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                        序

 20XX年、日本、某都市―――

 今、一つの生命がその終焉を迎えようとしていた。

 男の名は岩井 銀司。享年96歳。場所は河川敷の草むら。死因は臓器不全による老衰。破天荒といって良い彼の生涯は天寿を全うした形となろうとしていた。

「空は、青いのぅ」

 幸いにも銀司の愛する青々とした晴天であり、傍目には老人が草むらで昼寝でもしているようにしか見えなかった。懐には遺書と簡易葬儀の費用が入っている。思い残すことすらほとんど無かった。もっとも、あったとしてもどうしようもないのだ。彼がこの世界でなすべきことはすべて行われ、思うままに生きようとして行動する信念は揺るぐ事無く貫かれてきたのだ。結果、平凡な人生は送れなかったと言えるが、後悔しても仕方ない。とうに達観して禅僧の如き境地になっている。

 今わの際に青い空に母の顔が浮かび、亡き妻の若い頃の笑顔が浮かんだ。恐怖すらなかった。ただ満足に動かなくなった体を離れ、霊魂なるものがもし存在するならば死後それがどうなるのか、死を体験しなければ決して知る事のできない興味あるテーマを体験できる好奇心に少なからずワクワクしていた。

「さらばみんな、ありがとう」

最後に脳裏に浮かんだのは感謝の言葉であった。みんなと言うのはこの世界全体であった。世界と繋がっているすべてが彼の死を、生を許容してくれた事に対する感謝であったといって良かった。

 瞼すら重く感じて閉じる。呼吸が浅くなる。

 

 そして、静寂が、訪れる。


 破裂音がした。

「おめでとうございますー!!」

目を開けると眩しくはない白い光に満ちた部屋だった。彼の目の前には黒髪の和服を着たうら若い女性がいた。

「美緒・・・そうか、わしは、極楽に来られたんじゃな!!道路を歩いておったクサガメを助けて良かったわい」

「いやいやいや、そんな日本昔話みたいな理由で天国には行けませんよー。そもそも私はあなたの奥さんじゃありません。あなたの記憶情報から話し相手として最適な情報を選んだだけです」

「美緒には会えんのか?極楽では若返ってまた若い頃の様に毎晩毎晩ハッスルできると淡い期待を抱いていたのに!」

「それはそれは残念でしたねー。そろそろ抱きつくのやめて貰っていいですか?」

「いや、懐かしくて仕方ないんじゃ。古傷の膝が痛くて」

「いや、お尻触ってるのこれ絶対わざとですよね。そもそも肉体が無いんだから痛みとかもう無いでしょうが。いい加減にしなさい!!」

遠慮呵責なく銀司は殴られた。下あごを撃ち抜かれるようなアッパーカットは浮気がばれた際の亡き妻のそれに酷似していた。奇妙な懐かしさを覚え、呟いた。

「痛み、あるがな」

何故か関西弁で。

「一言で言うと、私、神様みたいなもんです。人間だけじゃなくて生命体すべての、空間すべての管理者と考えてください。全知全能とまではいきませんが、人間から見るとほとんど万能と考えて良いですよー」

「お、おぉ、ありがたやありがたや」

両手を合わせる銀司に神、女神は得意げに胸を張った。

「しかし、神様がいるなら何で世界平和とか実現せんし、エネルギー問題とか飢餓が起きるんじゃ?」

「基本的には人間の解決できる問題には不干渉です。で、解決できない問題に対しての、ここからが本題なんですけれども」

女神はずずいっと歩み寄って精神体?となっている銀司の両手を取った。心臓があれば鼓動を刻んでいたかもしれない。

「岩井銀司さん、享年96歳。ちょっと異世界に行って魔王を倒してきてください。報酬は天国行きの切符ですよ♪」

「は!?」

かくして、わしの冒険は幕を開けたのだった。



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