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転生者の魔術改革(仮)  作者: みの字
幼少期
15/30

すれ違いの夜

今回は長めです。いつもより倍くらいになってしまった。

 すべてを話してしまった。聞いた後は誰も何も話してくれなくなった。そして、俺は話した事を後悔した。

 前世は俺の罪なのか?レウコテアー様はこの転生を褒美と言っていたが、本当は罰するためだったのだろうか。誰も信じてくれないと思って、後回しにしていたツケだろうか。俺はこの家を出ていった方がいいのだろうか。眠れなくてそんな考えが巡る。

「一応、荷物をまとめておくか…。」

 いつ追い出されてもいいように荷物をまとめ始める。

 枕や毛布、替えの下着、魔術入門書、開発中の魔術が入った発動体。まとめてみると思ったよりコンパクトになり、この家に俺のものの少なさに気がついた俺はまた悲しくなった。


 ◇エドワードとアンナ

 俺は一人書斎で酒を呑んでいた。マルコは俺に全てを話したと思っていたが、あんな事を隠していたなんてな。しかし、アンナは良くマルコの事を見ている。

「エド、今いい?」

 そう考えていると誰かがドアをノックして俺を呼ぶ。俺を愛称で呼ぶのはこの家にはアンナしかいない。

「アンナか?いいぞ。」

「お酒呑んでるの?」

「あぁ、今日の事はなかなか飲み込めなくてな。」

「そう…。私も貰っていいかしら?」

 アンナは普段酒を呑まない。マルコができてから体に気を使って止めてからの習慣だ。しかし、アンナも今日のマルコの話は思う事があるのだろう。

「あぁ、こうして2人で呑むのは…9年前以来か?」

「違うわよ。マルコができる前だから8年前よ。」

「そうだったか。」

「「……。」」

 言葉が続かない。こんなにアンナとの距離を感じたのは初めてかもしれない。

「ねえ。」「なぁ。」

「あっ、済まないアンナから話してくれ。」

「い、いえ、エドからでいいわ」

「そうか…。」

 俺は椅子に深く背を預け、深呼吸をする。そして、アンナに心情を吐露し始めた。

「俺は…いや俺だけじゃない。俺とアンナは…マルコの親なのか…?」

 マルコは前世も人間だったと言う。それを信じるなら、その精神は人間だ。それなら、前世にも両親がいた筈なのだ。もし…あの子が我々ではなく前世の彼らを親と見ているなら……。俺達はマルコの親に成れていないのではないかと不安に思うのも仕方ないだろう。

「誰よりもエドはあの子の父親よ。その証拠にあの子が小さい時はいつもあの子はエドのこの書斎にいたじゃない。」

「それは…マルコが魔術に興味があっただけだ…。」

「まだ根拠はあるわ。マルコの話を思い出してみて。レウコテアー様にお願いした転生先の環境の事。」

「魔術を学べる環境だったか?」

「それだけじゃないわ。衣食住に困らず、仲睦まじい夫婦の元に生まれたいとも言っていたわ。」

「あぁ、そうだったな。だが、それがなぜ根拠になるんだ?」

「気が付かない?あの子が神に願った結果、私達の間に産まれたのよ?私達がいい子が生まれる事を望んだ様に、あの子は私達の元に産まれる事を望んだの。だから、あの子は確かに私達の子供で、私達は確かにあの子の親だわ。」

 そうか…、そうだったな。あの子は、これ以上ないくらい俺達の息子で、俺はマルコの父親だ!明日になったら謝らなきゃな。ちゃんと見ていなくてゴメンなって。

 俺は心の中に詰まっている物が無くなったかのように安心し、思わず涙が流れた…。

「ありがとう…。」

 俺はアンナに深くお礼を言った。


「それで、アンナの話はなんだ?」

「…。」

 アンナはゆっくりとした口に酒を含み、話し始めた。

「私、母親失格なのかな。」

「はぁ?誰がそんな事を言ったんだ?」

 アンナが母親失格だと?マルコが秘密を持っていることにも気づくぐらい、真剣にマルコの事を見ているアンナが母親失格なら、気付かなかった俺も父親失格だ。

「勘違いしないで、私が、自分でそう思っているだけなの。」

 なんだそうなのか。でも、なぜそんな事を?

