繋がる運命、戻れない日常
中々、話が進まないorz
次で戦闘パートに入ります。
地下三階の整備班は、突然の仕事を前に困惑していた。
「じゃあ、これ頼んだわよ。そっちの緑のヤツは明日までに仕上げて頂戴。勿論、この機能を搭載した状態でね」
「いや、無理ですよチーフ!一日で仕上げるなんて!それに、こんなの何処から持って来たんですか!?」
整備班のガレージに男の悲壮な声が響き渡る。
手には何やら書類の様な物を持った、作業着姿の四十歳ぐらいの男で、その顔には苦難の色がありありと浮かんでいる。
「やってみなくちゃ分からないでしょう?マイク。それじゃあ、頼んだわよ」
そう告げるとシルヴィアは、男が返事を返す前に整備班のガレージから出て行ってしまった。
あとに残っているのは、マイクと呼ばれた男と、激しい損傷を負った二機の〔G・S〕をガレージに運び込む整備班の人間だけだった。
「後は頼む、っていくら何でも酷いですよ…。それに…」
地下三階整備班班長、マイク・クラインは言葉を切って、手元の書類に目を落とす。
「ホントに、何処から見つけ来たんですか、これ…?」
手元の書類には『G・Sに措ける、新標準装備計画発案及び、設計図案書』と、あった。
地下三階にある、『バー・コルレット』は地下三階で開いている店の中で唯一、アルコールを取り扱っている店である。
イージスの職員の中には、特定の居住を持たずにガレージなどで生活する人間も少なく無い。その為、アルコールを取り扱う店も開業を許されている。
ただし、これは一階につき一店舗とされている。その為、その階層の職員の殆どが訪れるということもあり、かなり儲かる。それ故に、アルコールを出す権利の獲得の為に色々と小競り合いや事件が起きることもある程である。
そのせいか、経営者の中には店を子供のように扱ったり、客商売には向かないのではないかと思う程気難しかったり、かなり凝ったインテリアを施したりと、個性的な人物がかなり多い。此処、『バー・コルレット』も例外では無く、そこそこの広さを持つものの、内装は場末の酒場と同レベルという、奇妙な状態になっている。
「ビール頼む」
「俺はスコッチだ。水で割ってくれ」
いつも通りの服装に身を包んだハロルドとケビンは、カウンター席に座ると、細い体つきのバーテンに注文する。
バーテンは無言で頷くと、二人の前にビールの入ったジョッキと、スコッチの注がれたグラスとボトルを置く。
「じゃあ、とりあえず乾杯」
「あぁ。乾杯」
二人はそう言うと、ハロルドはジョッキを、ケビンはグラスを掲げてから酒を飲み始める。
「しっかし、厄介な事になっちまったなぁ。どうするよ、オイ」
「知るかよ。戦り合うのはお前だろうが」
「そうなんだよなぁ。まったく、どうしてこうなっちまったのかなぁ?」
そう言って、深い溜息を吐く、ケビン。
二人は『龍天飯店』での会食の後、とりあえず今回の件について話し合う為に、此処にやって来たのだった。
「しっかし、チーフ殿も分っかんねぇなぁ。そのまま向こうの整備班に任せればいいのに、機体回収しちまうしよぉ。つーか、そもそも明日、戦り合うとか、なに考えてんだよ…」
「確かにな。機体の調整に関しても時間かかるし、出来ない事は無いが、かなりのハードワークだぜ、こいつは」
G・Sは基となるコアパーツに装甲を取り付け、取り付けたコアパーツをジョイントパーツで取り付けることで完成する。
コアパーツはイージスで共通の物を使用するので問題は無いのだが、それ以外のパーツはそうは行かない。
装甲とジョイントパーツは機体の性能面に大きく関わり、また、コアパーツが共通の為に、機体に性能差を付ける重要な部分となる為、かなりの種類がある。
装甲なら強度、重量、スピードなど。ジョイントパーツならコアパーツの運動性能、射撃性能、安定性能などに直結する。
それ故に種類が多い、これらのパーツは再び手元に揃えようとすると、専用のカタログと睨めっこでもするような状態になる。
しかも、それらのパーツ自体に改良を施していた場合は、最初からやり直す羽目になるのだ。
「カラーリングは向こう持ちになるとしても、サイズ指定からやり直さなきゃなんねぇんだよなぁ。…メモ何処に置いたっけかな?」
「まぁ、ご愁傷様だな。それよりあの、アリスって娘どうするよ?かなり、俺達を敵視してるぜ?」
「そうなんだよなぁ…。いっその事、負けちまうか?どっちにしろバディ組むのは変わんねぇんだし」
『龍天飯店』の会食の最後に決められた決闘の条件。これが今、二人を悩ませている一番の原因だった。
