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 三人の元に戻ったユウナは森で会った魔物と人間と魔物のハーフの子について話した。難色を示されたがユウナはなんとか説得をした。信じられる、根拠がないがそれしか言えなかった。意外にもカナリアはすぐに受け入れてくれた。


「ユウナちゃんがそう言うなら私も信じるよ。それに……ううん、今はいいかな。」


 何かを言いかけて止める。


「ありがとうカナリア。」

「──ああ! もう! 何かあったら先にユウナ殴るからね!」

「フィアー。」

「別にユウナのことを信じたくないわけじゃないけどアタシ達魔王を倒すのが目的じゃん。それ言っても大丈夫なの? だってバルトはさ……。」


 バルトは勇者。その剣がなによりの証拠で魔物が知らないはずもない。魔物の親玉である魔王の宿敵とも言える。


「大丈夫。あの人は大丈夫。私を信じて。」


 そう言うしかないのが歯痒い。バルトは黙ったまま剣を人撫でする。


「……会ってから信じるかは決める。」

「ありがとう。案内するからみんな静かに着いてきて。」


 三人を連れて森の中へと入る。さっきよりもゆっくりだがあの二人がいる家までは魔物はほとんどいないので思いの外早く到着する。


「ユウナです。連れてきました。」


 ノックをして外から呼びかける。


「どうぞ入ってください。お待ちしてました。はじめましてシュトレルムと言います。」


 ユウナ以外の三人が驚く。魔物と聞いていたがここまで本当に魔物だと思っていなかった。さらにその態度と表情が人間と変わらないもので固まってしまう。


「驚きますよね。どうぞ座ってください。ふふっ、まさか勇者と話す機会が来るなんて思いもしませんでした。すぐに信用が得られるとは思えません。ですから少し私の身の上話をさせていただいても?」


 バルトは剣に手をかけたまま頷く。ちなみに先程からバーナーはこちらに噛みつかんばかりに睨みつけている。


「バーナー。いい加減になさい。──それで、皆さんが気になるのは私があなた達を助けることかと思います。」


 それは当然こので彼女のしていることは同族殺しの手助けだからだ。


「私の夫は人間です。私達はお互いを見初めあいついには結婚しました。もちろんお互いの家族及び同族から裏切り者として扱われました。」


 そこから語られたのは家族がどういう扱いを受け、それに抵抗することなく平和に生きようともがいた日々だった。子供を危険晒したくない。できることならどちらかの、人間か魔物の中で、繋がりを、他者の温かさを知ってもらいたかった。


「しかし、現実は上手く行きませんね。ミオの街との交渉で夫がついに住まわせてもらうことを許可して頂いたと喜んで帰って来た時がありました。」


 目を伏せてその時のことを思い出しているのだろう。


「全員でミオの街に行きました。そこで待ち受けていたのは武器を持った人間達でした。」

「ま、まさか……。」


 カナリアが思わず声を出す。三人も険しい顔をして話の続きを聞く。


「ええ、そのまさかです。一斉に攻撃を受け私の夫は命を落としました。」

「──あいつら! 絶対殺してやる!」


 机を叩き怒りを顕にするバーナーを誰も止めない。


「……待ってくれ。それなら俺たちを助ける理由にはなら無くないですか?」


 バルトの言葉に彼女は優しく笑う。そしてバーナーを少し見て


「私はどちらの世界でも生きれるように可能性を探しています。そして──あったのですよ、可能性が。」


 ユウナをじっと見つめる。目をそらすのも変なので見つめ返す。


 ああ、よかった。私の手を取ってくれたのです。きっとバーナーの手も取ってくれる。孤独にさせるなんてしてはいけない。この子に、この人達に託したい。


「皆さんを信じてみたいのです。ですから信じてもらうために協力をしたいのです。人も魔物も信じたいのです。裏切られたとしてもそれが全てではないと私に希望をください。」

「……わかりました。信じます、その言葉を。あなたの母親としての気持ちは本物です。」


 バルトはシュトレルムの言葉の意味を正しく捉えていた。子供が一人にならないように生きて欲しい。その思いだけで動いていると。


「ですが気になったのが、魔物ではダメなのですか? 魔物の方が話がスムーズに進むとはずだと思いますけど。」


 シュトレルムはそれはそれは立派な魔物だ。バーナーも魔物へと姿をずっと変えてればいいだけだ。


「……それは、いえ。魔王と戦うなら知るべきです。私達魔物は魔王の支配下にあります。けれどそれは洗脳に近いのです。なんと言えばいいのでしょうか、良心を奪われる。傷つけることに罪悪感を覚えなくなってしまうのです。」

