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 はっ──、はっ──


 嫌でも息が上がる。普段ならこの程度の距離で息が上がることなんてない。けれど


「死ねぇ!」

「誰が!」


 振り向きざまにナイフを投げる。一本では心もとない二本投げ目を潰す。これの繰り返しだ。魔物の中でも速い奴が足を止めにかかる。

 それに距離を離しすぎてもいけないので調整をしたりと余計に体力を消費していた。


 なかなかの距離を走っているが先が見えない。


 これ、私の体力持つのかな。


 弱気な思考が頭を埋める。


「はぁ、はぁ、うあっ──!」


 そして地面が抉れていた箇所で運悪くつまづいてしまう。好機とばかりに一斉に魔物が向かってくる。


 急いで立ち上がるもすぐ後ろに魔物が迫っている。


 嘘だ、こんな所で死ぬのは、まだやることをやってないのに──!


 服が掴まれ後ろに引かれる。もう死ぬのかと思ったその時前の方へと飛ばされる。想定外のことに空中で惚けてしまう。


「お前! 何を考えて……まさか、あの女の子供か! その人間臭さそうだろ!」


 未だ宙にいるユウナにそんな怒声が響くがそれどころでは無い。地面が近づいてきていた。まずい、受身をとそう考えると、黒い影がユウナの下に現れそのままその影の背に乗っていた。


「……バーナー君?──うっ、まって揺れが。」

「ああ!? 揺れるのぐらい我慢しろ助けに来たんだから!」


 上下に揺られるという初めての感覚にユウナは酔っていた。それにしても助けに来てくれるなんて……。


 ユウナは信頼を預けるようにぎゅっと毛を掴みしがみつくように体を倒した。しっかりとした背中に安心感を覚える。それに速い、魔物との距離が空いていく。


「バーナー君、少しスピードを。」

「分かってる。離れすぎたらダメなんだろ。」


 そう言って距離を一定に保ちながら走る。体を預けているおかげか気持ち悪さはなくなっていた。後ろからは裏切り者といった声が混じり始めた。


「はっ! 最初から仲間でもないくせに、なにが裏切り者だ。」


 吐き捨てるように言い放った言葉がユウナの耳に届く。そうだ、最初からバルト君には家族しかいなかったんだ。


「……あ、光だ! バーナー君、出口、もう着く!」


 一気にバーナーが加速する。外に出ると眩しさに目を細める。そしてそこにはシュトレルム、フィアー、そしてバルトが待ち構えていた。


「バーナーどうして!?」

「そんなことよりも──来る!」


 魔物の群れが洞窟から出てくる。


「よっしょあ! アタシが行くよ! おらぁ!」


 前へと飛び出し左足を突き出し右の拳を握りしめ振りかぶる。


「人間如きが、死ね!」

「誰が死ぬかっての!」


 フィアーの拳が魔物の凶爪を砕きそのまま向かってきた魔物を殴り倒してしまう。


「フィアーどけ!」

「りょーかい! やっちゃえバルト!」


 目の前から人が消えるのを確認すると光り輝く剣を振り下ろした。剣から眩い光が迸り大量の魔物を飲み込んだ。ごっそりと魔物が消え、相手に動揺が走る。


「シュトレルム! 貴様よもや勇者などに与しよって!」


 ある魔物が、叫ぶ。シュトレルムはそれを受けて唇を噛み締め血が出るほど手を握りしめる。


「人間と交合い、半端者さえ生みだしたうえにこれとは、今すぐその喉を爪で切り裂かんか!」

「ちょっと黙りなさいよ!」


 フィアーが飛びかかる。しかし


「ふん、その程度。」


 片手で拳が受け止められ投げ飛ばされてしまう。


「バーナー君、フィアーの下に!!」

「は? なんで?」

「いいから!」


 切羽詰まった様子で伝えると渋々ながらバーナーはフィアーの落下地点へと入ってくれる。ユウナは両手を広げフィアーの落下に備える。


「うぐぅ。」

「ぐ、お、重い。」


 重いと言いつつしっかり立っているバーナーは偉いと思った。


「うーん、ユウナ……? おやすみ……。」

「なに寝ようとしてんの。ほら、起きて。」


 魔力を流す。フィアーが眠くなるのは魔力の使いすぎが原因なので魔力あげれば


「──ん? なんかすっきりした。よっと!」


 ユウナの腕から軽やかに飛び出す。さっきまでの様子が嘘のようだ。こんなにも変わるのかと呆れる。バーナーも乾いた目をしている。


「さーてもう一回頑張るよ!」

「頑張るのはいいけど魔力のコントロール。」

「うっ……わ、わかってるよ。今度はしっかりと全部倒すまで止まらないよ──!」


 残った魔物に向かって暴れ散らしに行くフィアーを横目にユウナはバーナーの背から降りた。


「いいのか?」

「うん。ありがとうバーナー君。」


 そう伝えるとバルトの傍による。魔力を沢山使ったせいか膝をついている。肩に手を置き魔力を流す。まだいるかな、というところでバルトが立ち上がる。


「もういい。」

「本当に? 足りない気がするけど。」

「もう、いいから。」


 そそくさとユウナから離れて魔物へと走ってしまう。また魔力足りなくなるんじゃと心配になってしまう。そう、やきもきした視線を送っているとシュトレルムとある魔物が鬼気迫る様子で戦っているのが目に入る。