まず一つ目は、開始時刻は明日の午後二時。これは、シルヴィアとアレンが互いの意見を総合して出した結果で、あまり先延ばしにしても作戦の件があるので、余計な小細工が出来ない様に、早めに行おうという考えで固まった為である。
もう一つは、二人の機体の整備は地下三階で行なうので引き取る、といったものである。発案者はシルヴィアで、アレンは二人の機体に小細工はしないと言うものの、シルヴィアに信用できないと言われて、引き渡すことになった。
そして最後に決められたのが、アリスが勝った場合二人を作戦の間だけ借り受けるというものだった。
もちろん、アリスは反対したのだが、当のシルヴィアが了承してしまった為、条件に加えられる事になった。
二人にして見れば、色々と言いたい事もあったのだろうが、シルヴィアがこの決闘にかなり乗り気だった為、結局、異論を挟むことができず、今に至るというわけである。
「あの人がそんな真似、許すとは思わないけどな」
「そうなんだよなぁ。畜生め、完全に詰んでんじゃねえか…!いっその事、仲良しパーティーでも開くか。ウマいメシと酒用意してよぉ。んでもって、イイ感じのダンサーでもつければ、みんな、ハッピーだろ」
「そいつはいいな。ダンサーがお前の趣味で決まってなきゃ、なお最高だね」
「んだよ、俺の趣味が悪いって言いてぇのか、ハロルド?」
二人がの会話が愚痴から、場の雰囲気にマッチした内容に変わってきたその時であった。
「あの…、放してください…、お願いします……」
「ハッ!聞いたかよ!お願いしますだとよ!ますます、カワイイじゃねぇかよ。なぁ嬢ちゃんよぉ!」
後ろから、涙ぐんだ女性の声と、野太い男の声が聞こえてきた。
二人が振り向くとそこには、恐らくかなりの長さがあるであろう、黒髪を後ろで小さく纏めた給仕と思われる格好をした少女が、ドレッドヘアーの大柄な黒人の男性に絡まれていたところだった。
給仕は、顔に幼さが残るものの、美人と言って差し支えの無い顔立ちで、体型のほうも出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる、女性らしい体つきをしていた。
「んだよ、うるせぇなぁ…。つーか、あんなウェイトレスいたっけ?ハロルド、お前知ってる?」
「いや、知らん」
「彼女、アルバイトなんです…」
「「うおっ!」」
見覚えの無い給仕の存在に首を捻っていると、後ろから聞こえる暗い雰囲気を纏った声に、驚いて振り向く二人。そこにいたのは、今まで沈黙を守り続けてきた、バーテンだった。
「なんだよ、驚かすんじゃねぇよ…」
「てか、あんた、喋れたのか…」
「えっ、あぁ、はい。喋れます…。それで…」
今まで一度も声を発している場面を見たものが居らず、てっきり喋れないと思っわれていた人物が、いきなり喋りだしたという事実に驚く二人を尻目に、バーテンは話を続ける。
「彼女、アルバイトなんですよ…」
「それは、今聞いたよ…。で?」
「はい…。彼女、孤児院の出なんですけど、最近、金銭面で苦労しているらしくて、それで…」
「分かったから、要点だけ言ってくれ。それが無理なら、ポップコーンでも出してくれ。コーラもつけてな」
「あ、はい。分かりました…。でも、出すのは話が終わってからで…」
「オーケイ、分かった。横槍入れたりしないから、早く先に進めてくれ」
バーテンの思考についていけず、溜息を吐きながら、話を進めるように促す、二人。バーテンは、「分かりました…。」と返事すると、続きを話し始める。
「彼女、美人だし、少し臆病だから、こんな事になるんじゃないかと思ってたんですけど…」
「なんで、予想が付いてたのに雇ったんだ?って、突っ込みは後にしといてやるから、要するに助けてほしいんだな?」
「はい…。その通りです…」
ハロルドの問いに対し、よく解らないが、嬉しそうに見える表情で返事を返す、バーテン。
「だとよ。どうする?ケビン?」
「なんで、俺に振るんだよ。お前がやればいいじゃん」
「生憎、俺はもう、アルコールが回ってるんでね」
そう言って、空のジョッキを見せる、ハロルド。
「お断りだな。こういうのは、西部劇の主人公がやるもんだと、相場が決まってる。ついでに、黒い外套でも着せときゃ、さっさとヒロインを助けて、恋のABCと洒落込むさ」
「あの…、お願いします…。お礼はしますから…」
「…しゃあねぇなぁ……」
バーテンに必死で頼まれ、渋々といった様子で男の方を向く、ケビン。そして、男に向かって、陽気な声で話しかけ始める。
