13
短いです
「ユウナー!我が遊びにきったよー!」
ノックもせずに勇者の剣が扉を勢い良く開ける。ユウナとキアラは声の主の方を見る。キアラは誰か分からないのでこれでもかと警戒し睨んでいる。
「なに突然。バルトの所にいなくていいの?」
「……知り合い、なのか?」
残念ながらね、と苦い顔をして答える。
「ユウナーそんな照れることないのにー。我とユウナの仲でしょー?」
大の男が体をくねらせる。見てて気持ちの良いものではなくキアラは顔を歪める。
「相変わらずきもい。そう言えば聞きたいことがあったんだけど……。」
「なになにー! ユウナの頼みなら我聞いちゃうー!」
「あのもう一つの勇者の剣は本物か?」
「バサラを! 疑ってるの!?」
キアラが立ち上がりユウナを見下ろす。その瞳は怒りで潤んでいる。
「バサラは……! バサラは……!」
「本物よー。我と同じで人になれるからのー。」
ごろりとベットに横になりながら答える。
「お前と同じようになるのか。キアラ別に疑った訳じゃない。」
「じゃあ、なに? 」
「えーと、それは……。」
答えに窮する。今日の昼の出来事からバサラが勇者の剣が人になるということを伝えてないのは分かっていた。
「我みたいに人になるかどうかってことよのー。」
「おま……!」
「人……?」
あっけらかんと言い放つ勇者の剣。キアラはどういう意味か分からず首を傾げている。
「こういうことよ。」
ニヤリと笑みを浮かべた勇者の剣が指を鳴らす。するとポンと音立ててバルトが持つ剣へと姿を変えた。目の前の不可思議な光景にキアラは目を見開いた。
「……分かったキアラ? 私が知りたかったのはバサラさんの剣もこれと同じように人になるか知りたかったの。」
「剣が、人? 人が剣?」
キアラに話してみたがまだ事態が呑み込めてないのか放心している。
ポンとまた音を立てて剣が人となる。
「わかったかのーキアラ? 我がただの剣ではないと言うことが。それとさっき一階にあのバサラとコーリンの二人がおったぞ。」
「本当!?」
それだけ言うとキアラは急いでユウナの部屋から飛び出して行った。
傷はもう治してもらったからいいけどもうちょっとちゃんとお礼がしたかったなあ。
「──ユ〜ウ〜ナ〜!」
勇者の剣がユウナへと抱きつく。ユウナは特に振り払いもせずされるがまま、抱きつかれている。
そんなユウナに勇者の剣が少し戸惑う。けれど少し戸惑っただけで離れる気はない。
「どうしたんだユウナー? もしかして我とついに一線を──!」
「越えないからな。」
即座に否定する。間違っても誰が勇者の剣と寝るか。こいつとならそこら辺の男と寝た方がましだ。
「えー、ひどいー! それじゃどうして避けぬのだ?」
ユウナは勇者の剣を見る。
「魔力がいるんだろ? じゃなきゃわざわざ一人で来ないしな。」
こともなげに至って真面目に答えるユウナに勇者の剣はへらへらと笑っている。
「それはそうよー。だって我はユウナが欲しいんだもんー。」
「うん。知っている。けどそうじゃなくてお前バルトの側から絶対離れないじゃないか。でも今は離れている。つまり、それぐらい魔力が足りなくなってたんじゃないか?」
勇者の剣の動きが固まる。するとユウナの肩に顔を埋め大きく息を吐く。
「──バルトの魔力消費を抑えられないか試したんだけどのー。そしたら我の方がなくなって……。これがバルトに知られればバルト嫌でも自分だけで賄おうとするからのー。」
まるで愚痴を零すように話す。弱った勇者の剣に珍しいなとぼーっと考えてしまう。
「我だってバルトに死んで欲しくはないのよ。あれは稀に見るよい奴だ。」
「知ってる。だから着いてきたんだ。大丈夫だ。私が生かす。」
肩に乗る勇者の剣の頭に手を置き決意新たに応えた。
「へー、勇者がもう一人で同じくハーレムを築いていると。」
「やっぱり勇者が二人いるってことは知られてないんだ。」
アカネにバサラ達に出会ったことを語ると予想通りの感想が返ってきた。
あの後あの街以降バサラ達とは別のルートで魔王城まで目指すことになった。
競走という形で一刻でも早く魔王を倒すためだ。
「勇者の剣が二つね……。その後彼らとは会ったの?」
「会ったよ。ゴコクでね。ほら、あそこ大陸の端から端まで国土でしょ?だからそこで偶然寄った場所が同じでね。」
ゴコク公国。民衆から選ばれた代表達が国を運営する国で中立国。どこにも属さないが争うことも無くどの国も手を出さず貿易の国として栄えている。
ゴコクの中心都市ヨモギで再開することになった。
「そう言えばその時アイツはいたの?」
「アイツ? ああ、バーナーね。いたよ。」
バーナーとはゴコクの手前の国のシックイ王国で出会った男で少々プライド高い人間でカナリアに惚れて着いてきた。バルトに戦いを挑んではその度に負けている。そしてその後腹いせにユウナにも勝負を仕掛けてくる。ユウナは普通に負けるのでそれでプライドを保っている。
「バーナーとどう出会ったかも知りたいわね……。」
「まあ、それも話すからまずはバサラ達とのことを話すよ。」
ゴコク公国でのことを語り始める。それはユウナ達にとってとても大事な事件が起きた場所であり、語り終えた後アカネはひどく驚いた。




