パーティの野営
何度かの小休止を挟んだ後、少しずつ西の空が赤く染まり始めた。
「今日はここまでだな。」
リュートはそういうと街道沿いに荷物を置いた。
「あれ?もう?」
まだ暗くなるまでは時間がある。少しでも進んだほうが良いのではないだろうか。と思ってるとジルが教えてくれた。
「ええ、野営の準備を明るいうちにやらないと、真っ暗で何もできなくなるからね。」
なるほど、少なくとも焚き火を起こす必要はあるだろう。
「それじゃ、薪になりそうな枝端を拾ってきますね。」
「あ、まて。俺も行く。」
「いえ、枝くらい一人で拾えますよ。」
リュートはそう言うが、遠くに行かなければ危険もないだろう。
「そうじゃない。食べられる野草も一緒に取りに行くんだ。それとも、マルコは食べられるやつを見分けられるか?」
あー、そういう事か。バランスのいい食事を心がけるなら葉物や木の実を取ってきたほうがいいだろう。
「そういうことでしたか。すいません、お願いします。」
「あぁ、一人でも集められるように教えてやる。」
「それじゃ、私は下拵えしておくわね。」
「これは食える。塩漬け肉と一緒にスープにしたら美味い。」
「ほうほう。」
「リュート、コレは?」
「いや、ダメだ。よく似てるがそれは毒草だ。見分けるには…。」
「お、良い物があるな。この木の実は酸っぱいが、食っておくと翌日調子がいいんだ。」
「それなら、向こうにいっぱいあったよ。」
「マジか!いくぞ!」
「このキノコは干しておくと保存食になる。」
「これ?」
「そうだ。よく似た毒キノコにここにツブツブが付いているのがあって…」
「はじめはこういう中身があまり詰まっていない木を燃やすんだ。火が燃え移りやすい。こういう中身が詰まったやつは火が安定してから燃やす。その方が火が安定するからな。」
「夜は長いから、詰まったやつはを多めに集めた方が良いって事?」
「そういう事だ。」
そんな感じで、俺とリュートはある程度集めて、野営場所に戻ってきた。
「いやー。たくさん取れたな。今日の晩飯は豪華になりそうだ」
「もっとあったのに。」
「食えるだけ取るのが鉄則だ。他の冒険者も取るだろうし、取りすぎても食いきれなくて捨てるだけだしな。」
「お帰りなさい。たくさん取れたわね。ここまで二人の声が聞こえてきていたわよ?」
近場で集めただけだしな。
「あぁ、あんまりこのあたりで夜営するやつは居ないのかもな。俺達は徒歩だし。」
「あまり徒歩移動する人はいないんですか?」
「そんなことないぞ。帝都の近くなら、近い町は歩いて1日のところが多いからな。ただ、この街道はショッボ町まで2日かかるだろ?馬車なら1日で着くから、乗り合い馬車に乗って移動するやつが多い。」
なるほど。いろいろあるんだな。魔剣弓の二人はブルの討伐があったため、乗り合い馬車ではなくて徒歩移動を選択したらしい。
リュートほジルの下拵えを手伝い始め、俺はかまどを作って火を起こす。2回目になると慣れたもんだ。下拵えが済んだのか、鍋を持ってリュートがかまどに鍋を置く。
しばらくすると、鍋からはいい匂いが漂ってきた。
「そろそろ良さそうね。食べましょう。」
ジルはお椀にスープを分け、みんなで食べ始める。塩漬け肉の塩分がスープに溶け出していて、歩き疲れた体に染みていく。リュートと集めた野草やキノコも入っており、具だくさんの美味しい野営食だった。
「駆け出しの冒険者はこういう野営の時、堅焼きパンと干し肉を齧って食事を終わらせる事が多い。でもな、暖かくて美味しい食事は活力だ。身体が資本の冒険者は食事に気を使うべきなんだ。マルコも冒険者になったら食事に気をつけろよ?」
「ふふ、野草を集めていた時も熱心にマルコに教えていたようだけど、そんなに気に入ったの?」
「そういう訳じゃない。こいつに色々仕込んでおけば、俺達が楽になるだろ?」
リュートは茶化されてそう言ったが、目を反らしていたので、きっと照れていたのだろう。