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「魔物が逃げて行きます……。」

「さすがユウナだなー。この群れの頭を見つけてそれを倒したんだよ。」


 コーリンが唖然としているのと対称にフィアーはあっけらかんとしている。


「──ユウナちゃんは!?」


 魔力を使ったカナリアは少し呼吸を整えていた振り向く。そこにはフィアーの外套を羽織るユウナとその手を固く握りしめるアキアラ。そしてその奥にはちょうど最後の一匹の魔物を倒すバサラが目に入る。


「ユウナー?何人の外套着てんの?」


 フィアーが真っ先に声を掛ける。


「あーさっきの魔物の返り血がやばくて。隠させてくれないかな。フィアー返り血ほとんどないし。」

「なるほどね。それならいいけど。」

「ユウナちゃんどこも怪我してない!?」


 カナリアが血相を変えてユウナへと駆け寄る。


「私は大丈夫だけどあっちの方がやばそう。」


 そう言って後ろを見る。そこには切り傷を沢山作ったバルトとバサラがユウナ達の方へと向かってくる。


「ユウナ! お前数ミスっただろ! あんなの二人でとか無理がありすぎる!」


 バルトがユウナへと詰め寄り、大声で文句を捲し立てる。近くで大声を出されたので耳に指を入れる。


「いやー勇者が二人だよ? どうにか出来ると思ったし事実どうにかしたからいいでしょ。」

「それはユウナさんがあの群れのトップを倒したからですよ。ユウナさんが倒したことに気づいた魔物が逃げたので。つまりユウナさんのおかげですよ。」


 バサラがユウナを擁護してくれる。思わぬ援護にユウナは驚く。


「──だ、そうだよバルト。それに数の方は想定通り。もっと多かったらカナリアにそっちに行くように言ってた。でもフィアー達の方が圧倒的に多かったからカナリアを移動させるわけにいかなかったの。」


 わかった、とバルトに指を突きつけると少し唸った後まあ、勝てたからいい。と渋々ユウナへと文句は下げた。


「いやーでもたまげたわ。ユウナちゃんいつから後ろから来る魔物の群れに気づいていたんだい?」

「ああ! 確かにそうですね! ユウナ様驚いていませんでしたし。」


 エンラとコーリンが興味津々と言った感じでユウナを見る。


「最初に男の人が魔物で襲われていた時です。あの時森の茂みがかなり揺れ動いていたので。」


 特に隠すことでもないので話す。あの時全員の注意は完全に男と魔物に向いていた。気づかなくても無理はない。それに魔物かどうかはハッキリとは分からなかった。


「ああ、それとあの男魔物とグルですよ。最初から私達を狙ったんでしょう。現に男の人はいないですし。普通に途中で逃げてましたから。」

「グル!? 人間なのにですか?」

「コーリンちゃん。人も全員が魔物と敵対しているわけじゃないんだよ。特にゴルスタに近づけば魔物と手を組んでる奴ってより傘下になっている奴ばっかさ。」


 どこか憂いを帯びた目でエンラがコーリンを諭す。


「でもこんな離れた所でも起きてるなんて思わなかったけどねー。」


 憂いを帯びた目は一瞬で霧散しあっけらかんとした顔へと戻る。


「魔物と手を組む人間、ですか。さっきの男を逃がしたのは手痛いですね。また同じようなことをするでしょうし……。」

「ああ、それなら問題ないですよ。」


 ユウナがバサラに答える。その顔は普段通りの顔だ。


「どうせ死んでますから。」


 その言葉に全員が首を最初傾げる。


「魔物が人間をそのままにするわけないですよ。」


 そこで全員が魔物に殺されたのかと納得する。


「あーけど疲れたー! この近くに街とかあるのかなー?」


 伸びをしながらフィアーがみんなに訊ねる。この中でフィアーは一番疲労が溜まりやすい。爆発的な力を持つ代わりの反動だ。


「この森を抜けた先に大きな街がありますよ。ナスコシタという所です。一時間もあれば着きますよ。」


 よっぽどシュタインについて詳しいのかバサラが答える。


「やったあーー! 早く行こうみんな!」


 一番疲れているであろうフィアーが先陣を切る。フィアーの明るさに目を奪われるがその身体は所々傷がある。


「フィアーちゃん落ち着いて。そんな急がなくて街は逃げないから。スリープ。」


 走ってでも行こうとするフィアーに呆れ顔をしたカナリアが魔法を発動する。フィアーの目の前にシャボン玉が現れたと思うと弾ける。その途端フィアーの目がとろんとし揺れ始める。


