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 森の外れの秘密の洞窟。気絶したユウナとバルトは何故かそこで寝ていた。


「ん――。」


 ユウナの意識が覚醒する。どうにもおかしな感じがしながら体を起こしてそこが洞窟であることに気づく。


「ここどこ?なんでこんなところに……ってオークは!」

「オークはもういないよー。我とユウナの愛の力によってきれいさっぱり消えたのだよー!」


 ユウナの耳に見知らぬ声が入ってくる。声の発生源を見ると見たことの無い銀の長髪の男がいた。


 誰だこの人? 見た目はかっこいいな。うん。


「ああ、ユウナー!会いたかったのだよー!我ずっーとユウナとこうして話したかったのだよー!」


 破顔した顔でユウナの顔を手で挟んでくる。突然男の顔が近づきユウナは固まる。


「ああユウナ。本物のユウナだ。この肌触りに瞳に髪に腕にお腹に足に全てがユウナだ。」


 うっとりとユウナの体を撫でていく。ぞわぞわと変な感覚がする。その手を徐々に降りていきユウナ胸へと触れる。


「おっぱいはそんな成長しなかったみた――ごふっ。」

「ああん?」


 おっぱいと単語が出たところで拳を作り怪しい男の頬に拳を放ちそのまま地面へとぐりぐりと押し当てる。別にユウナは胸の大きさは気にしていないが触られ勝手に評価されては腹も立つ。


「んあああ、ユウナのこぶし気持ちぃぃいいい!」


 男はユウナの攻撃を痛がるどころか頬を染めて身を捩りだす。気持ちの悪い声と動きに男を殴っている拳から体全体へと鳥肌が立つ。


「きもちわるーーー!!」


 ユウナは地面に尻をつけたまま器用に男から離れ洞くつの壁へと寄りかかる。


「なんなの! 果てしなく気持ち悪い! てか誰なの!?」


 離れていくユウナを見て残念そうに立ち上がった男は服の汚れを払いユウナへと優雅へとお辞儀をする。突然の変わりようにユウナが驚く。


「我が主、ユウナ。我は勇者の剣だ。我はユウナを求めあの日ユウナの元へ現れたのだ。」

「勇者の剣? どこからどう見てもあなた人間だけれど。」

「ふむ。これならどうだ。」


 男は指をパチリと鳴らすと勇者の剣へとなってしまった。


 は……?


 ユウナはあまりのことに声が出なかった。

 ユウナの様子に満足したのか剣がポンと音を立てて先程の男が現れた。


「これで信じてもらえたか。さてユウナ、我の主はユウナだけなのだ。ユウナの魔力の質、量。どちらも最上級で我はユウナが欲しくてたまらないのだ。」


 欲に濡れた目をユウナへと向けてくる。悪寒が走り喉が鳴る。


 私の魔力の質と量がいい? それはおかしいだろ。


「勇者の剣。お前は勘違いをしている。私には最低限の魔力しかない。さらに魔法も扱えない。そんな人間の魔力がいいなんてとんだ悪食だな。」


 捲し立てるように一気に言う。どっか行けどっか行けと心の中で呟いている。


「くくく、勘違いはお前達の方だ。ユウナ、お前は魔力を使う能力がないだけでその器は魔力を貯めるのには最適なのだ。それにもうさっき使った魔力が回復しておる。ああ、なんと素晴らしいこと。」


 至極真面目にいい顔で言ってくるのでこちらの自然と背筋が伸びる。


 本当のことなのか? このセリフで魔力を除いて聞いてみると体目当ての変質者みたいだけど……。もしかして案外まとも? よく考えたら剣だし! それも伝説だし!


「さあ! 我と交合おうよ!」


 ユウナの顔が真顔になる。意味が分からないほど子供ではないがそういったこととは無縁のユウナは頬を染めたりもしない


 大丈夫かと思った矢先にこれか……。


 ユウナは目一杯息を吸い込む。


「近寄るなこの変態ー!!」


 ユウナの叫びが洞窟、さらに森へ木霊こだまする。


 ただの変態だ!これただの変態だ!


「バルトでもいいだろ!バルトの魔力量もかなりのものだろ!てか絶対そっちの方がいいって!」


 ユウナは保身のためにバルトを犠牲にすることにした。

 バルトは勇者になりたがってた。その勇者の剣と寝るんだ。たぶんいいことだ。うん。


「確かにーバルトもよかったよー。でもユウナには劣るのー。あ、でもバルトの魔力はなんかすごい焦らされるの、あともうちょっとってところでいっつも焦らされてそれが癖になってきてるっていうかあ、気持ちいいっていうかあ――。」


 バルトの方をちらちらと見ながら美青年が頬染めて腰をくねらせている絵面にユウナの顔はさらに真顔になっていった。


「――焦らしプレイ最高♡」

「バルトと末永くお幸せに。」


 ユウナはそれしか言えなかった。とりあえずこの男と一緒になりたくない。それだけだった。


「それはダメ。我はユウナがいいのだ。ユウナに近い存在はいてもユウナ以上はおらぬのだ。なあユウナ勇者となって一緒に魔王を倒そうではないか。」

「いやだ。」


 間髪入れず答える。

 なぜ私がそんなめんどうなことを勇者なぞバルトでもいいだろうに。


「言っておくがバルトでは魔王は倒せぬぞ。」


 ユウナを思考に答えるように勇者の剣がいやらしい笑みを浮かべ言葉を発する。男の発言にユウナの顔つきが真面目になる。


「バルトは確かに魔力量は多い。しかしそれは有限。回復するまでの時間がユウナと大違いだ。ユウナ、お主は戦いながらも魔力が回復するのだよ。今回のオークは初めて魔力を使ったせいで制御が出来ず一気に使ってしまい倒れたがユウナなら魔力切れで倒れることはない。」


