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(1) 外苑荒野

※この物語は「Lip's Red -姫様と緋色の守護者」の続巻にあたります。物語の舞台となる世界の設定など、前作(第1巻に相当)をお読みいただいていることを前提にして説明を省略して記述してあります。

※この巻から読んでいただいても構いませんが…第1巻にあたる「姫様と緋色の守護者」を先にお読みいただくと、より話を楽しめると思いますので、よろしくお願いします。

※第1巻では、碧色の森泉国の奥に隣接する外苑荒野を、当初謝って「第一象限外苑荒野」と記述していましたが、正しくは「第二象限外苑荒野」です。したがって、今回の話の舞台となっている「第二象限外苑荒野」と同じ場所という前提になります。ここにお詫びして、第1巻の該当部分を訂正いたします。

(※ X<0,Y>0のエリアは第二象限)

・・・


 気が付いた場所は…不思議な空間だった。


 辺り一面が真っ暗なのに、全ての物がハッキリと目に見える。

 いや…ちょっと待て。ってことは「真っ暗」じゃぁなくて…「真っ黒?」って表現すべきなのかもしれねぇな。


 ここは…そうだな…わかりやすいように言い換えてみようとか思ったが…俺の知ってる範囲じゃ、こんな場所は世界のどこにも思い当たらない。何処どこだ?…こりゃぁ?


 世の中にゃぁ「ブラック・ライト」何ていうモンもあるが…これは…ちょっと違う感じがする。俺は体に蛍光塗料なんざ塗る趣味はねぇし、手の届く範囲にゃぁ、光源となるような器具は見あたらないからな。

 何て言うか…空間は黒い…としか言いようがない感じなのに…そのくせ、俺は自分の手足や衣服の模様なんかまで、ハッキリくっきり、まったく問題なく見ることができてやがるのさ。…まぁ、そこそこには面白い状況か…。


 ここが俺の知っている場所じゃねぇのは、もう明らかだが…じゃぁ、いったい此処は何処だ?…っていう話になるじゃねぇか。なぁ?


 …って。


 俺ぁ、いったい誰に話しかけてるんだかな。…誰も、居やしねぇのによ。


・・・


 まぁ。あれだ。

 人間ってのは、一人っきりになった時でも、なかなか沈黙に耐えて黙ってるってのは難しいもんだな。俺様のような超天才な・・・?


 あれ?


 俺………誰だっけ?


 いや。俺だれだっけ…って…俺は俺だよ。いやいやいやいや。そうじゃなくて…あん?

 やべぇ。特に、他の記憶や知識には違和感を覚えないのに…なんでか…自分が誰かだけがどうにも思い出せねぇぜ。う~~~~むむ。


 ま。良っか?


 とにかく。俺様のような超天才な研究者?…おぉ。そうだ。確か、そんな感じだったな研究者…う~ん。超天才の後に研究者だとゴロが悪いな。よし。どうせ記憶も曖昧なことだし、より格好良くスマートに科学者と名乗ろう!


 え~と。そんで、何だったっけ?

 そうそう。超天才科学者の俺様にとっては、こんな自分の常識から大きく外れる空間は、大いに興味深い研究対象だ。取りあえず、片っ端から調べてやって俺の研究コレクションに加えてやるぜ。


   ・・・

   ・・・


 …とか。張り切って調べ始めてから…もう、どんぐらい時間が経ったのか。


 調べれば調べるほど、ここは呆れた空間だな。何も無い。ただ、だだっ広い空間が広がっているだけだ。大体だなぁ…そこら中が真っ暗け…ならぬ真っ黒けに光って?…る…そんな変な空間だからよぉ…距離感ってのがまるで掴めないんだよな。

 地面は、一応、地面だ。恐らく、ケイ素を主成分として炭素やら鉄やら…まぁ、そういうのが混じり合った感じの普通に土だな。臭いからすると…栄養分はマズ含まれていなさそうなキレイなもんだ。…ま、雑草の一本も生えていねぇから…臭いを嗅ぐまでもないんだけどな。


 あぁ。ココとは違うけれど…似た場所のことを思い出した。

 ほら。あの月面。背景の空が真っ暗なのに、妙に全てがクッキリはっきりと見えるっていう感じ…あれが一番イメージとしては近いかな?…実際には全く違うんだけどな。


 空を見上げても、薄ボンヤリと黒く?光ってる?…って感じで、余計に位置感覚が正常に働かなくなるんだよな。もう、結構歩いたハズなんだが…1ミリたりとも動いてないような錯覚をしちまうぐらいに。


 実は…一つ不安なことがあるんだが…少しな…ぐぅ…腹がな…ぐぅぐぅ…減ってきたんだよ…ぐぐぐぐぅぅぅうううう!!。ほらな。俺の腹の虫も鳴いていやがるだろ?

