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「そうなんだゆうしゃのけんなんだ!」
そこでユウナが目覚めてからバルトが声を出す。
めんどくさいのが反応したなー。
「バルトくんいたんだ。」
「ユウナひどい!」
しょうがないじゃないか。見えなかったんだから。
ゆうしゃのけんかー。私たちに落てきたってことはこの中のだれかがゆうしゃってことかな?それなら――
「バルトくん良かったねゆうしゃじゃん。」
ユウナは笑顔をバルトへ向ける。
「え!おれゆうしゃなの!?」
嬉しそうに喜ぶバルトを見てほくそ笑む。
「だってそうでしょ?ゆうしゃは男のひとでしょ?」
「えー!あたしもゆうしゃになりたかったー!」
フィアーが駄々をこねるように叫ぶ。
「ならフィアーちゃんはゆうしゃのなかまだよ!」
フィアーの機嫌をなおすためユウナはすぐさまフォローをする。
「ゆうしゃのなかまってことはまおうをたおせるのね!」
「うん。そうだよ。」
「やったー!!」
万歳をして無邪気に喜ぶフィアーを見てユウナは小さく息を吐いた。
とりあえずこれで私がゆうしゃになることはない!カナリアちゃんはゆうしゃとか好きじゃないっていってたからもうあんしんあんしん!
「ゆうしゃバルトさんじょう!まおうよかくごしろー!」
勇者の剣を手に取ったバルトは剣を高く掲げ村へと走っていった。
「バルトくんまってー!あたしもまおうたおすのー!」
フィアーが慌ててバルトの後を追っていく。
二人が消えユウナとユウナに抱きついたままのカナリアが残った。
「ねえユウナちゃん。おしつけたよね?」
カナリアがユウナから離れて問いかける。
さすがカナリアちゃん。
「うん。ゆうしゃなんてめんどくさいし、それにえらばれるとしたらバルトでしょ。」
バルトは村の子供の中で一番魔法が上手く扱えさらに運動神経が良い。ユウナは本心からバルトが勇者に選ばれたと思っている。
「それも、そっか。ユウナちゃんかえろう。」
「そうだね。かえろっか。ふたりとも行っちゃったし。」
残された二人はのんびりと村へと帰っていた。
二人が村へと帰る頃には既にバルトが勇者だと村が大騒ぎしていた。ユウナとカナリアはそれを脇目にそれぞれの家へと帰った。
それから四人が仲良く遊ぶことは徐々に減っていった。
それから七年。ポポ村ではユウナ達三人は十三歳となっていた。バルトとは未だ成長期の中でまだそこまで背は高くないが幼さが薄くなりかっこよさが全面へと出てきており同年代の女子を魅了していた。
カナリアは女性らしく成長し穏やかな佇まいから男子女子問わず皆に好かれるようになった。
フィアーは鍛錬を積み男の子にも負けないほど強くなっていた。負けん気が強く男の子から遠巻きにされることが多いが整った顔立ちと溌剌とした性格は人気が高かった。
ユウナは以前の髪型のまま茶色いの髪を後ろで一つ纏めていた。特に目立った容姿でもなくのんびりと過ごしていた。
七年前。バルトが勇者に選ばれたと村で大騒ぎになった後村長会議がすぐさま開かれた。
ベル公国は五つの村で構成されている。国全体の方針は各村の長が集まり話し合いで決めている。
勇者の出現にどの村長も困った顔をした。まだ幼い子供をさすがに魔王討伐に向かわせる訳にもいかず、ひとまずはポポ村で成人となる十七歳まで勇者として鍛えることとなった。
ベル公国は標高の高いところに位置し他の国に行くには切り立った崖を降りなければならない。ベル公国の人間にはなんともない崖だが他の国の者にはとてもではないが越えられるものではなく、勇者バルトの存在はベル公国の中に留まった。
ポポ村の近くの森の中。ユウナは息を潜め獲物を待っていた。自然と一体となったユウナの気配は完全に消える。ユウナはただひたすら待っていた。
するとユウナが用意した餌に一匹のウルフが近づいてきた。警戒しながら餌へと近づく。
ユウナは持っていた弓矢をゆっくりと引く。弓矢を構えたままウルフの動きが緩慢になるのを待つ。
ウルフはひとしきり匂いを嗅ぐと大きな口を開け餌へと噛み付く。
その時、ユウナは矢を放つ。矢は真っ直ぐウルフの脳天を貫く。ウルフは一撃で絶命し倒れた。
ユウナはウルフへと近づき念の為喉を切った。
うーん。我ながら完璧な狩猟。惚れ惚れしちゃう。あとは罠を確認して帰りますか。
ウルフの死体を担ぎ仕掛けた罠を確認していく。獲物がかかっていた罠はまた新たに少しズレた所に罠をはりなおしてウルフを合わせて合計三匹の獲物を手に入れ家へとついた。
「重畳、重畳。まさか二つもかかっているとは。とりあえず血抜きをした後はラビットは干し肉にしますか。ウルフは晩ご飯のメインとして毛皮はお隣のクルリ王国で適当に売りさばくとして。それでは……ん?こんな時間に誰だろう。」
ユウナがよし、と作業に取り掛かろうとした時ユウナの家の扉がノックされる。まだ日が出ている時間。ユウナの同年代の子はそれぞれの村で運営されている学校に行っている。わざわざユウナの家を訪ねる大人はいない。訝しみながら家の扉を開ける。
「どちら様ですかー……ってカナリア! どうして学校じゃないの!?」
「えへへ。今日テストで早上がりなの。上がってもいい?」
「うん。いいよ、上がって。」
突然の来訪者はカナリアだった。美しい金髪に女性らしい体つきは男女の羨望の的だ。神々しさまである容姿はおいそれと話しかけることが出来ない。
そんなカナリアとユウナは幼い頃からずっと仲良しのままだった。
「うわー!ウルフにラビットが二匹も!」
「あはは、凄いでしょ。座って待ってて、今お茶持ってくるから。」
ユウナはお茶を入れカナリアへと差し出すと向かいへと座る。
カナリアまた胸大きくなってない……?
