行き先
「マルコくんはこの後どうするの?」
食事を終えてお茶を飲みながらゆっくりと過ごしているところで、ジルはそんな事を聞いてきた。
「決まっていません。リーランド領都から来たのでショッボ町に行こうと考えてますが…。」
「そういや、訳ありだったな。俺達もショッボ町に行くんだ、一緒に行くか?」
「良いんですか?」
「良いのよ。マルコくんはどうせ町に入るための手続き料も持ってないんでしょう?手伝いとして雇っていると言えば一緒に入れるわよ?」
「そういう事だ。もし目的もない旅っていうなら、しばらく俺達と一緒に行動してもいい。飯宿は俺達と一緒にするから別として、一日銅貨5枚でどうだ?」
ようは小間使いとして雇ってやると言うことだ。正直、非常に有り難い申し出だ。今の俺には路銀を稼ぐ手段もない。銅貨5枚は稼ぎとしてはすごく少ない。子供の小遣いレベルだ。でも、行く宛も食べ物もない俺にとって、ご飯と泊まるところを用意してくれるのはとてもありがたい。それに俺は子供だ。
「リュートさん、ジルさん。お邪魔じゃなければ、こちらこそお願いします。」
俺は二人に心からお礼を言い、この優しい冒険者についていく事にした。
「さん付けなんてよせ、他人行儀な。これから俺たちは一蓮托生だ、呼び捨てでいい。」
「そうよ。あ、私はジルちゃんって呼んでもいいわよ?」
「あっ…それは。ちょっと恥ずかしいです。」
「ははは、ちゃんって言う歳かよ!」
「リュートひっどーい!まだちゃんって言う歳よ!」
「ぷっ、あははは!」
コントの様な話に吹き出してしまった。
「もう!マルコくんまで!」
「くくく…、いえ、すいません。これからよろしくお願いします。リュート、ジル…ちゃん。」
「あぁ。よろしくな、マルコ。」
「よろしくね、マルコくん。」
なんだか、楽しい旅になりそうな予感がした。
◇
片付けを終えて、魔剣弓の二人と俺はショッボ町に向う。
「そういえば、お二人はなんでショッボ町に行くんですか?」
リーランド領都の方が仕事はありそうなもんだけど。
「あぁ、さっき食った肉あるだろ?あいつはブルっていう牛に似た魔獣なんだけどよ。その討伐報告に行くんだ。」
この世界では獣と魔獣は明確に分けられる。魔獣は魔核という魔石の材料となる石を体内に持つ。持たないのが獣だ。種族としての差異はあるが、どちらも肉質や毛皮は大きな違いがない。しかし、魔獣は非常に獰猛になり、人を襲う。稀に原始的な魔術をも使うやつもいるらしい。そのため、魔獣は冒険者に依頼して討伐される。
「リーランド領都では報告しなかったんですか?」
「依頼を受けたのは領都なんだがな。俺たちは旅の途中だから隣町の冒険者ギルドの出張所で報告するんだ。」
冒険者ギルドは組織内部の連携を蜜に行っており、討伐依頼は依頼書と討伐を証明する魔核があれば、どの冒険者ギルドでも報告を受け付けてくれるらしい。その為、旅をしながら気ままな生活を送る事ができるのだ。もっともその様な生活をするためには、どの場所でも討伐依頼を達成できる程度の実力は必要なのだが。
「ショッボ町で一泊したら別の依頼を受けて、また次の町に向う事になりそうですね。」
「そうね。いい依頼が無い時もあるけど、大体そんな感じよ。そろそろ寒くなってくる時期だから、南の方の領に行こうと思っているの。」
なるほど、冬は暖かい地域で、夏は涼しい地域で仕事をしているのか。俺も前世の子供の頃は夏は北海道で仕事して、冬は沖縄で仕事する様な職業に付きたいと思っていたことがある。もちろん、そんな職業は見つけられなかったが、この世界の冒険者はそれが可能なのか。