憧れとの出会い
「おい坊主、生きてるか?」
肩を棒のようなものです突かれて、俺は目を覚ました。
「うん…?ここは?」
「お、生きていたか。ここはリーランド領都とショッボ町の間にある原っぱだ。こんな所でなんで寝ていたんだ?」
そう言われて思い出した。俺は逃げるように家を出たんだった。目の前にいる剣を携えた男に起こされたようだ。
「えっと…歩き疲れて休憩したいたらいつの間にか…。」
「こんな時間までか?もう昼近いぞ?」
もうそんな時間だったのか…。よほど疲れていたんだな…。
「あの…、日が昇るまで歩いていたので…。」
「はぁ、なんか事情がありそうだな。まぁいい俺達は今から飯にするつもりだが、坊主もどうだ?」
そう言われると腹の虫がクーっとなる。そういえば昨日の夜から何も食べてないな。
「くはは、いい返事だ。おい、ジル!こいつの分も用意してくれないか?」
「はいはい。リュートは言い出したら聞かないからね。」
「あの!でも、俺はお礼できるような物なんて何も…」
後で礼を請求されても困る。
「そんなことだろうと思ったよ。気にすんな、魔獣が狩れたから肉が余ってんだ。食っていけ。お礼なら…ジルの準備を手伝ってやってくれ。」
親切な人だ。気持ちがすごく嬉しい。
「あの…ありがとうございます。」
俺はリュートと呼ばれた男にお礼を言い、ジルと呼ばれた女性の手伝いをするために準備をしている場所に近づいていく。
「あの、手伝います。」
「あら、ホント?それじゃかまどを作ってくれるかしら、コの字に石を置いて…そうそう。大丈夫そうね。終わったらこの薪を入れておいて。私は枝肉を切り分けてくるわ。」
俺は言われた通りかまどを作り、小さな火を出す魔術を頭の中に作って火をおこす。するとジルが戻ってきた。
「あら?薪を入れておいてもらえば私が火をつけたのに?でも、ありがとう。」
そこまで言ってジルはあら?と首を傾げる。
「あなた、火打石持ってたの?」
「あ、いえ、俺は少し魔術が使えるので。」
「あらあら、まだ小さいのに凄いわ!私とリュート…さっきのがさつな男は剣と弓を使うでしょ?魔術はからっきしなのよね。助かるわ!」
そう言うと、ジルはリュートを呼んで、薄くスライスした肉を焼き始める。
「早いな。もう準備できたのか。」
「えぇ、この子凄いのよ。魔術であっという間に火を起こしちゃった。」
するとリュートは驚いたような顔をする
「小さいのに凄いな。なかなか俺達のパーティに入ってくれる魔術師は見つからなかったからな、俺はリュート15歳剣士のCランクの冒険者だ。」
「私はジルよ。14歳弓使い、同じくCランクよ。二人は魔剣弓っていうパーティなの。」
Cランクといえば上位25%に入る冒険者だ。年齢の割に凄腕らしい。
「マルコです。7歳です。魔術は…将来冒険者になろうと思って勉強していました。」
「「7歳?!」」
「ねえ、リュート、リュートは7歳のとき何していた?私、冒険者になるとすら思ってなかったわ…。」
「俺もだ。剣なんて冒険者になってから振り始めたぞ…。」
本人たちはヒソヒソ話している様だが、聞こえている。そんなにおかしな事を言っただろうか?
「そういえば魔剣弓でしたっけ…?魔術師がいらっしゃらない様ですが、その由来って…。」
痛い事を聞かれたのか、リュートはたははと苦笑する。
「ふふ、12歳になって二人でパーティを組む時に、魔術師も入れて活動しようって言っていたんだけどね。」
「結局入ってくれるような魔術師は見つからず、3年近く経ったわけだ…。」
「ぷっ…ははは。」
しょーもない理由に思わず笑いが溢れる。
「お、やっと笑ったな?」
「いや、だって笑うでしょ。魔術師が入る算段もなく名前つけたんでしょ?」
「ふふふ、そうなのよ!リュートったら適当すぎなのよ!」
「ジルも賛成してただろ!まったく…。そういう事じゃない、お前さっきまでひどい顔だったぞ?自覚してるか?」
「そうよ。さっきまで死んだスライムの様な目をしてたわよ?」
そうだったのか…。そういえばなんだか肩の力が抜けた気がする。もしかして、場を和ませるための話題だったのだろうか。
「ありがとうございます。助かりました。」
「あん?助かったって自覚はあるのか。」
なんだか知らないけど、リュートは少し驚いた顔をする。
「気に入ったぜ、もう少し忠告してやるか。いいか、マルコ冒険者になるんだったら覚えとけ、冒険者はお気楽なのがちょうどいいんだ。人間、思い詰めたら視野が狭くなる。危険と隣り合わせの冒険者にとってそれは致命的だ。」
俺は頷く。
「それはわかります。火魔術を使えるのに焚き火を起こして休憩する発想もありませんでした。そこに獣がやってきたら危なかったです。」
「そういうことだ。」
リュートは俺の答えを聞いて満足げに頷いた。優しくて、大きいな。これがCランクの冒険者か。
俺は冒険者という職に、今まで以上に興味を持ち、彼らを尊敬するようになった。