ユウナのおっさん精神はそんなことを気にしてしまう。
「狩りの方は順調みたいね。」
「まあこんな三匹も捕れる日は珍しいけど普通に生きていけるから問題ないよ。母さんのおかげだね。」
ユウナの母はポポ村では狩りの名手として村の皆から尊敬されていた。ユウナは幼い頃から母に鍛えられ狩りの腕は大人顔負けだった。
あの頃はなんでこんなことって思ってたけど今は感謝しかない。
ユウナの父は兵士としてクルリ王国へと出稼いでいたがクルリ王国で難病にかかってしまい命を落とした。母は去年突然体調を崩して亡くなった。元から体が丈夫ではなく無理をしていけばいつ亡くなってもおかしくないと医者には言われていた。そして医者の言う通り死んでしまった。
「それでユウナ。改めて話をしたいのよ。」
突然カナリアの顔が真面目ものになる。
ああ、またあの話かな。
ユウナは何の話か悟ってしまう。
「学校に行きましょう。ユウナちゃんの生活なら家で面倒を見るから。父も母もユウナちゃんならって喜んでいるから。」
真っ直ぐな瞳でユウナことを射抜く。その瞳はユウナには眩しすぎた。
ベル公国では七歳になった子は学校に通ってもいいことになっている。もちろんお金はかかるが微々たるもので全ての子供が通っている。10になったら通うつもりでいたが父の死亡により通えなくなってしまった。
「ありがとうカナリア。でもこれ以上お世話になるわけにいかないから。」
ユウナは週末カナリアから勉強を教わっている。最低限の教養は欲しくカナリアに頼んだのだ。カナリアは快く引き受けさらにカナリアの家へ行くたびご飯をご馳走になっている。
カナリアの家のご飯凄い美味しんだよね。よだれが出そう。
「そんな!気にしなくていいのに……。ユウナちゃんやっぱり学校に通いたくないの……?」
「うん。それに今私は狩りをやめる訳にはいかないから。」
「生活のため? それともあれのせい?」
「まーそうだね。お金ないし。」
明るい声で後半の質問には答えないユウナにカナリアは苦しそうな顔をする。
「なーに暗い顔してるの。別に私は不幸じゃないから。カナリアに村の皆がいる。ポポ村でこうして生きているだけで幸せなの。」
カナリアを元気づけるように頭を撫でる。
ほんとに幸せなんだよ。大切なものがたくさんって。それを守ることが出来るのって。村の人は父と母が亡くなった私にとても良くしてくれる。それの恩返しが出来るんだ。幸せすぎる。
そんな思いを込めてカナリアの柔らかな髪を優しく撫でていく。
カナリアはまだ悲しそうな顔をしていたがユウナの笑顔を見て次第に明るい顔になっていく。
それからユウナとカナリアは近況報告をし合い今度の勉強会をいつにするか決めた。ユウナは捕った獲物を捌きながらカナリアと談笑した。
「そろそろ帰らないと。晩ご飯の時間だわ。」
「送って行くよ。」
「ならそのまま家に来て一緒にご飯を食べましょう。もう料理人には四人分用意するように言ってるあるから。」
さすがにすでに準備してあるとあってはユウナも断れなかった。
なんだかんだ私カナリアに上手いように転がされている気がする……。
村の中心地に行くとユウナ達と同年代の子供達が学校から見知った人物が出てきた。それは真っ赤な髪のフィアーだった。