 このまま、この状態が続くと…そう遠くない未来に、さすがの俺様も飢え死にっていうエンディングを迎えちまいそうなんだよ。困ったぜ。


   ・・・

   ・・・


 …とか。空腹に悩まされながら…うろつき回ること数時間。


     【ゴン!】


 「…痛っ………ってぇなぁゴルァ!!」


 俺は、突然、何かに強烈に額を打ち付けた。何せ、真っ暗のような真っ黒な空間なのだ。そこに物があると分かったうえで見れば、ハッキリくっきりとソレが見えるんだが…気が付いていないと全く見えやしないんだからたちが悪い。


 見ると…見上げると…気が付かなかったことが不思議なぐらい巨大な物体が、そこに鎮座ましましていた。金属のような…磨き上げられた高級な石材のような…そんな質感のある素材で出来た、とにかく巨大な構造物だ。


 「…城?…いや………船か?」


 はぃ!効果音!…ばば、ばばぁあああん…とか、思わず厳かな感じのパイプオルガンかなんかで演奏した教会音楽的な?…それを思い浮かべながら見るとイイカンジな構造物だが…少し立ち位置を変えながらよく見ると、側面と思われる長い側の胴体?の中程には、航空機の主翼を思わせる水平板が突き出ている。


 「反対側にもあるのか?コレ?…ひょっとして飛ぶのか?」


 俺は、冷たくて硬い…案外と触り心地が良いソレを、手の平でピタピタと叩いてみる。

 すると…


・・・


 「うぉおっっとっととっとととと…」


 俺の叩いた壁面の感触が突然に消失。俺は、その物体の中へとよろけるように吸い込まれた。…って、目が!…目が!………目がぁぁぁぁあああああ…あ?…普通に見えるジャンかよ?…あれ?

 急に明るい場所へ出たために、俺は一瞬、逆に視力を奪われたような錯覚に陥ったが…暗闇ならぬ黒闇になれた目が、突然の明るさの変化に対応できなかっただけのようだ。


 「…へぇ………。こりゃぁ…また。落ち着くねぇ。俺の好きそうな…」


 何というか、レトロな感じも漂いながら…しかし、よく見ると超天才科学者の俺様でも見たことがないような計器類が壁面の所々に埋められていて…未来と超古代が融合したような雰囲気の空間だな。面白いじゃねぇかよ。


 俺は、空腹も忘れて夢中になった。それらのコンソールは、通常稼働しているわけではないようだ。俺が、偶然にも中へ侵入した結果、主を迎え入れたホームオートメーションのように、各種センサーだけが眠りから目を覚まし…俺からの新たな指示を待っているようなのだ。

 見ると、各計器類や操作盤には、うっすらと塵が積もっていやがる。…ってことは、もう、ここ暫くは、誰の操作も受け付けていなかった…ってことになる。


 「うひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


 俺は、初雪を踏むような…冬一番の水たまりに張った氷を割るように…可愛い子ちゃんの初めての(…以下自主規制)…するように…夢中になって、それらの機器を調べていった。


・・・


 「!」


 暫く夢中になって調べていた俺だが…微かに自分以外の発する物音がしていることに気づいた。


     【バタバタばたばた…】


 かなり慌てたような…何かから逃げるかのような複数人の足音のようだ。

 音源はだんだんと近づいてきており…やがて俺が入ったのとは別の入り口があったのか、扉を開ける重々しい音と…それに続く閉じる音、この構造物の中へと誰かが入ってきた…という警戒すべき事態を俺に伝えてきた。

 慌てて隠れようとしんだが…どこに?…そんな場所はなかった。


 『!…誰だ!?誰か居るのか?………まさか!ファーマスの手の者ではあるまいな?』


 壁に反射した声が俺の耳に届く。恐いもの知らずの俺様だが…それでも若干は心拍数が上がる。お、脅かすんじゃねぇよ!

 しかし、こういう場面では、怯んだりオドオドした奴が負けだ。そして…俺の人生に負けというシーンは有り得ない。俺は、得意の暗示の技を、まず自分に向かって使用し…それから…


 「あぁん!?…てめぇこそ誰だよ?…ってゆうか『ファーマス』ってなぁ誰のことだ?…知らねぇなぁ?」


 そう、自信満々に、最高のイイ声で聴き返してやった。主導権は渡さねぇぜ!!


