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短めです
勇者一向は関所へとやって来た。この関所をこえるとシュナイン王国の土地となる。
「シュナイン王国かー。誰か行ったことある人いる?」
関所を目の前にフィアーが全員に訊ねる。全員揃って首を横に振る。
「クルリは何回も来たことあるけれどシュナインは初めて。」
ユウナは動物の皮など売る際はよくクルリに行っていたがシュナインとなると未知の場所だ。
四人は関所の管理人に通行手形を見せる。王都で発行したものですんなり通るだろうと四人はわくわくしていた。しかし、管理人から出た言葉は予想外のものだった。
「すみません。これが本物である証拠がありません。先程皆様と同じ様に勇者一行様が来ました。そちらの方々はここから近くの街で発行された手形でした。王都に来たというのは聞いていましたがそれ以外では聞いてなかったので今は私たちが寝泊まりしている小屋に待ってもらっています。私たちにはどちらが勇者様であるか分からりません。王都に勇者様の外見と名前を伝えるようお願いしております。申し訳ありませんがそれまで待ってもらえますか。それが嫌ならどちらが勇者様が決めていただきたい。」
つまり偽勇者が現れたという事だ。ユウナは長い話を聞いて簡素にまとめた。途中途中聞いていなかったのはほかの三人にはバレてはいない。
管理人に案内された小屋には金髪の見目麗しい男と三人の美女がいた。図らずも構成が一緒で四人はなんとも言えない気持ちになる。
「バサラ様。こちらの方々は……。」
「いえ、分かっています。偽勇者一行ですね。どうも初めまして勇者バサラです。」
管理人の言葉を遮り丁寧に自己紹介をしてきた。
「初めまして。勇者バルトです。」
バルトも簡素だが返す。
バルトとバサラ。なんか似てるな。何がとは言わないが。
「バルト君ね。へー、そっちも女の子を三人連れているんだ……。」
バサラが検分するようにフィアー、カナリア、ユウナをじっと見る。前二人の時は笑顔だったがユウナを見た瞬間眉をひそめた。
「……バルト君。彼女は使用人かなにかかい?」
ユウナの服装と冴えない顔からの判断だろう。ユウナの服装は狩りをする時の服装だ。他三人と比べると遥かに見劣りする。
「バサラ様そうに決まっていますよ。偽とは言え仮にも勇者ですから。」
バサラの後ろにいた。青色の髪の女性が声を発した。どこかの貴族だろうか、綺麗な細身のドレスを纏っている。
「初めまして御三方。わたくしはコーリン・アメジスト。クルリ王国の一貴族の娘です。」
ドレスの裾を摘み丁寧にお辞儀をするコーリンに思わず見蕩れてしまう。ユウナは綺麗な所作とはこういうことを言うのかと感心してしまう。
「コーリンが挨拶したんならアタイ達もしないとね。アタイはエンラ。しがない傭兵さ。」
豊かな黒髪の女性が快活な笑顔で声を発する。
「多分だけどこの中でアタイが一番歳食ってるから。30になるからさ。」
四人が驚愕の目を向ける。30。そう言われればそれ相応の色気はあるが肌のツヤ、それに格好がお腹丸出しだ。良くて20代だと全員が思っていた。お腹が丸出しに関してはフィアーも一緒だがしっかりと外套を羽織っている。
「……キアラ。それ以下でも以上でも以外でもない。」
呟くような声で無表情の女性が名乗ったがそれだけみたいだ。無表情だがそれに反して銀髪が光り輝いている。バルトは勇者の剣を思い出して少しだけ嫌な気分になった。
「……そっちがしてこっちがしないってのも変な話しよね。私はフィアー。ベル公国のポポ村って所の出身だけど分からないよね。」
フィアーが一歩前に出て率先して自己紹介をする。
「それとこの子は使用人じゃないから!私たちの大切な仲間だから!」
ユウナを指し相手を睨みける。特にバサラとコーリンに怒りをぶつけている。突然指をさされたユウナは驚く。
間抜けなユウナの顔にバサラがふっ、と小さく笑う。
「何かおかしなことでもありましたか?ユウナちゃんは大切な仲間ですので。それと申し遅れました。カナリアと言います。私もフィアーと同じ出身です。私たち全員同じところで生まれ育ったんです。」
カナリアが聖母を思わせるような笑顔を浮かべているがそこにはどこか圧がある。ユウナは少し、ほんの少しだけ距離を取った。
「まあ!みんなさん幼なじみと言うものですか!実は私とバサラ様もそうなのです。失礼致しました。幼なじみ、大切な仲間を傷つけてしまって申し訳ありません。」
丁寧に深々とコーリンが謝る。それに倣ってバサラも頭を下げてきた。
「あの……気にしないでください。確かに私の格好は、その、ちゃんとしたものではないですから。そう思うのも無理ないですよ。」
ここでユウナが初めて発言した。言われた当人が気にしないと言えば誰もこれ以上掘り返すことは出来ない。
「それに私この中で一番役に立たないですから、まあ、雑用係?みたいなものなんであながち間違っていないと言いますか……だから顔をあげてください。」
ユウナ自身使用人と間違われたことは一切気にしていない。今述べた通り魔力庫として以外役に立たないからだ。
「ですが……。」
顔をあげたバサラがちらりとカナリアとフィアーを見る。まだ二人の怒りは収まっていない。
「カナリア、フィアー。私は気にしてないから。はい、これでおしまい。いいね。」
「う、うーん、ユウナがそう言うなら……。」
「…………。」
無理やりだが納得させる。いや、カナリアは納得はしていないがひとまずは抑えてくれそうだ。
「ユウナ様。本当に申し訳ありませんでした。」
「ユウナさん済まなかった。」
二人がまた謝ってくる。
あー!これじゃ堂々巡りになる!謝るのはいいけどせっかく終わらせようとしたのに!
バサラとコーリンが思いの外真面目だったかまた頭を下げてくる。
どうやって話を終わらせようかユウナが考えていると
「あのー、そろそろどちらが本当の勇者様かハッキリさせてもらえませんか?」
おそるおそると管理人が声を上げる。
全員がはっと気づく。バサラとコーリンも顔を上げてこちらを見据えてくる。
「そうでした。バルトくん。あなたが偽者でしょう。なぜなら私にはこの勇者の剣があるのですから。」
腰にあった剣を外してバルトに見せつける。バルトは目を見開く。そして自分の勇者の剣をバサラに見せつける。すると今度はバサラが目を見開いた。
「こ、これって……!」
「ものの見事に色違いねー。」
フィアーとエンラが反応する。
二つの勇者の剣。それは色以外の姿形がそっくりなものだった。バルトのは赤を基調としバサラのは銀を基調としていた。
「……バルト君。ちょっとあっちで色々確認しないか?」
神妙なバサラ面持ちにバルトは何か悟ってしまう。
「分かった……。」
「それじゃあ僕達は少し席を外すね。」
その宣言通り二人は小屋の一室へと二人で入っていった。10分ほどして扉が開く。
中から疲れた顔をしたバルトとバサラが出てきた。
「……お前バサラに何をしたの。」
キアラがバルトを睨む。ほかの二人も僅かばかりにバルトを睨みつける。
対してユウナ達は悟る。ああ、勇者の剣のせいか。同情の目を送るほかなかった。
「──コーリン、エンラ、キアラ。バルトくんは間違いなく勇者だよ。」
「──バサラも間違いなく勇者だ。」
二人してお互いを勇者だと認めると熱く握手を交わす。
「大変だったんですね。」
「そっちこそ。」
バサラの仲間は何一つ分からなかったが一先ずは両方が勇者ということで落ち着いた。




