親友イリュオスとの邂逅
朝食を食べ終えると、俺はベッドの中でOSの構想を練っていた。エミリーは泣き疲れたところに食事をしてお腹が膨れたためか、(なぜか)俺のベッドに潜り込んで、スヤスヤと眠っている。エミリーの天使の様な寝顔に癒やされながら思考の海に潜っていると、アンナが部屋に入ってきた。
「エミリーはそこにいるかしら?お友達が来てるわよ?」
そう言われて、俺は気持ち良さそうに眠るエミリーに心の中で謝りつつエミリーの肩を揺する。
「エミリー、友達が来たってさ。起きないと。」
「ふぇ?」
エミリーはまだ覚醒していないのか、眠たそうに目を擦ってボーッとしている。すると、アンナが案内をしたのか、俺の部屋にイーノーと少年が入ってきた。ん?どこかで見た気がするが…。
「お邪魔します、お兄ちゃん。怪我は大丈夫ですかん?」
少年は俺をお兄ちゃんと呼んだイーノーをみて驚き、俺にもの凄い目線を飛ばして睨んでくる。
「俺の名前はマルコだってば。君のお兄ちゃんじゃないよ…。」
「でも、エミリーのお兄ちゃんだよね?」
「そうだけどさ。はぁ、好きに呼んでくれ。」
「それじゃ、マルコお兄ちゃん。」
「はいはい。すまない、エミリーはまだ起きたところで覚醒していないようだ。それで、そちらは?」
「俺はイリュオス。イーノーの お 兄 ち ゃ ん だ!」
あらやだ、イーノーの本物のお兄ちゃんだった。
「イリュオス、私の恩人にそんな態度とっちゃやだ。」
妹には呼び捨てにされているが…。イリュオスの家庭内ヒエラルキーは低そうだな…。
「俺はマルコ。よろしくな。」
◇
「それで、昨日はイリュオスが気絶したマルコお兄ちゃんを運んでくれたの。」
それから、イーノーは覚醒したエミリーと一緒に、俺に昨日の顛末を教えてくれた。人さらい達は騒ぎを聞きつけた領主の騎士達に逮捕されたそうだ。そして、最後まで聞いて思い出した。イリュオスは昨日助けてくれた少年だったな。
「感謝してくれてもいいんだぜ!」
「いや、本当に助かった。イリュオスが来てくれなければエミリーもイーノーも無事じゃ済まなかったよ。」
そう素直に礼を言うと、イリュオスは照れ始める。
「いや、イーノーの兄だから当然…。いや、こちらこそありがとう。マルコが引きつけてくれたから、イーノーは無事だったし、奇襲できた。」
なんだ、嫉妬に狂った狂人の様だと思ったら、素直ないい子じゃないか。
「本当は二人共倒すつもりだったんだけどな。」
「そりゃ無茶ってもんだ!」
「え?なんで?」
「お兄ちゃんなら無理じゃないもん!凄い魔術師になるんだから!」
俺の疑問の声と一緒にエミリーは反論の声を上げる。
「おい…マジかよ?お前たち魔術研究者の子だろ?そんなことも知らないのか?
魔術の攻撃は弓より威力があるけど、発動が遅いから接近されたらお終い。だから、剣士の後ろで支援するのが魔術師の役割だ。言い方は悪いが、ガス欠も早いから、剣士の後ろで休憩しているのが仕事とも言うぜ?そんなの常識だろ。」
以前エドワードにも言われた話だが、魔術師のヒエラルキー低すぎない…?
「でも、マルコお兄ちゃんの土魔術は凄かった。ショットっていったあの魔術、土の宮廷魔術師のエミル=ストーニアが術式を秘匿している魔術にそっくり。」
「それは初耳だぞ?ホントか?」
イーノーはイリュオスの確認に首を縦に振り、肯定の意を示す。でも、エミル=ストーニアって誰だ?