「アンナはなんで母親失格だなんて言ったんだ?」

「…。あの子を追い詰めちゃったなって思って。」

「追い詰める?」

「ええ、だってあの子が話し始めた時に言ってたじゃない。今までと同じ様に、気持ち悪がらないでくれって。」

「…言っていたな。」

「私、あの子が悲痛な顔をしてそう言ったのを見て…後悔したわ。私が、何かあるんでしょ?って聞いたから。」

 あの時の顔が目に焼き付いて離れないとアンナは言う。

「何かあるって気づいていたのに、賢いあの子が隠すのはそれなりの理由があるって気づいてたのに…それなのに私はあの子を追い詰めて話をさせたわ。」

「だからか…。」

「そうよ!私達があの子を愛しているように、あの子も私達を愛しているから、嫌われたくなくて隠していたのに!私は追い詰めて話しをさせた!」

 アンナは持っていたグラスを一気に仰ぎ、泣き崩れる。

「アンナ、落ち着きなさい。明日になったら、あの子に謝ろう。俺が一緒にいてやるから。」

「グスッ、マルコは許してくれるかな…。」

 涙目で顔を上げたアンナは俺に聞いてくる。

「あぁ、もちろんだ。マルコは優しい子だからな。」

「うん…うん!グスッ」

 こうして、俺達の夜は更けていった。


 ◇イーノーとイリュオス

 マルコお兄ちゃんの身の上の話が終わった後、私とイリュオスは二人で帰り道を歩いていた。

「ねえ?イリュオス。今日の話だけど…。」

「やめろ。」

「え?」

「あいつの話は止めろって言ったんだ!」

「なんで?どうしたのイリュオス?」

「なんで?なんでと言ったか?話を聞いただろ?!あいつは普通じゃない!」

「普通よ!エドワードおじさんとアンナおばさんの間に産まれた、私達の友達の普通の男の子よ!」

「イーノーこそどうかしたんじゃないか?あいつが普通だと?前世?転生?そんな事を言い出す様な頭のおかしい奴なんか付き合っていられるか!」

 パァン!

 私はイリュオスの言い方に頭にきて思わず頬を叩いた。

「どうしてそんな事を言えるの?話を始める前にマルコお兄ちゃん行ってたじゃない。どうか今まで通りにって。その時のマルコお兄ちゃんの顔見てたでしょ?」

「あぁ…。」

 私にぶたれるとは思わなかったのか、イリュオスは呆然として話を聞き始める。

「あんな事をあんな顔をして言うなんて、本当に私達を友達だと、大切だと、そう思っているからでしょう?」

「それは…演技かもしれないだろ……。」

 イリュオスは自信がなくなってきたのか、最後は小さな声だった。

「まだあるわ。マルコお兄ちゃんが人さらいから私とエミリーを守った事覚えてる?」

「俺が最後に助けに入った時か…?」

「そうよ。あの時はマルコお兄ちゃんは本当に殺される所だった。イリュオスのお陰で助かったけど、あれも演技だって言うの?!」

 言えるはずがない。演技だとすれば、イリュオス自身が演技に加担しなければ不可能だからだ。

「……。ごめん。」

「それを言うのは私?」

「いや、マルコにも謝る。でも、怒鳴ってごめん。」

「分かってくれたならいいよ。私も叩いてごめん。」

「いや、お陰で目が覚めた。ありがとう。マルコは俺の妹イーノーを命がけで守ってくれた恩人で、友達だ。」

「そうだよ。私達の友達。また、明日も行こうね?」

「あぁ。」

 良かった、分かってくれて。

「そういや、最初は何を言おうとしていたんだ?」

「え?」

「俺がやめろって言った時に言おうとした事だよ。」

「あー。私、マルコお兄ちゃんの事大人っぽくて格好いいと思ってたの。」

「うん?そんな話だったか?」

「そうよ。でね。今日の話を聞いてその理由がわかって。もっと好きになった。って言いたかったの!」

「やめろ。」

「え?」

「マルコにはお前はやらん!」

「やっだもーん。許してくれないなら駆け落ちしちゃうから!」

「なっ、それは…、ちょっと待て逃げるなー!」

 そう言って私は家に向かって走り始めた。イリュオスはくわしく話を聞こうと追いかけてくる。


 知りたい知識を聞かれた時にイリュオスは剣の技術と答えた。私はそれを聞いてマルコお兄ちゃんとイリュオスが組んだら凄く楽しくなりそうな気がした。でも、それはまだ言わない事にする。イリュオスがちゃんと剣を身につけられたら言う事にしよう。

「(頑張ってね、お兄ちゃん。)」


 ◇エミリー

 私のお兄ちゃんは凄い。私が物心がついたときには、もう魔術の開発を作っていた。私が構って欲しくてお兄ちゃんの部屋に行くと、いつも何かに集中していた。

 以前、お兄ちゃんは冒険者になると言っていた。レウコテアー様のために有名になるんだって。凄いけど、お兄ちゃんはいつも一生懸命に魔術を作っているからお父さんみたいに魔術研究者になると思ってた。でも、レウコテアー様のためってことは、本当はなりたいものがあるんじゃないだろうか。本当はお兄ちゃんは何になりたいんだろう?

 今日、お兄ちゃんに聞いてみた。お兄ちゃんは魔術について学びたかったそうだ。初めからやりたい事がやっていたんだ。お兄ちゃんはやっぱり凄い。詳しく話を聞くとお兄ちゃんは魔術以外の事もたくさん知っているんだって。

 私はまだ文字も書けないけど、私もお兄ちゃんに知っている事を教えてもらえば、お兄ちゃんのようにすごい魔術が作れるんだろうか。夕食の時はそんな事を考えていたらいつの間にか食べ終わっていた。考え事に集中しすぎたみたい。


 私は凄いお兄ちゃんのようになりたいな。

 寝る前に私でもお兄ちゃんのようになれるか聞いてみよう。

 私はお兄ちゃんの部屋に行くことにした。もしかしたら話を聞いている間に寝ちゃうかもしれないので、枕も持ってきた。

 コンコン

「お兄ちゃん」

 あれ?返事がないや。もう寝ちゃったかな?それならお兄ちゃんの布団に潜り込もうと思い直し、私は扉を開ける。

「お兄ちゃん寝ちゃった?」

 そう言いながら部屋の中に入る。でも、お兄ちゃんがいつも使っているベッドは空っぽだった。


次回より新章「少年期」が始まります。家出したマルコの旅路を描いていく予定です。

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