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「フィアー様! ひとまずバルト様を!」

「私が部屋まで運びます。キアラ、治せるかい?」


 こくりと頷く。その頭を人撫でするとバルトを抱えあげる。


「フィアーさん部屋はどこだい?」

「え、こっち!」


 慌ててフィアーが部屋へと案内する。バサラの落ち着き払った対応に誰も何も言わない。部屋まで運ぶとキアラがキュア、と魔法を掛ける。


「……毒、だ。魔物の。時間がかかる。」


 眉を寄せバルトの状態を伝える。毒と聞いてカナリアと飛び出したユウナとバーナーの安否が気になる。


「──追いかけなきゃ!」

「フィアー様落ち着いてください。」

「落ち着け!?ふざけないで! 友達が危険な状態なのに落ち着けるか!」


 今にも噛み付くのではないかという剣幕でコーリンに怒りをぶつける。一瞬たじろいだコーリンだったが目を逸らさない。


「カナリア様の居場所は分かるのですか? 二人はまるで確信めいた様子でしたがフィアー様あなたは? 宛もなくさまようつもりではありませんよね? 」

「ぐぅ……それは、でもじっとなんて!」

「はいはい。お二人さんそこまでここで言い争ってどうすんのさ。とりあえずは目の前のバルトくんが治ることを祈りな。探すのはアタイとバサラが行くよ。二人じゃ大事なことを見落としそうだからねぇ。」


 年長者であるエンラが場を仕切る。決して強い言い方ではないが落ち着き払った様子に二人は言葉の矛を収める。


「幸いにもユウナさんが勇者の剣を持って行ってくれましたので。──シャルナーク。」

「──なによー、儂に何か用ー?」


 妙に艶のある声が響いたと思いきやバサラの勇者の剣が音を立て人へと姿を変えた。現れたの金髪の美女。流れる金の輝く長髪と切れ長の目にハリのあるプロモーションにフィアーは目を奪われる。


「バルトさんの剣の行方を追えますか?」

「んー、無理なわけじゃないけどーそんなぱっぱ、ぱっぱは追えないよー。」


 どこか古めかしい雰囲気に反して語調が軽い。なんとも言えない違和感に全員が襲われる。


「それで十分。エンラ行くよ。キアラとコーリンとフィアーさんはバルトくんを見ていてください。」

「じゃあな。あとは頼んだよ。」


 バサラとエンラ、シャルナークが窓から飛び降りる。


「ん〜、んん! あっちだ!」


 シャルナークの指し示す方向、そちらに向かって三人が駆け出す。賑わう人通りの中険しい顔をした三人が糸を縫うように人の間をすり抜けて行った。


「エンラどう思う。」

「どう思うってバルトくんの怪我のことか? カナリアちゃんが誘拐されたことか? それともユウナちゃんが勇者の剣を持っていったことかい?」

「──一番最後だ。」


 どうして使えるはずもない物を持っていったのかそれがバサラには分からない。


「それは知っているからだと思うけどな。多分だけどユウナちゃん達は勇者の剣が人になることを知っているだと思うよ。初めてあったあの時、あんたら二人が部屋で確認してたのってお互いの剣が人になるかどうかだろ? あの時はアタイらまだ知らなかったから敵意を向けちまったけどあの子達は呆れていたからな。たぶんその時から知ってたんだよ。」