 男の言葉を聞きながらユウナはどうやって勇者にならないで済むか一生懸命考えていた。


「ユウナ諦めろ。大人しく我の手を握れ。」

「いやだ。」


 普通に嫌に決まっている。変態の手なんて触りたくもない。


「はあー。強情よな。──バルト、お主の言った通りだな。」


 ユウナはばっとバルトへと顔を向ける。バルトはゆっくりと起き上がる。その動作はとても寝ていた人物とは思えない意識のはっきりした者の動作だった。


「バルト、いつから。」

「最初からよなー。ユウナが起きる前に我が起こしたんだもーん。で、バルトよ。お主は選ばれたわけではない。ただのおこぼれ勇者なわけだがどうする?」


 口角を吊り上げ嘲笑うようにバルトを見下ろす。バルトはその視線を真っ直ぐ受け止める。


「俺はたとえおこぼれだったとしても自分でなるって決めたんだ。それに――。」


 バルトがユウナの方を見る。何かを訴えるような眼だが何を思っているかユウナには分からない。


「お前こそ本命に断られたんだ。俺に縋るしかないだろ? ユウナの次に俺の魔力が質も量もいいって前に言ってたよな。」

「んーそうなんだよなー。でもそしたらお主めちゃめちゃ修行しなきゃ魔王と戦って死んじゃうぞ。」

「死ぬかなんてやってみなきゃ分からないだろ。勇者はこの俺だ。」


 確かな意志を持った瞳が男を射抜く。男はその目に満足そうに笑う。


「仕方ないのー。我心ちょー寛大だからバルトで我慢してあげるー。バルトが死ぬ所我が見ててあげるからのー。」


 バルトが死ぬ。それは、それは……。


「待て!」


 ユウナは気づくと声を上げていた。


「どうしたんだーユウナー?」


 ユウナの声を聞き待っていたと言わんばかりに勇者の剣が素早くユウナの方を向く。


 バルトが死ぬと言ってたがそれは魔力切れによって戦えなくなって敵に殺されるという事だよな。なら魔力切れを起こさなければいいんだろ。なら……!


 ユウナは立ち上がりバルトの元へと腰を下ろす。バルトの手を取る。


「ユ、ユウナ……?」


 突然手を握られて焦るバルトを気にすることなくユウナは集中をする。


 私に魔力があるならバルトに移すことも出来るはず。オークと戦った時剣に私の魔力が渡ったのは事実。ならバルトにも。


 バルトへ魔力が流れるイメージをする。自分の魔力自体感じることの出来ないユウナだがそれでも自分の魔力がバルトへ流れるのを想像する。体から何かが流れていくのを感じる。


 これが魔力?よくわかんないけど……。あの時剣を握った時と同じ引っ張られる感じ……。お願い! バルトにいって!


 ユウナの魔力はユウナの意志に従ってバルトへと流れていく。バルトもそれを感じたのか目を見開く。ゆっくりとユウナはバルトから手を離す。


「バルト。魔力はいった?」

「あ、ああ……。」


 呆然とバルトがユウナの問いに返事をする。


「勇者の剣。私がバルトへ魔力供給をすればバルトは死なないか?」

「もちろんだとも。ユウナもしや……。」

「ああ、私もバルトと一緒に魔王を倒しに行く。」


 ユウナの堂々した宣言。勇者の剣のこれでもかと笑顔を浮かべる。その顔はまるで狙っていた獲物が長い時間かけ手に入れた時のような笑顔。


「ああん! ユウナが一緒とか我昇天しそう! ユウナ愛してるよー!」


 両手を広げユウナへ飛びつこうとする。ユウナは慌てず横に避ける。そのまま男はバルトを押し潰してしまう。


「おい! どけ!」

「さて、私は帰るから。後は二人でごゆっくり。」


 あんな男とこれ以上一緒に居たくない。バルトならきっと大丈夫だ。どんなバルトでも私は受け容れる、さ……。


「ユウナ!置いてくな!ユウナー!」


 バルトの悲鳴が聞こえた気がしたがユウナは無視して洞窟から出た。


 勢いで魔王討伐について行くって言っちゃったけどまあいいか。勇者になんてなりたくないし。死ぬほど面倒だし。バルトの扱いを見てると変にチヤホヤされて居心地悪そう。でも、私が選ばれたのに何もしないじゃきまりが悪い。それに友達を見捨てる訳にはいかない。


 勇者は義務じゃないのにバルトは自分から選んだ。そんな立派な奴をわざわざ死地に向かわせるなんてそんなことさせられない。バルトは絶対生かす。命に変えても。


 あ、でも勇者と同等の扱いとか受けたくないから実は勇者として選ばれていたことは黙ってもらおう。 


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