天才魔術師の誕生
レウコテアー様との会話の後、私は温かく、なぜか安心するような場所にいた。私はその場所を狭く感じ外に出ようとする。どうやら頭な方に穴があるようで、頭を伸ばせば出られそうであった。なかなか小さい穴だが、なんとか頭を通していく。
外に出ると冷たい空気が頬を触れる。しかし、その場所がなぜか息苦しさを感じ私は大きく息を吸った。
「おんぎゃあー!」
そうして、私はこの世界に生を受けた。
◇
3歳になった俺は父の書斎で父が仕事をしているところを眺めている。いや、正確には文字を覚えるために父が作っている資料や報告書を見ている。
生まれて最初の2年は言葉を覚えるために費やした。母や父が話す言葉を反芻しながら少しずつ単語の意味や発音方法を覚えていった。ちなみに、初めて家族の前で話したのは「ママ」だ。しかし、それでは父に不公平感を与えるので、父にママと言ってあげた。私は平等主義者なのだ。なのに、父のあの何とも言えない顔をしたのをよく覚えている。なぜだ。
まぁ、それはともかく父は魔法の研究者らしい。父の書斎には様々な魔法に関する文献が揃っていると母が言っていた。魔法のない世界にいた私は覚えてみたい一心で未熟な力で本を引っ張り出して見てみたが、文字がわからなかった。残念。しかも、本は取り上げられてしまい、文字を覚えるまで禁止されてしまった。しかたなく、俺はこうして父の仕事を眺めながら文字を覚えようとしている。文字を覚えればこっちのものだ。
コンコン
ん?しばらく眺めていると書斎の扉をノックする音が聞こえ、母が入ってくる。
「あなた?マルコがそちらにいないかしら?他の部屋にいないのよ。」
「ああ、いるぞ。」
「マルコ。やっぱりここにいたのね?お父さんの仕事を邪魔しちゃだめよ?」
マルコ。これは俺の今生の名前だ。フルネームはマルコ=クロウリー。クロウリー家の長男である。
しかし、おとなしく書類を見ていただけなのだが、理不尽な物言いである。まぁ、小さな子供が仕事場にいればしかたないが…。
「アンナ。マルコは大人しかったぞ。」
母であるアンナ=クロウリーは火魔術師。そして父エドワード=クロウリーは光魔術師で精霊魔術研究である。両親とも美男美女で、魔術師。仲睦まじい夫婦である。そろそろ弟か妹ができてもおかしくないだろう。
「そうですよ、母上。父上の仕事姿がカッコいいので、その姿を目に焼き付けておいたのです。」
エドワードが庇ってくれたので、少し持ち上げておく事にしよう。
「あら、そうなの?相変わらずマルコはお父さんが好きなのね。嫉妬しちゃうわ。」
「息子は父親の背を見て育つというからな。マルコも将来、私のように魔術の研究者になるか?」
というと、エドワードは立ち上がり俺を抱き上げる。
「はい、父上。私に魔術を教えて下さい。」
「マルコには早いと思うがな。5歳になったら教えてやろう。」
非常に残念だが、このやり取りはいつもの事である。最初の頃は駄々をこねてみたが教えてくれないため、今はもう諦めている。なんでも、あまり小さい時から魔術を使っていると栄養が魔力化して身長が伸びないんだとか。ホントかどうかは怪しいもんだ。
「5歳になったら必ず教えて下さいね!」
◇
とはいったが、2年も待つことはしない。数ヶ月後、勉強のかいがあって俺はこの世界で使われている言語はだいたい理解できた。早速、エドワードの書斎から魔術入門書をこっそり拝借し、子供部屋で一人読むことにした。
「ふっふふ。これで俺も魔術師に…。」
思わず笑みを浮かべながら入門書を読んでいく。
"魔術は術式と呼ばれる魔術の内容が記載された文章に魔力を流す事で発動する。また、その術式は魔術研究者によって作成され魔術師ギルドが販売されており、術式を覚えれば、頭の中で術式を構築する事も可能。しかし、複雑な術式であれば正確に頭の中で構築するのは難しい。そのため、杖などの魔術発動体に術式を刻み、魔術発動体に魔力を流して使用する方法が一般的。魔術発動体は術式を記録できればなんでも良い。そのため初めは紙に本誌に記載されている術式を写し、練習すると良い。しかし、魔石と呼ばれている結晶体を発動体に加工するのが一般的である。魔石は魔力の透過性が高く紙などの発動体に比べてーーーーー"
「ふーん。どんな術式があるんだろう。え?」
初めに書かれていた術式は初心者向けの風魔法だった。そよ風をだす術式らしい。しかし、それより驚いたのは、術式に使用されている言語であった。
「『Breeze』。これは英語…?たしかそよ風と言う意味だったはず…。」
よく見ると術式の所々に英語の単語が記載されていた。
「これは風量?なるほどこうなってるのか。で、パラメータを指定して最後に空気を生み出すのか。なんかプログラム言語みたいだな。他の術式も同じか?」
こうして、俺は入門書を読み進めていった。自分が規格外と知るのは5歳になってからだった。