「つまり案内人として咄嗟に剣を持っていた訳か。」


 バサラとエンラの答えは全くハズレでユウナは戦う道具として持っていったのだが選ばれた人間しか扱えないという固定観念がそこの答えに行き着かせない。


「シャルナーク。まだか。」

「んんー!あともう少しな気がす──。」

「どうした?」

「いや、なんでもないよー。」


 シャルナークの言葉が途切れ何かあったのかと訊ねたがはぐらかされる。きっと大したことないことだろうとすぐに忘れる。


「ここ、ここー。着いたよー。」


 シャルナークに案内された場所は扉が破壊された廃墟だった。


「こ、こんなのこんな街中にあったけ?」

「いや、流石にわかる。」


 街中に突然現れた廃墟に二人は呆然とする。


「あははは! 魔法で綺麗な屋敷に見せていんだろうけどさー、なーんか切れちゃったみたいだねー。他のことに魔力を使い始めたのかなー?」


 シャルナークはニヤニヤと笑っている。建物の中で何が起きているのか知っているようだ。


「シャルナーク。剣に戻ってくれ。──エンラ、行くぞ。」

「あいよ。──メイキング!」


 バサラは剣を手に、エンラは建物でも戦いやすいように双剣を作り出す。

 廃墟に入った二人は目を見開く。そこには使用人の服を来た骸骨が沢山おりカタカタと骨を鳴らしながら恭しく二人を迎えた。


「カタカタカタ。」

「カタカタ、カタカタカタ。」


 二人に近づいてくる骨。異様な光景に恐怖するしかなかった。だが相手から敵意を感じるどころかもてなしているように思えてくる。


『かかか! こいつらは人間の頃の記憶を元に動いている。使用人らしく客を出迎えるとかちょー健気ー。』


 シャルナークの笑い声が脳に響く。あまりな場違いな言葉にシャルナークの声をシャットアウトする。


 一人のメイドの服を来た骸骨がバサラの側へと寄ってくる。


「──来るな!」


 思わず拒絶してしまう。それはそうだ骨だ。言うなれば死体だ。気味が悪い。


 拒絶された元メイドはピタリと止まると少し後ろに下がりカタカタカタと言いながら恭しく頭を下げた。


 謝罪だとわかる。不用意に近づいて申し訳ありませんと。言ってないのにあまりに自然な挙動に二人はそう聞こえて仕方ない。


「違う、そうじゃな──。」


 罪悪感に手を伸ばす。あと少しと触れるところで建物が轟音と共に揺れる。


「バサラ! 構えろ!」


 ──カタカタカタカタカタカタ。

 ──カタカタカタカタカタカタ。


 骨が一斉になり始める。何が起きたのかと使用人達が確認を取り合うため動き始めようとした所で動きが止まる。そして骨の音が消えたと思うと一斉に骨が全て崩れ落ちる。

 そこには最初から動き出す骨など存在しなかったの様にただ骨が床に散乱していった。


『あらー。魔法が解けたみたいねー。きっと元凶の魔物が死んだのよ。さぁて、誰が倒したのかしらね、かかっ!』


 バサラの気持ちなど意に介さない声が響く。バサラはあの時、あの瞬間、完全に骨達を人間として扱っていた。


「バサラ行こう。ここにいても仕方ない。きっとユウナちゃん達がいるはずだ。」

「──そうだな。」


 ぐっと伸ばした手を握り廃墟を探し始める。


「シャルナーク。ユウナさん達がどこにいるか分かるか。」

『右手にある廊下を真っ直ぐ進んでそっちから気配がする。』

「エンラあっちの廊下みたいだ。」

「了解。」


 エンラが先頭に廊下を進んでいく。途中、ボロボロになった扉の隙間から部屋の中の散乱した骨が目に入りその度に胸が痛む。


「バサラ。中は見るな。」

「──分かっている。」


 分かっているがどうしても見てしまう。エンラも気にしているはずだがやはり熟練者。バサラと違って目をやらない。


「もしかしてここか? ここだけ扉が破壊されている。」

「入ってみよう。」


 中は古びた書庫で。本が床に散らばっていた。


「地下への階段がある。」

「アタイが先に行ってくる。」


 階段を下りようとした所で何かを硬い何かを引きずる音が下から聞こえてくる。


 エンラは階段から距離を取りバサラを庇うように構える。音がだんだんと大きくなる。緊張が当たりを包む。階段から茶色い頭の気を失ったユウナが覗く。そしてその下からそのユウナを背負うバーナーが現れる。ユウナを担ぎながら剣を引きずっている。そのバーナーの後ろからシーツを身にまとったカナリアが顔を出す。


「バーナーくんにユウナさんにカナリアさん!」

「三人とも大丈夫かい!」


 慌てて三人に駆け寄る。ユウナを抱えようとバサラが手を伸ばすと


「お前は触るな!」


 バーナーが声を上げバサラを睨む。バサラは驚き手を引っこめる。


「お前はこの剣を持て。」


 すっとバルトの勇者の剣が差し出される。バサラは大人しくその剣を受け取る。


「カナリアちゃん大丈夫かい?」

「はい……私は。それよりも二人が……。」


 ユウナとバーナーはどちらも傷だらけで服もボロボロだった。特にユウナは擦り傷が多く血が体のあちこちから滲んでいる。


「俺が運ぶ。カナリアちゃんを頼んだ。」


 それだけ言うとバーナーはユウナをおんぶしたまま廃墟から出て行こうとする。


「バーナーくん、流石に……。」

「いい、俺がこいつを──ユウナを運ぶ。」


 それだけ言うとバーナーは立ち止まることなくゆっくりと確実に進んでいく。

 カナリアはバーナーがユウナと呼んだところで見開く。そして優しく笑った。突然笑ったカナリアにエンラが首を傾げる。


「どうしたんだい?」

「いえ、ただ良かったなって。」


 バーナーくん。ちゃんとユウナちゃんに感謝したみたいだね。まあ、あれ魔法かけたって言ったけどすっごく弱くて悪口が言えない程度だったんだけどユウナちゃんに対して罪悪感かなりあったみたいで自分で言えなくしてただけなんだけどね。でも、喋れたってことは……うん。良かった。


「仲間だから仲良くないとね……。あの、何か服ありますか実は──。」


 顔を赤くしてエンラの耳に顔を寄せる。


「──下着なんです。」


 エンラはすぐさま部屋から連れ出して落ちているメイド服をカナリアへと渡した。


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