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「実はここから西に向かったところに村があるのですがそこには恐ろしい魔物達が住んでいまして。いつここが襲われるか分からなくて怖いのです。どうか勇者様達。魔物を倒して頂けないでしょうか。」


 シックイ王国のミオという街でバルト達は領主からそんな頼み事されていた。この街での援助を受ける代わりと言ったところだ。断る理由もなかったので快諾した。そして今はその、今人の住んでいない魔物の巣窟となってる村に向かっている。


「魔物って群れを作るんだねー。」

「種族にもよるけど大半が作るね。作らないのは一体でも生きれるような強い魔物、もしくは共食いをするようなやつだから。」


 人間みたいに全てが弱いわけじゃないから群れをなさないのもいる。そうは言っても人間でも群れない人もいるから案外感情とか性格によるのではとユウナはフィアーに教えながら考えた。


「群れようとも人を襲う可能性があるなら倒さないと。」


 ギュッと杖を握り己を鼓舞する。カナリアは度々魔物に対しても同情をする。彼女の生来の優しさのせいか、はたまた別の何かか。それは三人にはわからない。


「まずは村には入らず外から偵察。どれぐらいいるかも分からないから街に戻ることも考慮しないと。間違っても突っ込むことしないでよね。」


 バルトとフィアーに念押しする。突撃隊長でもある二人は考える前に突っ込んでしまうので先に言っておかないといけない。不満そうな顔をするが放っておく。


 しばらくすると森が現れる。この先には(くだん)の村がある。


「ここから私が見てくる。みんなはここで待ってて。」

「俺も行く。」


 バルトが一歩前に出てくる。


「森だと邪魔だから来んな。隠れるの下手だし。」


 ばっさりとバルトの申し出を却下する。偵察だけなら一人の方がいい。流石に木から木の移動できないだろうし。それにこいつに隠れるなんて芸当が出来るか、いや、無理だ。


「一時間で戻ってくるから。」


 戻らなかった時のことは考えさせない。考えさせようが、考えさせまいがみんな突っ込むだけだろうし。


「ユウナちゃん気をつけてね。危険だと思ったらすぐに戻ってね。」

「うん。ありがとうカナリア。──行ってくる。」


 森に入って気配を消す。やっぱり森の中は落ち着く。茂みに隠れながらゆっくりと進み、腰を落として最小限の音に留める。小動物の近くを通っても驚いて逃げることは無い。目的の場所まであと半分とない所で足を止める。明らかな言葉、会話が聞こえてきたのだ。


「……──いい? どっちかで生きるならどちらかの姿は捨てなさい。」

「嫌だ! 俺にとってはどっちも俺なんだ!」

「お願い。どちらかを捨てて。そうしないと母さんたちと同じ目に……。」

「いい! 別に! だって母さんと父さん、どっちも大切だから! 」


 誰かの言い争う声が聞こえる。どういう内容かは分からないが親子関係だということは伺える。どうしてこんな所に人間がと少しだけ近づいて覗いみる。


「──!」


 目を見張る。そこには人間の少年と魔物がいたのだ。あの子は人間に擬態でもしてるのか? いや、魔物と相手するならその必要は無い。だとしたら本当の人間?

 見たことの無い光景に動揺が隠せない。体が揺れ大きな音を立ててしまう。──やばい。


 くるりと背を向けかけ出す。気づかれたのだ。あそこにいても襲われるだけだ。一刻も早く距離をっ──!


 後ろから衝撃が襲う。力強い一撃に地面に倒れる。


「人間がなんでこんな所にいる! また俺らを殺しにきたのか!」


 少年の声が背中から聞こえる。なんとか首だけ捻り見てみるとそこには少年ではなく四足歩行の魔物がユウナの背を前足で押さえていた。爪が布越しにでも感じられ恐怖が募る。


「バーナー止めなさい。」

「いてっ!」


 ポカリとバーナーと呼ばれた魔物が二足歩行のそっくりな魔物に頭を軽く殴られた。


「ほら、足もどかしなさい。ごめんさい、立てるかしら?」


 渋々と、背中の足が退かされ、恐らく女性だろう魔物が切りそろえられた爪にモフモフの毛の手を差し出してくる。そこに殺意も敵意もない。純粋にこちらを思う心しか感じられない。自然とその手を取っていた。




 案内されてのは簡素な家だった。木でできており森の外れにひっそりと佇んでいた。自分の家を思い出したユウナは自然と肩の力を抜いていた。


「どうぞそこに座ってください──それで、あなたはどうしてこんな所に? 私たちを狙ってでは無いのは分かりますが。」


 椅子に腰かけ訊ねられる。私、というより私たちの目的は魔物の討伐だ。だけどもそれはこの人たちではない。


「魔物の討伐です。」

「やっぱり、お前も!!」


 敵意を向けられ思わず構える。


「バーナー! 最後まで聞きなさい。続きを仰ってください。」


 優しい声に構えを解く。そこの少年は信じられないが目の前のこの人は安心感がある。どうにも懐かしい感じもするがきっとこの家のせいだろう。


「……この先に魔物が(たむろ)する村あると、街で援助を受ける交換条件としてそこの魔物を倒すように依頼を受けたのです。」


 嘘偽りなく伝える。目をそらすことなく背筋を伸ばして答える。しばらく黙っていると魔物の女性がにっこりと笑い


「あの街の……わかりました。それならその使われなくなった村まで案内します。お仲間の人も連れてきなさい。匂いからわかります。三人いるのでしょう?」


 匂いでそこまで分かるのか。やっぱり魔物は人間と違うんだな。


「母さん! そんなことする必要ないだろ!」

「困っている人を助けてあげなくてどうするの。この子のことは気にしないでください。」


 どうする? 信用して大丈夫だろうか。目を見るが後ろめたい様子は感じられない。それに、信じても大丈夫という確信がある。


「ありがとうございます。では、みんなを連れてきます。」


 頭を下げてお礼を述べる。家から出ると気配を消してみんなの所へと戻った。




 ユウナが去るとバーナーはきっと自身の母を睨みつけた。


「どうして助けるんだよ! どうせあいつも他の人間と同じだ!」


 バーナーの顔には怒りと恨みが滲み出ている。何かあっと思わざるを得ないほど。


「大丈夫よ。だってあの子ずっと私の目を見てたのよ。まるで人と会話するのと変わらないように。ふふっ、こんなのお父さん以来よ。」

「──その父さんは人間に殺されたんだ! 同じ! 人間に! 」


 脳裏に浮かぶのは人里暮らすことを申し出た父さんを騙し油断させ、殺されたシーン。冷たく動かなくなった父に触れたくとも触れられず母さんに無理やり連れられた。魔物の元でも裏切り者として暮らせず人間の元でも暮らせない。人間も魔物も同じだ。どちらも俺たちを殺すんだ。


 拳を強く握り震えるバーナーを泣かしそうな目で見つめる。


「バーナー。」

「!」


 優しく抱擁する。そしてゆっくりと頭を撫でる。


「お母さんとお父さんがいたようにきっとあなた自身を見てくれる人がいるはずよ。魔物でも構わない、人でも構わない。私はあなたが生きてくれるならそれだけ十分。だから、信じてあげて。きっとお父さんのような人がいるから。」


 心からの願いにバーナーは黙って撫でられ続ける。心地良さに目を閉じるが心の中の怒りが収まることは無かった。それはバーナーの母も分かっており悲しそうな顔で撫で続けた。人の温かみを知って欲しい。家族以外の友人を作って欲しい。そればかりを祈っていた。



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