「バルトくん。支えてあげて。」

「え、俺?」

「バルトくん。」


 有無を言わせないカナリアの声にバルトはため息をつきながらフィアーを支える。


「んー…………すー。」


 バルトに支えられたフィアーはそのまま眠りこけた。


「もしかして俺が運ぶのか?」


 誰も何も言わない。その沈黙が何よりも答えでバルトはフィアーを背負う。


「カナリア様は魔法が得意なんですね! 先程の戦闘もそうでしたが。」

「得意と言うよりそれしか出来ないんです。そう言うコーリンさんもとても凄かったです。」


 カナリアとコーリンが意気投合し始めたのか魔法について話し合いながら歩いていく。


 意外と気が合うのかもなあそこの二人。


「さーてバサラよー。お前あの癖凄ーく出てたからなー。」

「癖? バサラの癖ってどんなだ?」

「こいつなー実は──」

「エンラ。それ以上口を開くと契約金下げますよ?」


にっこりと笑顔向ける。


「おー、こわこわ。」

「え、ちょっと待て。ほんとになんだよ!」


 バサラの秘密かちょっと気になるな。けどそれよりも背中が熱いな。


 背中の熱が引かない。それどころか広がっている気がする。


 きゅっと左手に力がかかる。


「……治させて。」


 キアラの方を見ると不安そうな瞳でユウナを見ていた。ユウナは穏やかに笑って返す。


「それは街に着いた後こっそりとお願いするね。もし怪我したなんて知れたら二度と戦わさせて貰えなくなる気がするから。」


 そう言ってカナリアの背を見る。


 うん、絶対そうなる。カナリアの心配性には困ったなあ。


 カナリアの心配性はユウナにしか発揮されていないが本人は知らない。


「わかった、街に着いたら、治す。」

「うん。ありがとう。」







 はあ、はあ、はあ───!


 逃げた!逃げたぞ!はは!勇者がいることを伝えて少しアイツらの手伝いをしただけでこれだけの金を手に入れた!


 男が息を切らしながら走る。男の懐には金貨の入った袋がある。決して落ちないように大事に懐の奥にしまわれている。


 何が勇者だ。これからの時代魔物だ。魔物につけば他の人間を見下せる。陥れることが出来る。そして金も手に入る。最高だ。魔物──いや、魔王様さまだな。


 男は走りながら笑う。自己愛の塊。他者を貶し、見下すことでしか生命を甘受出来ない男だ。人間という種への愛はない。隣人愛など、そも隣人など存在しない男には無意味。


 はあ、はあ。しかし、疲れた。休憩しよう。ここまで来れば魔物もあの人間共も追ってこない。あの木に寄りかかろう。


 男は目に入った木の根元へと腰を下ろす。走ったことで乱れた呼吸を整えようと深呼吸をする。


 すー、はあ、はあ──すー、はあ、はあ─すー、はあ、はあ──ひゅっ、はあ、はあ、ひゅっ、ひゅっ──


 そこで男は気づく。息が真っ直ぐ吐けない。それどころかまともに息も吸えなくなっていく。呼気が荒くなる。胸が苦しくなり服を掴む。前傾姿勢になり額に滲む汗が地面へと落ちる。呼吸は荒くなるばかり。


