表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犯罪者の異世界転移  作者: 妻屋
異世界編
15/21

小西 11話

 


 辺り一面に黒ずんだ灰が、風に乗りひらひらと舞っていた。

 僅かに息が残っていた数名の隊の仲間も、鬼に殺された大切な人も、憎い鬼も、周りの大木もさえも、何一つ残ってやしない。


 何故、俺だけが──


 自身が放った電撃の様な物が、全てを焦がしたのは分かっていたが、未だにこの場で生きている事に心が理解するのを拒んだ。いっそのこと、死んでしまえれば楽だった。


 いや、まだ遅くはないか。


 茫然とただ目の前を見ていると、黒の灰が不自然に目の前で旋風つむじかぜを起こし、収束した灰が人の形を作り上げていくのを、ただ見ていた。

 これが灰と化した鬼の悪足掻きだとしても、俺が生きる意味はもう存在しない。



 どうにでもしたらいいさ──



「随分と、遅い発現でした」



 黒の灰が完全に人の形となり、どういった原理で言葉を発しているのか、不気味にこちらへ喋りかけようとも、返答する気にもなれない。


「あなたは、尽力しましたよ」


 中性的な声は不思議と、俺の耳へと馴染んだ。


「この世界へと導いたのは、私です。【神託】を下しに今ここにいて、あなたは【神託】を下される為に今ここにいます」


 この世界へ来て、もう半年になる。今更俺に神託とやらを、真面目に受ける義理はない。


「他を当たった方が良い。俺は何をするにも中途半端で、今この場で死ぬ事すらできない。俺に、できる事はない」


 神聖的な物を何一つ感じさせない黒い灰の塊は、先程俺がして見せた様に反応を見せない。いや、黒い塊故に、感情が読み取れないだけなのかもしれない。


千鶴石ちずるせき。聞いた事はありますか?私が作り上げた希望の塊です」


 会話をする気がないのかあるのか分からないが、俺はその石を知っていた。

 千鶴石はその昔に、世界の繁栄を願って千の鶴が強い願いを込めた石だと、ロキさんに聞いた事がある。

 この世界インシュラで3個存在する千鶴石を全て神に供えると、その繁栄を祝して願いを叶えてくれるとの話は、皆子供の頃に夢見るおとぎ話の一つであった筈だ。


「あなたがいた世界程に、この世界の歴史は古くも無ければ広大でもありません。その歴史の中で確認された千鶴石は、【ナカニシ・イナリ】が数年前に新たに手にした1つを入れ、現在3つ。後、2つ千鶴石は世に存在します。あなたに、1つの希望を与えましょう」


 この世界には大分慣れた筈だが、それでも夢物語の様だ。


「全ての千鶴石を求めるのです。あなたの役目は、この世界の調和。私が作り上げた希望を形にして、山口涼子を死の世界からこちらへ戻しなさい。あなたには、山口涼子が必要なのでしょう?ならば、道は1つしかありません」


 死者を蘇らせる事が、できるのか?


「名を与えましょう、【ミツネ】。それがあなたの、新しい名です。コニシ・ミツネ、あなたは群れを離れた狼の様に逞しく生きるのです」



 答えるよりも先に、灰が風に舞い散り散りとなっていった。


 腹部と腕の傷が、古傷の様に皮膚が白く盛り上がって塞がっている。






 アルマさん、ロキさん、隊のみんな──


 涼子──




 やるしかない。

 夢物語だろうと、何だろうと。



 俺が息の根を止めてしまった仲間も、全員蘇らせる。



 





 触るとぼろぼろと崩れてゆく灰を、気付くと集めていた。


 村に吊れて帰らなければならない。


 俺が、殺したんだから。



 村の人間に、言えるだろうか。

 正直に、この人達を殺したのは俺です、と。

 神であろう存在と対面した今、自身の保身の為に事実を捏造する事が、露見される事が決まっている大罪に思えた。



 どちらにせよ、俺は村を去らなければならない。



 黒く濁った気分のまま、焦土化した場所を後にした。


 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