「魔物は狂っているのです。自分たちの意図しないところで。」


 そこでシュトレルムは深く頭を下げた。


「お願いです。私は、とは言いません。けれどバーナーは一度も人を殺していません。魔物も襲ってきた者だけです。どうかバーナーに希望を、そして魔王を倒してください。長い歴史の中魔王を眠らせることは出来ました。しかし、倒されていないのです。もう、私みたいな異種間での醜い争いはしたくないのです。」

「頭を、頭を下げるなよ母さん! 俺は一人でもいいんだ!なのに、なのに!」


 感情が抑えきれなくなったのか家を飛び出すバーナー。


「バーナー……いえ、このままでいいのでしょう。いつまでも親から離れられないとあってはいけませんから。」


 毅然と言い放つが耳が項垂れておりなんとも本音がただ漏れである。


「私追いかけてきます。みんなで魔物の村に突入する作戦でも決めておいて。さすがに放っておけないから。」

「ユウナちゃんなら適任だと思うよ。多分私たちじゃダメだから。」


 カナリアが優しく送り出してくれる。シュトレルムさんが止めたがそれを大丈夫です、と断り彼を追いかける。


 森の中といえ地の利は彼にあるが慌てて出たんだどこを通ったかはすぐ分かる。これは、家の裏に行ったのか。


 音を立てずに跡を辿る。気づかれて逃げられたらめんどくさいし。


 跡を辿ってついたのは湖だった。いや池かも。湖と池の違いはよく分からない。綺麗だから湖ということにしておこう。魔物の姿をしたバーナーが足をおり湖を覗いている。


「嫌だ嫌だ嫌だ! 人間なんかといたくない、母さんがいればいい、母さんしかいないんだ、魔族も人間も信用しない!」


 こちらに気づいてるか定かではない叫びを上げる。ユウナは小さな小石を手に取るとバーナーへとほおり投げた。石は弧を描いてバーナーの頭へと落ちていく。当たる寸前、小石は尻尾に弾かれた。


「……何しにきたんだよ。俺はお前達に協力なんかしないからな!」

「別にバーナー君の──」

「気安く呼ぶな!」


 じゃあ、どう呼べというんだコイツは。


「……君の協力なんていらないよ。敵意むき出しの奴となんていたくない。私が信用したのはシュトレルムさんだしね。」

「──呼ぶな。」

「なに?」

「気安く呼ぶなって言っただろう!」


 バーナーが飛びかかってくる。予想していなかった行動に何も反応が出来ない。


「──ぐっ!」


 首が抑えられる。動かそうとしてもビクともしない。呼吸が少し苦しい。


「なに、するんだ。」

「人間が俺たちを気安く呼ぶな。失ったことのないやつらに俺達の気持ちが分かるか、分かられてたまるか!」

「いっ──」


 爪が皮膚にくい込む。血出てたらどうしようか。出てないことを祈ろう。それにしても失ったことのないか。


「……はっ、なに自分一人が不幸だと思ってるんだよ。奪われたやつなんて沢山いる。人間だってそうだ。魔物だってそうだ。」


 ギリ、と首への圧力が強くなる。


「それに、だ。一人でいいだって? 言っておくけど孤独なんて生きるなんて無理だ。誰かと、何かと繋がっていないと生きる理由が無くなってしまうんだ。」


 母さんが死んで一人で生きていくしかないと思っていた私も気づいたらカナリアや可愛い弟子が傍にいた。それに、私があそこで母さんの仕事を継いだのは村のためだったから。一人だったら、孤独だったらきっと死んでいた、自殺していた。


「それ以前に母親から離れられないとか孤独とか絶対無理でしょ。ははっ──うっ!」

「うるさい! 人間なんてみんな死んでしまえ! 今さら信じれるわけない、父さんは戻ってこないんだ!」

「ぜ、ぜんぶ、信じろ、なんて言わない。ただ、知らない、ままは。シュト、レルムさんの、気持ちをなに、も。かなえ、られ──。」


 ダメだ苦しい。頭が白くなる。


「そんなの分かってる! でも今更どうしたら、どう接すればいいんだよお前達と!」


 ギリリと首がさらに圧迫される。そしてユウナの意識はそこで切れた。


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