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第2話 幼馴染の女の子が相手の場合

「ねぇ、一生童貞でいるのと全身の毛がハゲるのとどっちか選べって言われたらどっちを選ぶ?」


「はぁ?」


 いきなりのわけのわからん問いかけに、反射的に「何言ってんだコイツ」という意味を含んだ声が漏れてしまった。


「例えばの話よ、例えば」


「例えにしてもなんだよその二択。どっちも選びたくねぇに決まってんだろ」


 漫画を読む手を止めて相手の表情を確認してみるが、わりと真面目な雰囲気だ。いや本人は真面目なつもりなんだろうが、俺にとってはどう答えていいかわからない問いかけとも言える。


「だから、仮に二択しかないと仮定してよ」


 学校から帰るといつものように幼馴染の塩森しおもり冬花ふゆかが、俺の家に上がり込んで漫画を読みながら問いかけてきた。


「うーん、そうだなぁ……」


 とはいえだ。俺自身はこういった例え話はあんまり好きじゃないんだよなぁ。なんていうかさ、どっちも選びたくねーじゃん? というわけで俺の答えはこれしかないわけだ。


「お前がそんな問いかけをできないように口をふさぐ」


 ビシッと冬花ふゆかを指さしてから、親指で首をかっ切る真似をしてやると。


「――えぇ!?」


 なんとも面白い反応が返ってきた。


「例え話出しただけでなんであたしがそんな目に!? っていうか二択って言ったわよね! 選択肢増やさないでほしいんだけど!」


「いやいや、わかってねぇな」


 俺は読んでいた漫画を完全に横に置いて、冬花へと向き直る。


「な、なによ」


「そんな理不尽な選択肢はどっちも選びたくねぇのはわかるだろ?」


「……まぁ、……それはそうだけど」


「ということはだ。実際にそういう状況になったら、どっちも選ばなくて済むように頭をフル回転させるはずだ。……ほら、よくラノベとかであるだろ? 二人を人質に取られてどっちかだけ助けてやる的なシチュエーション。主人公ならどうにかして両方助けたいと思うだろ?」


「……まぁ、そうね」


 俺の勢いに乗せられているのか、冬花が納得したように頷いている。


「というわけでお前の口をふさぐ」


「――なんでよっ!? 意味わかんないし!」


 冬花のツッコミに、俺は肩をすくめるしかない。


「だから言っただろ」


「何をよ!?」


「どっちも選ばなくて済むように考えるって」


「……いや、だからって、ただの例え話よね?」


「例え話にしても、それって二択になってねーだろ。どうしても二択にしたいんなら、本当にそれしか選べない状況に追い込んでからにしろよ」


「なによそれ」


「さっきのラノベの話でも出てただろ。両方助けるって選択肢が。……まぁ逆に失敗して二人とも助けられないって結果になる可能性もあるわけだが。だから他の選択肢を選べない状況に持って行ってからにしろって話だよ」


 俺の言葉に両腕を組んで考え込む冬花。思いつきで軽く話を振っただけなのに、冬花にとっては言いがかりに近いかもしれない。


「うーん……。そんなにすぐ思いつかないわよ」


 一通り唸った後に結局ギブアップかい。


「例えばどんな?」


 んで俺に聞いてくるんかい。


「あー、そうだなぁ……。童貞とハゲだろ……?」


 と言ってもどっちかしか選べない状況ってどんなだよ。自分で言っておきながらちょっと無理じゃねぇかという思いが大きくなってくる。……が、まぁ自分で言い出したことだし、多少無理やりでも状況を作るしかねぇな。


「例えばだ。時限性のギロチンか何かがチ○コに仕掛けられたとして、それを解除するには脱毛剤プールに飛び込むしかないとかいう状況はどうだ」


「はぁ!?」


 俺の理不尽な状況に冬花が盛大に顔を赤くしてツッコミを入れてくる。うん、俺も自分で何言ってるかわからんが、これくらいしか浮かばなかったんだ。っつーか『童貞』とか言い出したお前が悪いんだからな?


「ちょ、ちょっとギロチンって……! そんなことになったらあたしが困るじゃない!?」


「……なんでお前が困るんだよ」


 意味の分からない反応をするのはお前も同じか。つーか顔が赤いぞ? いやまぁ俺が下ネタ発言したからだろうが。いくら幼馴染と言っても女子にする発言じゃなかったか。すまん。


「俺だってそんなにすぐいいネタが浮かぶわけじゃねーんだよ」


「それは……、そうだけど。……でも確かに究極の二択ね」


「そうだろ? そこまで状況を追い込んでこその二択なわけよ。といっても、実際にそこまで追い込まれてもやっぱり両方回避できる方法は考えるわけだが」


「そう言うと思ったわよ!?」


「だけど時限式ギロチンが残り十秒とかだったらほぼ二択も同然だろ」


「……まぁ、あたしが言い出した二択からはちょっと離れちゃってるけど」


 渋りつつも納得しようとした冬花ではあるが、ようやく本題に入れるとばかりにその表情がにやりとしたものに変化する。


「――で、結局タクはどっちを選ぶの?」


「はぁ……」


 冬花の問いかけに、俺は再び大きなため息をつくと。


「……な、なによ」


 不満そうな冬花へと飛び掛かると、口をふさいで耳元ではっきりと告げてやる。


「だからお前の口をふさぐって言ってんだろ?」


「――っ!?」


 わずかに身じろぎするもそのまま固まってしまう冬花。耳元に口を寄せているため冬花の様子はわからないが、あまりにも反応がない。口を覆った手をそのままに俺は体を後ろへと引くと、真っ赤に染まった冬花の表情が見えてきた。


「ほ……、ほれならしょうがらいわね……」


 おい、口ふさがれたまましゃべるんじゃねぇよ。

 手をどけるとしょんぼりと肩を落とす冬花。うむ。どうやら俺にする質問じゃなかったことが理解できたようだ。

 話は終わったとばかりに、中断して横に置いておいた漫画本を手に取って読み始める。


「……うていを選ん…………が奪ってあげようと思ったのに」


「――ん? 何か言ったか?」


「な……、なんでもないわよ!」

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