神界、再び
朝食を終えた俺は、エドワードに連れられて街の教会にやってきた。
正面には祭壇のような物があり何体かの石像が飾られている。
「あれは?」
なんとレウコテアー様の石像もある。よく似ているが、俺以外にも神を見たことがある人がいるのだろうか。
「あれは、女神レウコテアー様の石像になります。」
後から声をかけられ、振り向くと司祭様がいた。どうやら、レウコテアー様の石像に興味を示した様子を見て、親切に説明してくれたようだ。
「こんにちは、司祭様。レウコテアー様というのですね。あまりに美しい女神様なので見とれていました。」
本当は知っているが、まさかあった事があるとは言えないので、方便を言っておくことにしよう。
「ははは、洗礼を受けに来たんだね?教会は初めて?」
俺は「はい」と頷く。この世界では洗礼は乳児などあまり小さい子には受けさせない。というのも、この世界はまだ文明レベルは中世ぐらいのため、乳幼児の死亡率が高いのだ。そのため、洗礼式は体がある程度丈夫になってくる5歳になってから受けるのが一般的だ。もっとも、裕福な貴族や王族はもっと小さい時に受ける事があるそうだが。
「はい。今日5歳になったマルコ=クロウリーといいます。司祭様、本日はよろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いします。それでは、準備してきますね。」
といって、司祭様は準備のため立ち去っていった。
「マルコ、待っている間にお祈りしておこう。」
そうだな。特に俺は直接お世話になった。転生できた事をお礼を言っておこう。
「はい、父上。」
そういった俺は祭壇の前に行き、手を合わせ目を閉じた。
「(レウコテアー様、この世界に転生させていただきましてありがとうございます。環境に恵まれ、幸せに過ごしております。)」
◇
「いえいえ、礼には及びませんよ。」
かけられた声に驚き目を開けると、目の前にはレウコテアー様がいた。あたりを見回すと真っ白な空間が広がっており、また神界にやってきたようだ。
「驚きました。またここにここに来ることになるとは。まさかと思いますが、また死んだわけではないですよね?」
「ええ、あなた…今はマルコさんでしたか。からの祈りが届いたため、こちらにお呼びしました。今は一時的に意識だけこちらにあるだけで、お亡くなりになった訳ではありませんのでご心配なく。」
よかった。あの時も気がついたらここにいたのでヒヤッとした。
「この度は、あなたのお礼の祈りが届いたため、礼は不要である事を伝えるのと、あとは聞きたい事があるそうですね?」
聞きたいことって…。あぁ、術式の言語の事か。
「はい。術式の言語については聞きたかったです。それより礼は不要って?」
「はい、あなたの転生については報酬の意味もありますが、こちらにも利があることです。なので、そんなに丁寧なお礼はいりませんよ。言われて不快ではありませんけどね。」
なるほど、と頷く。
「魔術行使命令文…人類は術式と呼んでいましたか。…に使われている言語はあなたの予想通り、あなたの元の世界のプログラム言語をモデルにしています。」
「やはりそうなのですね。そこでご相談なのですが、この言語の読み方をこの世界に広めても構いませんか?」
「それこそ、こちらこそお願いしたいことです。神々は世界の発展を望むこそすれ、はばむことはありませんよ。ただ、急に広めるとあなたの身の安全が不安定になる未来が見えます。広めるのは少しずつの方が良いでしょう。」
あー。たしかに。元の世界でも天動説を広めようとした科学者が異端審問を受けていたな…。
「ご忠告ありがとうございます。まずは家族から信頼できる人を中心に広めていく事にします。」
「それが良いでしょう。慌てることはありません。あなたの周りには良い方が集まるようです。周りを存分に頼りなさい。」
「ありがとうございます。」
礼を言うとレウコテアー様はニコリと微笑みかけた。
「あなたの行く末は私も気になっております。道に迷った時には再び教会に訪れると良いでしょう。」
と語りかけた。そして、再び俺は今生の世界に戻っていった。