・・・


 「…うぬぬ。ふぁ、ファーマスの手の者では無いのか…。嘘では無いのだな?」


 案の定、第一声はどこかの国の王様か宰相かと思うような威厳というか偉そうな臭いを含んでいた声音だったものが、俺と対等か、若しくはそれ以下のポジションにまで降りてきたような弱々しい確認の声にかわりやがった。


 「他人の家(ひとんち)に勝手に入ってきやがたのは目を瞑ってやってもいいが、お前こそ誰だか名乗るのが礼儀ってもんじゃぁねぇのか?…あん?」


 この構造物は、もちろん俺の家でも何でもないのはご存じの通りだが、俺はハッタリをカマしてやった。相手に暗示をかけるために。ハッタリというのは中途半端が一番いけない。馬鹿らしいぐらい大まじめに、堂々と不自然なことを自然であるかのように言い張るのが重要なキーとなるのだ。…相手を混乱させる…戸惑わせる…というのが暗示術の第一歩。基本中の基本だ。


 「…な、何だと?…こ、コレは…貴殿の住居であると言うのか?………し、信じ難いことではあるが………わ、分かった…す、済まぬ。無礼は許されよ」


 相手の偉そうなオッサンは、後ろの配下?と思われる男どもを下がらせて自分が先頭に立つと、姿勢を正して礼の姿勢を取る。そして名乗った。


 「わ、我が名はダルガバス。ダルガバス・ヘキレキ・イーメル・シャンタンだ。ご存じであれば嬉しいが…碧色の森泉国(イエメルアーダス)の宰相である」


・・・


 碧色の………はて?…何処かで聴いたような………うぅむ。どうやら…俺は、自分の事を思い出せないだけでなく、比較的、最近の出来事を…綺麗さっぱり忘れてしまっているようだ。…まるで、誰かに意図的に消されでもしたかのように…。


 「ほう。貴様がダルガバス宰相か。で?」


 知らないコトを知っている振りをするのは、実はあまり得策では無い。知ったかブリなんていうのは、遅かれ早かれバレるものだ。バレれば当然、疑念を抱かれる。だから通常は、俺は知らないコトは知らない…と正直な展開へと持っていくのだが…今回は、敢えて知っている振りをした。

 相手が、宰相などという思いのほか高い地位にある男だったからだ。この場合、知らないことの説明を考える方が…不自然さを相手に印象づける可能性が高い。


 そして、これが暗示術の高等テクニックの一つなのだが…「で?」と短く聴いてやる。こちらがほとんど話さずとも、相手はそのたった一文字の「で」に色々な意味を勝手に想像する。そして…


 「…恥ずかしい話ではあるが…ご存じのとおり、宰相と言っても、現在、私はファーマス王の一派から追われる立場。貴殿が、ファーマス王の手の者であるなら…ここで命運が尽きたと諦めるよりほかは無いが…もし、そうでないのであれば…申し訳ないが、暫くのあいだ…我々をかくまってはくれまいか?」


 …ってな具合に、勝手にペラペラと事情を話すっていうことにになるんだな。これが。


・・・


 よしっ。勝った。これで、この構造物での主導権は俺のものだ。


 いや。正直なところ、少しだけ賭けだったんだけどな。この構造物が、この…だる…ダルガバス?…とかいうオッサン造った物だったら、「俺の家」って言った時点でアウトだっただろう?


 でもな。まぁ。結果論っぽく聞こえるかもしれねぇが、俺には9割9分…この構造物が、このオッサンたちの所有物じゃぁないって確信があったけどな。…だってよ。こんな未来だか超古代だか…超天才科学者の俺様にすら得たいの知れない技術レベルの構造物がだよ…こんな古くさい話し方するオッサンたちの手で造られたもののハズないしな。

 それに、さっき調べた感じでは、構造物内の所々に監視装置っぽいものがある感じだったが、それこそ正統な所有者なら、そいつを使って俺のことを察知するだろうからな。


 まぁ。今、ここに、第3の登場人物として本物の所有者が現れたら万事休すだが…あの塵の積もり具合からすると…多分、放置されてから百年以上…下手すると数百年は経っているハズだ。…つまり…ココは、恐らく「遺跡」と呼んでいいような代物だ。


