逃避行
新章スタート。少年期編です。
俺は荷物をまとめた後、この街を出ていくことにした。悲しくて、どうしようもなく居たたまれなくなって、思わず逃げ出した。
気づけば俺は街を囲う城壁まできたいた。既に門の関所は閉じている時間だ。
俺はフロートと使いながら城壁を乗り越える。城壁の上から見上げる月は俺を外に誘い出しているように見えた。
「いくか…。」
月を眺めて決心がついた俺はフロートを使ってゆっくりと街の外に降り立つ。そういえば俺はこの街から出たことがなかったな…。
しばらくは街道を進んでいくことにした。街道から外れると魔獣や野盗が出るため危険だからだ。もっとも、危険に身を委ねるのもいいかもしれない。今はそんな決心はつかないけれど、どうしようもなくなったら、それも考えよう。
しばらく進むと野営をしている集団を見かけた。日暮れまでに領都に辿り着けなかったため、近場で夜を明かしてから入るのだろう。夜番の冒険者が訝しげに街道を歩く俺を見る。こんな夜に子供が一人で出歩いているのだ。だが、彼らも持ち場を離れる訳には行かないため声をかける事はなかった。逃げてきた俺にとっては有り難い。
領都から出るのが初めての俺は当然この辺りの地理は明るくない。たまに話の中で隣町の話題が出るため、街道を進めば隣町に辿り着けることは知っている。まずはこの町を目指す事にしよう。
そのままどのくらい歩き続けただろうか、東の空が明るくなり始め、足元が見えるようになってきた。
「ふぅ。疲れた…。」
サラサラという水の流れる音を聞いて街道の近くに小さな川が流れている事に気がついた。喉も乾いたので少し休憩する事にする。
ゴクゴクゴク
水筒もないので川にそのまま口をつけて喉を潤す。思っていたより疲れていたようだ。冷たい水が心地よい。一息付くと冷静になれたのか水はクリエイトウォーターを使えば良かった事に今更ながら気がつく。ハハハ…俺は自分が思っていたよりずっと冷静でなかったらしい。
朝の冷たい空気を感じ、俺は荷物から小さな毛布を取り出し、包まる。少し休憩してまた進むことにしよう。そう考えながら俺はウトウトし始めて睡魔に身を任せた。
◇
私とイリュオスは朝ごはんを食べて早速マルコお兄ちゃんの家に行く事にする。今日はどんな事を教えてくれるのだろう。私は期待に胸を膨らませてイリュオスお兄ちゃんを急かした。
途中、騎士様が走って私達を抜かしていく。何かあったのだろうか。
「何かあったのかな…?」
「さぁ?どうせ酔っ払った大人でも道端に寝ていたんだろ。」
「そうかも。」
イリュオスの予想に口では納得した事を出したが、なんだか不安を抱いた私は、走るようにマルコお兄ちゃんの家の近くまで行く。
「おい、イーノー。ちょっと待ってよ。」
マルコお兄ちゃんの家の前に行くとさっきの騎士様とエドワードおじさんが焦った様子で話していた。隣ではアンナおばさんが泣き叫んでいる。
「私達が追い詰めたから!マルコは出て行っちゃったんだわ!!」
え?どういう事?マルコお兄ちゃんが出ていった…?
「ですから、今街中を探しています!関所に通った形跡はありませんでした。領都の何処かにいるはずです。それなら今日中には見つかるでしょう。安心してください。」
「わかりました…引き続き、お願いします…。」
騎士様の説明にエドワードおじさんは絞り出す様に回答する。それを聞いた騎士様は足早に仕事に戻っていった。
だけどその日、マルコお兄ちゃんが見つかることはなかった。