訓練と魔術開発
それから俺はエドワードの魔力訓練の傍ら、様々な術式を作った。まずは既存魔術の改良に取り掛かる。亜種は沢山あるが、頻繁に使われている魔術の改良を行っていく。
【ファイアボール】
火の玉を放つ魔術
【ウィンドカッター】
鎌鼬による切断魔術
【クリエイトウォーター】
水を生み出す魔術
【ストーンウォール】
石壁を作成し、身を守る魔術
【ライト】
照明を出す魔術
これらの魔術は魔力変換を行って全ての属性の魔力で稼働するようにした。また、余計な構文はない為既存の魔法よりも40%ほどエコになっている。
攻撃魔術については入力された魔力量に応じて出力が上がるようにしたかったが、威力は術者の感覚に頼ることになるので、止めておいた。
また、オリジナルの魔法も作っていく。
【フリーズ】
気化熱によって熱を奪い、対象を凍らせる魔術。
これは水魔術と風魔術の複合魔術だ。こういった複合魔術を作り出せるのも、属性変換のメリットの一つだろう。
水魔術の本質は水を生み出し、風魔術は気体を生み出す。既存の術式は魔力からそれらを作成するが、このリソースは魔力に限ったものではないことが分かった。元となる物質が既にあるなら、魔力をほぼ使わずに対象の物質を生み出すことができる。
つまり、この魔法では風魔術で水をリソースに気体(水蒸気)を作っている。そして、気化する際に奪う熱量を利用して凍らせるのだ。
しかも、魔力で空気を生み出していないため、複数の出力処理を行っている割には魔力を使わない。試しにアンナが晩御飯様に買ってきた肉を凍らせてみたところ、ものの数秒で包丁の刃が通らないくらいカチコチになった。
おかげで夕食に使えないと怒られてしまった。これからは食べ物を実験に使うのはやめておこう。
【ショット】
小石を高速で放つ魔術。
火魔術の本質は火を生み出す事。しかし、ファイアボールはその火を飛ばして相手に当てる魔法だ。そのため、その火をどうやって動かしているのか気になって調べてみると、生み出した火に方向を指定して運動エネルギーを加えていたのだ。俺はこの運動エネルギーを加える魔術を運動魔術と呼ぶことにして、作ったのがこの魔術。
土魔術で小さな石を作り、運動魔術で高速発射する。石は小さいため魔力の消費はファイアボールに比べて格段に小さい。高速発射する分は当然消費するが、石の形を空気抵抗を受けにくい様に弾丸の形にすると効率がかなり良くなった。俺のメインウェポン候補だな。
【ヒート】
対象を熱する魔法
フリーズがあるので温度を上げる魔法を作れないか考えてみた。初めは光魔法でマイクロウェーブをだして熱する方法を考えた。しかし、熱は分子の運動であると学生の頃に習った事を思い出し、運動魔術によって直接分子に運動エネルギーを加えた所、ものすごく効率が良くなった。光魔術を使用する場合は魔力から光、光から熱と変換するため、魔力を直接熱に変える仕組みができればそっちの方が効率がエネルギーのロスが少ないのだ。
【プッシュ】
対象を弾き飛ばす魔術
これは運動魔術を直接相手にぶち込む魔法。単純だが魔力効率もよく、効果も高い。だが、対象に接近する必要があるため、魔術師が使う事はあまり無いのかもしれない。
【フロート】
対象を浮かべる魔術。
重力加速度と同じ運動エネルギーを上方向に与え続ける事で、浮かぶ事ができる魔術。
運動エネルギーを与え続けるためには繰り返し処理が必要であった。試しにプログラム言語で有名な繰り返し文を作った所上手いことできた。そこで1分間繰り返しつづける処理を作成し、1分間浮かび続ける魔術を作ることに成功した。
しかし、運動エネルギーを出し続けるため、俺が作った魔術のなかで最も魔力を消費する魔術となっている。
◇
もちろん魔術開発だけではない。魔力を鍛えるためにエドワードに師匠になってもらった。
「さて、これからマルコの魔力を鍛えていくわけだが、その前に少し説明しておこう。」
ゴホンと咳払いをしてエドワードは簡単な講義をはじめる。
「一般的に魔力を評価する基準は3つの要素があると言われている。まずはこの要素を一つずつ説明していこう。」
なんかダイアモンドの様な評価基準だな。確か、色、大きさ、透明度だったか?
「一つは属性。属性によって行使できる魔術が変わっている。まぁ、これは属性を変換できるマルコに言っても仕方のない事だが…。」
はい、どの属性でも使えます。なんかすいません。
「そして、貯蓄魔力量。これは魔術師が魔力を貯めておける量になる。多ければ多いほど沢山の魔術を行使することができる。スタミナのようなものだな。使えば使うほど上がるため、トレーニングで上げることができる。」
MPといってもいいな。
「最後に自然回復魔力量だ。これはどれだけ使った魔力を回復できるかと言うことだ。…最近分かってきた事だが、実は貯蓄魔力量が全くない人間、つまり魔術師でない人間でも自然回復魔力量はあるらしい。もちろん溜められる魔力量は先程の貯蓄魔力量に依存するがな。」
つまり人間に供給されている魔力量を自然回復魔力量と呼んでいるらしい。貯蓄魔力量を超えて貯まることはないが、人間には常に魔力が供給されており、貯蓄魔力量は余剰分をストックできる量と言う事。貯蓄魔力量はバッテリー、自然回復魔力量は電源という事か。ごく小規模の魔術であれば、貯蓄魔力量が全くない人間でも魔術を使えそうだ。いつか試してみよう。
「しかし、自然回復魔力量は鍛える方法は分かっていない。魔族やエルフといった一部の亜人族等はこの自然回復魔力量が生まれ持って高い傾向にあるらしいが…、まぁ、生物であれば誰でも持っているものだから気にする必要はないだろう。トレーニングではこのうち上げることができる貯蓄魔力量を上げていく。」
とはいえ、やることは単純だ。貯蓄魔力を使えば使うほど上がるので、常に魔力が空っぽになる様に魔法をぶっ放していれば良い。俺の魔術で最も消費が多いのはフロートだ。なので日常からフロートを使い続け、常に魔力を空にするようにした。
お陰で、俺が家の中でふよふよ常に浮かんでいる。妹エミリーと母のアンナは最初こそ変なものを見る目をしていた。しかし、しばらくすると慣れてきたのか、浮かんでいる俺は我が家の風物詩となっていた。