 とか、黙ったままで思考をくゆらせていると…相手が不安そうな顔をし始める。良い具合に勿体ぶった感じの間がとれたかな?…さて、そろそろ…


 「…ふん。良いだろう。…だが………タダで?…とは言わないだろうなぁ?」


 ここで快い返事は、逆に相手に疑念を生む。思い切り邪悪な笑みで、高く吹っかけてやるほうが、目の前のオッサンのような高慢ちきな雰囲気のオッサンには信用されるハズだ。


・・・


 「…い、今は、緊急で…追われる身ゆえ…あまり、大きな礼は致しかねるが…出来るだけの事はさせていただこう。また、無事、我々の復権が叶えば、それ相応の礼を約束する」


 ふん。復権ねぇ…。まぁ…実は、詳しい事情は全く知らぬのだ…とは、言えないからな。取りあえず、その辺りの事情は、おいおい引き出して聴くとして…今は、ぐぅ…。今は………ぐぐぐぅぅううううううう。今は、メシだ。


 「ふん。取りあえず、何か食う物、持ってないか?…俺は、今、出先から帰ったばっかりで食事がまだなんだよ。旅先で、手持ちの食料も丁度なくなっちまってな。腹ぺこなんだ」


 ある程度、相手にも恩を売らせてやらないと…この手の生まれつき人の上に立ってます!的な鼻持ちならないオッサンは、心が不安定になったりするからな。俺は、相手に簡単に叶えることが出来そうなハードルの低い恩義を売らせてやることにした。

 …というか、本当に腹ぺこなのだけどな。


 「おぉおぉ。そんなことで良いのであれば、お安い御用だ。実は、貴殿の家と知らず、以前に所有者不明の建造物として中に入らせていただいたことがあるのだが…その時に、今回のような有事の際に、一時的な拠点として利用できると考えて、密かに食料などの物資を備蓄させて頂いてあるのだ。………おい。クレメンス!…この家主殿の為に、直ちに食事の用意を!」


・・・


 クレメンス…と呼ばれた男は、さっきからダルガバスの後ろで俺のことをジッと観察していやがったが…「畏まりました」と短く答えて、通路に消えていった。

 こっちのオッサンにはバッチリ暗示がかかったが、どうやらクレメンスという男への暗示のかかり具合は、若干浅いようだ。気弱そうな男手はあるが、中々に頭の良さそうな雰囲気を滲ませていやがった。アレは、少し警戒しておいたほうがイイかもな。


 だが…それも少しの間だけの心配だ。


 俺は、この構造物を、本来の機能のままに稼働してみせる。走るのか、浮くのか…それとも飛ぶのか…今はまだ不明だが…それができた暁には、コイツもクレメンスも、もはや俺をこの構造物の真の主だということを疑うことはあるまい。


 俺の記憶は一部何者かに奪われているようだが………うん。大丈夫!…俺のアイデンティティ…俺を俺たらしめている超天才なこの頭脳。おそらくそいつは本来の俺の能力のままのハズだ。直ぐに、そう直ぐに…俺は、この構造物を見事に制御できるようになる。


   ・・・

   ・・・


 後日。俺は、その自分の中だけで密かに宣言したその公約を見事に果たし…この後日名付けたところの「空中要塞」を飛行させることになる。


 そして…そんな奇跡…的な業績やら何やらに心酔したとかいうダルガバスは、俺に「守護者(ガルディオン)になってくれ」とか頼んくるのだが…それは、もう少し後の話だ。


 今、この時点での俺は、体一つで放り出された未知なる土地で、他人の支配を受けることなく、自由に行動を選択する権利を勝ち取るために、必死でダルガバスとクレメンス…そしてその随員たちへ暗示を重ね掛けすることに専念するのだった。


 …ふふふふ。はははははは。…面白い事に、なってきたじゃぁねぇか?


 さぁ。物語の始まりだ。


・・・

※前作は、数日おきの更新ペースでしたが、今作は、すこしゆっくりと投稿することになりそうです。(週1ぐらい?)

※前作に出てきた、森泉国VS連合国(石塔国始め数国)の戦いの行方や、新たな勢力、そして、あの男が、色々とやらかすことで、前作よりも大きく物語りが動いていく予定です。姫様はもちろん、ファーマスも、マルルィアも…ボスも双子の王も…前作の異世界出身の主要メンバーが入り交じって活躍する予定です。

※肝心の主人公の出番が…いつ頃になるのか…まだ未定ですが、ぜひ全キャラクターを可愛がっていただきますよう、お願いします。

※それでは、第2巻…頑張って執筆しますので、よろしく応援のほどお願いいたします。

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