「シュトレルム! この恥さらしが!」

「恥さらしとは! 無用に人間を食い散らかすあなた達の方こそ汚らしい!」


 巨大かした爪をぶつけ合い戦う姿は穏やかなシュトレルムとは思えないものだった。魔物同士の戦いは初めてで少し恐ろしさを感じてしまう。


 私もやらないと。みんなにだけやらせることはできない。


 矢をつがえ、弦を引き絞り狙いを定める。全員が動いてじっとしているものはいない。動きをよんで当てるしかない。


 フィアーの近くにいる魔物を標的に定める。こちらに注意を向けていない。拳を避ける瞬間手を離す。


「ぎゃっ!」


 フィアーから距離を取ったところで射貫かれる。即効性の毒が塗ってあり絶命まで時間はかからない。


「その女をやれ! そいつから殺せ!」

「ユウナさん逃げて!」


 シュトレルムと相対する魔物の一声で魔物が一斉にユウナに向かってくる。


「シュトレルム、お前の相手は私だぁ!」


 上から叩きつけるように爪を振り下ろす。


「ぐっ! 父さん、どうして!? どうしてこんな風に!」


 彼女の声はもつ届かない。唯一彼女の結婚に賛成していた彼はもう居ない。


 やばい、さすがにこれ全部相手はできない! 逃げる一択!


 そう考えるまでもなく魔物たちに背を向けて走る。体力は回復しており全力で走る。距離など考える必要なはい。ただ逃げるのみ。


「ユウナ! 今行く! あんた邪魔ああ!」


 回し蹴りをし目の前の魔物を倒すと膝を曲げ飛び上がる。そのままユウナへ向かった魔物の頭をテンポ良く踏みつける。先頭の方の魔物を勢いよく踏みつけ華麗にユウナと魔物の間に降り立つ。


「魔力ちょーだい!」

「わかった!」


 差し出された手を握りたくさんの魔力を流す。ユウナからの魔力を貰うとニカッと笑いパンっと拳と手のひらを合わせ泰然と敵に構える。


「さあ! さあ! おらあああああ!!」


 豪快に敵を殴り、蹴り、潰していく。蹂躙と言っても過言ではない。全身血まみれで髪も相まって全てを焼き尽くす炎みたいだ。


「ユウナ! フィアー!」


 魔物の後ろからはバルトが敵を切り伏せ進んでいる。そう時間もかからず魔物の大群はフィアーとバルトによって消された。


「父さん! もう、いいでしょう。仲間もいない。お願いですからあの頃にっ──! ぐ、うぅっ。」


 自分より大きな爪に上からの攻撃を受け止めるが体格差には勝てず押されてしまう。


「恥さらしのお前を殺して、同胞殺しの人間共も殺し、魔王様への忠誠となす! この世界は我ら魔物のものだ!」


 血走った目を開きシュトレルムの体がどんどんと沈んでいく。そして限界を迎えたのか爪から嫌な音がする。ピキッ。


「シュトレルム! 死ぬがいい!」

「ぐあぁぁ!!」


 爪が砕け肩から腹にかけて爪で裂かれる。三つの太い線から血がとめどなく流れていく。


「──私は、私は、死なない。あなた達が父さん達をこのままにしとくなんてできない、だから!」

「このまま首を切り落としてくれる!」


 爪を振り上げたその時折れた自分の爪を取り目の前の男の首へと突き立てる。それと同時にシュトレルムの意識は消えた。


「がはっ! シュ、シュト……は、これで、我らは終わった──。」


 シュトレルムに折り重なるように彼女の父であるビスレルムは倒れた。


「──母さん!! 邪魔だァ! どけぇ!」


 目の前の魔物を蹴散らす。さすがに母と同じ姿とあって殺すのを躊躇していたがそれも彼女が倒れたのを見て消え失せる。


 シュトレルムの元へと走る。涙が零れ感情が昂ったせいか人の姿へとなってしまう。


「母さん……母さん。うぅっ、うわあああああ!!!!」


 死んでしまったシュトレルムを抱きしめ泣きわめく。魔物は一体もいなくなった。


後ほど改稿するかもしれませんが大筋を変えることはありません

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