「はい。そして魔操持ち。これは先程説明した通りで、魔力を操作できる者を総称として言います」
「魔法使いではないのですか?」
「魔法使いは、職業ですね。そうですね例えば、天職が剣士で、魔操持ちならば、魔剣士として、剣も魔法も使いこなす事が出来ますが、天職が剣士だけで、魔操持ちの素質が無いと、ただの剣士でしかありません。この差は歴然とした差が生まれます。剣の能力に魔法を操れる力が加われば、体の耐久強化や耐性強化、運動強化に反射強化等の基礎力が著しく向上する剣士となるので、ただの剣士からすれば、蟻と竜ほどの差となってしまうのです」
う~ん、どちらも才能なんだろうけど、天職が職業スキルみたいな物で、魔操持ちは補助スキルなのかな?
「つまり、天職が魔法使いで、魔操持ちということもあるんですか?」
「勿論あります。そういう者はたいてい、王宮魔導師とか、賢者とか言われる高位の存在になる事が多いですね」
なるほど。
「でしたら、魔法使いで、魔操持ちの才能が無い人もいるんですか?」
「はい、たまにおられますよ。そういう人は、はっきり言えば、無能扱いされてしまいます。ですので、別の職業を一から修練して後天性適正職業、つまり後職と言っていますが、それで新たな職業を獲得し、それを使って魔法使い以外として生活していきます。どちらが良いという訳でもないのですが、どうしても天職の方が才能、資質という面で有利なのは仕方が無いようです」
あれ? なんだろう。後職の話が出た頃から、アマネさんの表情が少し暗い感じがしたんだけど? 何か嫌な事でもあったんだろうか?
僕は一瞬そんな気がしたんだけど、今は感じないから、気のせいだったのかも?
その事は触れられたくないのかもしれないし、ここは先に聞いてしまおう。
「その天職とかはどうやって知るのですか?」
「その昔は、神が巫女にその鑑定能力を与え、各地区の巫女がエルデリードの世界に住人に告げていたと言われています」
「言われていた?」
「ええ、今では神がこの世界には存在しませんので、巫女が告げる事もなくなりました」
「え? 神様が居ない? のですか? ではどうやって天職を確認しているんです?」
あ、また少し暗くなったアマネさん。
今度は見間違いじゃないけど、あまり聞かない方がいいのかもしれないな。
読んでいただきありがとうございます。