 苦しい。苦しい。なんだ、呼吸が、息が、苦しい。


 ──ジャラ。


 懐にしまった金貨の袋が落ちる。


 金。薬。買う。助かりたい。苦しい。苦しい。苦しい。助けて。苦しい。


 男は金貨の袋の上へと崩れる。胸を押え呼吸を荒くしたまま。


 ひゅぅっ──ひゅぅっ──


 視界が涙か汗かぼやける。白くなる。白に染まる。思考はもうない。口が閉じれない。舌と涎がだらしなく垂れる。


 ひゅぅっ────


 男の荒い呼吸は聞こえなくなった。





 バサラの言う通り一時間もかからずナスコシタの街に辿り着いた。


「まずは宿を探そうか。あ、私は領主の元に行きますので。コーリン。」

「はい。バサラ様。」


 バサラとコーリンは街に着くなり二人で領主の元へと向かった。


「やっぱりあの二人出来るよなー。」


 にやにやと笑いながらエンラが誰にでも言うわけでなくそれなりに大きな声で呟く。


「……それは、ない。バサラの女癖はひどい。」

「女癖?」


 ユウナの手を握るキアラがエンラの言葉を否定する。


「あー確かにねー。カナリアちゃんとフィアーちゃんはバサラには気をつけな。あいつ強い女好きだからあんたら狙われると思うからさ。」


 カナリアとフィアーは強いし、美人だからな。バサラさんでなくても気をつけるべきだと思うけど。


「バサラさんにですか……?そんな風には感じませんでしたけど……。」

「普段は別に問題ないけど気づいたら街の女を食ってるなんてざらにあったからさ。」


 意外と奔放なんだなとユウナは呑気に話を聞いている。

 けどエンラもキアラもさしてバサラのその行為を嫌っているけどやめて欲しいとは思ってないんだな。正直バサラのハーレムと思ったんだけど。ああ、それよりも背中が熱いな。早く宿で休みたい。


「あ、あっちに宿の看板がありますよ。」


 カナリアが指をさした方向にそこそこ大きな宿が見える。他にも街に宿はありそうだが6人はその宿へと入った。ちなみにフィアーはまだ寝ている。


 部屋は十分に空いており一人一部屋ずつに一泊することになった。


「おい!フィアー起きろ!」


 バルトはフィアーを椅子に腰掛けさせて揺すり起こす。


「──ん……うーん? あれ?ここどこ?」

「おはようフィアー。ここはナスコシタの宿だよ。だいぶ疲れてたみたいでフィアーは途中で寝たんだよ。バルトにお礼言ってあげな。ここまで運んでたから。」


 嘘は言ってない。フィアーは疲れていた。そして途中で寝た。バルトが運んだ。どれも事実だ。ただ全部話していないだけだ。


「うへぇ!まじで!?ごめんね。……それと、バルト……あ、ありがとう。」


 顔を少し赤く染めてバルトへとお礼をするフィアーにカナリアとユウナは温かな眼差しを送る。その様子にキアラとエンラもフィアーがバルトをどう思っているか感づき二人で目を合わせエンラは肩を竦めた。



 それぞれの部屋へと入る。部屋数は十分にあったので一人一部屋だ。バサラとコーリンは領主の家に泊まるだろうと二人の部屋は取っていない。


 ユウナは部屋に入ると急いでフィアーの上着を脱いだ。見ると裏地にうっすらと血が着いている。


 部屋に入って気が抜けたのか背中の痛みがはっきりとしてくる。苦悶の表情を浮かべているとユウナの部屋の扉を叩く音がする。


「はい!」


 上着を慌てて羽織り返事をする。


「……キアラ、だ。治しにきた。」


 ユウナはほっと息をついた。キアラなら大丈夫だ。ユウナは扉を開けてキアラを部屋の中へ招く。


 上半身裸になりキアラに背を見せる。背中は爪の刺さった後がある。幸いそこまで深くはなかったが見事に流血している。


 背中の傷に顔を顰めながらも手を翳す。


「キュアー。」


 キアラの手から柔らかな光が現れる。それは傷に降り落ちるとみるみると傷を塞いでいく。


「ついでに……フィクス。」


 ユウナの破けた服と血に濡れたフィアーの上着に魔法を掛ける。どちらの服も元通りとなった。


「凄いね。ありがとうキアラ。」

「……。」


 照れているのかお礼を言うと少し目をそらす。


「キュアだけで完璧に治すってかなりだね。」


 キュアは怪我を治す初歩の魔法。上位にキュアリー、ハイキュアーがある。


「別に……そもそも魔法は初歩さえ出来ればいい。上位なんて言うが魔力の消費が違うだけ。」

「へー。そうなんだ。私魔法使えないからそこら辺分からないんだ。」

「……いや、知っているのは一部。ほとんどはユウナお姉ちゃんと同じ。ただ一部の魔法は本当に上位。使えない人はもちろんいる。」


 つまり一部の魔法は本当に限られた人しか使えないということか。


「けど、そういうのは魔力をたくさん使うからみんな使いたがらない。」


 さらにレア度が増しているということか。ユウナがそんなことを考えているとキアラがユウナへと体を寄せてきた。その様子は雛が親鳥に甘えているようにも見える。


「えーと、キアラどうしたのかな?」

「……落ち着く。」


 落ち着くとは、落ち着くとは!?来る時も言われたけどどういうことだろうか。ひとまず同じようにバレないように少しずつ魔力をあげよう。


 ユウナからゆっくりと魔力が流れている。キアラはそれに気づかないが先ほどよりも力が抜けて落ち着く。そのままユウナに体を預けてしまう。


 穏やかな時間が流れていく。特に何も言葉を発さずゆっくりと時が過ぎるの待った。


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