将来の夢
「それより、今後どの様に知識を広めるか考えようか。」
そうなのだ。全てを公表するのは簡単だが、それでは影響が大きすぎる。少しずつ広めるにはその方法を考えなくてはならない。レウコテアー様にも言われたしね。
「まずは私の知識を父上に教え、父上は研究者の身分を利用して、仮説として少しずつ世に出していくと良いと思うのです。」
そう、仮説として世の中に出せば、他の研究者が勝手に検証作業をやってくれるだろう。だが、エドワードからは意外な返答が帰ってきた。
「は?マルコは何を言っておる?魔術研究者の仕事を勘違いしてないか?」
「え?先進的な知識を見出し、それを世に放つ事でしょう?」
仮説や実験の結果を論文の発表し、見出した知識を世に広める事のはずだ。
「それは、宮廷魔術師の仕事だ。術式の読み方のような基礎研究は宮廷魔術師が行うだけで、基本的に秘匿されるものだ。魔術研究者は宮廷魔術師より公開される魔術の術式を魔石に記録し、魔術が記録された魔術発動体として魔術ギルド経由で魔術師に売る仕事だ。」
なんと、研究者とは名ばかりで、実はメーカーのような事をしていたらしい。魔術ギルドはいわばベンダーと言ったところか。しかし、研究者と聞けば最先端のインテリのような印象を受ける。初めに研究者を名乗った魔術研究者は多少見栄を張ったのかもしれない。
「士官学校にも魔術科はある事にはあるが、魔術の運用方法や魔力を増やすトレーニングを行う様な実践的な場所で騎士隊を志望する人間の中でも士官を志す者のための場所だ。教授陣も効率の良いトレーニング方法や、新しい魔法の運用方法を研究しているだけで基礎研究なんぞやっておらん。」
なんてこったい。という事は、宮廷魔術師を目指すしかないか。
「では、宮廷魔術師になるにはどの様にすれば良いのでしょう?それなら、様々な魔術の術式を広められますよね?」
「宮廷魔術師は志望してなれるものではない。」
いや、それでどうやってなるんだよ。ポカンとしている俺を見てエドワードは答えてくれる。
「宮廷魔術師は武官、文官、技官の魔術師の中でも優秀な人物を集めて組織された、王直属の組織だ。その中には優秀な魔術師を発掘する部門も存在する。」
「というと?」
「つまり、優秀な魔術師なら勝手に向こうから誘ってくるという事だ。」
魔術師として名を上げれば、スカウトされるとのこと。冒険者や騎士隊に入り武勇をアピールしたり、士官学校の魔術科や貴族学園の魔術具学などで主席となったり、宮廷魔術師の目の止まれば、勝手に声がかかってくるらしい。しかし、そこまでして宮廷魔術師になれたとしても、成果がなければ宮廷魔術師の座を剥奪される。なんという苛烈な成果主義。
「名を挙げられれば出身が冒険者でも良いのですか?」
せっかく異世界に来たのだ。ファンタジーにありがちな冒険者という職業にも興味がある。
「冒険者に興味があるのか?しかし、今まで冒険者出身の宮廷魔術師は聞いた事がないな・・・。いや1人いたか。」
1人しかいないのか・・・。でも、どんな人だろう?
「主席宮廷魔術師のアーサー氏だ。彼は孤児だったため、12歳で孤児院を出院した直後、生活のために冒険者となった。その後、魔術師として才能を開花させ、武官宮廷魔術師に抜擢された。」
おぉ、いるところにはいるんだな。しかし、宮廷魔術師となるには少なくともAランクになる必要があるのか。遠そうな道のりだ。ううーん。どうしようかな。
「迷うことは無いだろう。どの分野でも優秀であれば宮廷魔術師になれるのだ。マルコが宮廷魔術師になれればレウコテアー様の意向も叶えられよう。ならば、宮廷魔術師になるまでは好きな道を選ぶがいい。」
好きな道か。それなら決まっている。
「では、冒険者となって宮廷魔術師を目指します。」
ファンタジーの定番なのだ。これで冒険者を避けたらもったいない。俺は冒険者を目指すことにした。