「よぉ!ハンドジョブ・ジャック!こんな所で思い出作りか?」
「おい、俺をそのあだ名で呼ぶな……、ケビン!?ケビンじゃねぇか!隣にいるのは、ハロルドか!」
「よぉ、ジャック」
予想外の展開に思わず固まる、バーテンと給仕。そんな二人を無視して、ジャックと呼ばれた男はテーブルに置いてあった酒を手にして、カウンター席に座る。
「なんだ、なんだ?かのハンドジョブ・ジャックが、ガキを相手にするなんて、名が廃れるぜ?」
「だから、俺を俺をそのあだ名で呼ぶな、ケビン。ブッ殺すぞ」
「まぁ、ガキにちょっかいかけてる様じゃ、いい噂は立たないぜ、ジャック」
「あ、あの…、あなた方は、お知り合いなんですか…?」
予想を裏切るフレンドリーな空気に思わず、バーテンが質問する。
「あぁ、まぁな。それより、助けたんだから、なんかつまめるモンもってこいよ」
「は、はい…」
ケビンは悪びれもせず、バーテンの質問に答えると、報酬を出すように催促する。
バーテンはそれを聞くと、そのまま、急いで厨房へと引っ込んで行った。
「しかし、お前等聞いたぜ?地下二階の職員と戦り合う羽目になったんだってな?」
「まぁな。まったく、おっかない上司を持つと苦労するよ。…どうした、嬢ちゃん?」
ジャックと話していたハロルドが、先程の給仕が呆然と突っ立っているのに気付き、声を掛ける。給仕は驚いた様な反応を見せると、そのまま、店の奥に戻ってしまった。
「フラれちまったな、ハロルド」
「馬鹿言え。なんでそんな話になるんだよ」
その様子をみて、馬鹿にしたような笑顔になる、ジャック。ハロルドは、そんなジャックに適当に返事を返すと、バーテンがいつの間にか持ってきていた、サラミの薄切りに手を伸ばす。
「まぁ、とにかく、大変な目に遭っちまったなぁ、お二人さん。相手は誰なんだ?マーティン・スコットヤードか?ログ・ゴールドマンか?」
ジャックは楽しそうに二人の相手が誰なのか、当て始める。
「誰だよ、そりゃあ…。アリス・フローレンとかいう、メスガキだよ」
ケビンが面倒臭そうにアリスの名を告げると、ジャックが少し、驚いたような顔をする。
「そいつは以外だな。あの、アリス・フローレンが相手とは」
「知ってんのか?」
「まぁな。最年少の地下二階職員らしいぜ」
「オイオイ、マジかよ…。つーか、何でお前、そんなこと知ってんだ?やっぱし、女の趣味変えたのか?」
「おい、ケビン。そろそろ、くだらねぇ戯言は自粛した方がいいんじゃねぇのか?」
ジャックはそう言うと、頭の上で握りこぶしを作る。ケビンはそれを見て、楽しそうに笑いながら再び茶化し始める。
ハロルドはその光景を見て、溜息を吐くと話を元に戻す。
「お前がロリコンだろうが、ショタコンだろうが、カニバリストだろうが、どうでもいいさ。他は何か無いのか?」
「おっと、悪りぃな。後は確か、両親が事故で死んでたはずだ」
「事故?」
いきなり、予想外の情報が出来た為に、思わず聞き返す、ハロルド。
「あぁ。確か、コロニー間の移動の際に家族で遺物に襲われたらしい。生存者はそいつだけだった、って話だ」
「…いきなり、話が重くなったな。つーか、何でお前こんな情報まで持ってんの?いや、マジで」
「蛇の道は蛇、ってやつさ。まぁ、俺の人徳が為せる技よ」
「…随分とマニアックな蛇がいたもんだな。これで全部か?」
ハロルドはジャックの情報網の広さに若干、呆れながらも、これで持ってる情報が全てかどうか尋ねる。
「いや、実はまだある」
「お前、普段何しながら生きてんだ?」
ジャックの情報量が予測を遥かに越えていることに、心底呆れた様子のケビン。ジャックはケビンの言葉を聞いて、今まで以上に得意気な表情で話し始める。
「両親が死んだ後のあいつの身元保証人なんだかな、実はあの、マーカス・レインなんだよ」
「マーカス・レインって、あのガキのバディ相手で、この前くたばった奴か」
思わぬ所で出てきた人物に、ケビンは驚いたような声を上げる。
「そうだ。ついでに言うと、事故が起こった時、車両の護衛についてたのもマーカスだ。そして、遺物を全滅させたのもな」
「そいつは凄ぇが、それってマーカスがしくじったから、両親が死んだ様なもんじゃねぇか。なのに、マーカスに引き取られたのか、あのガキ?」
ケビンがイマイチ辻褄が合わない、話の内容に首を捻る。ジャックはそれを見て、嬉しそうに続きを話す。
「さらにだ、アリスには歳の離れた兄貴がいてな、コイツに引き取られる予定だったんだが、アリスがそれを拒否したのと、兄貴自身の行方が判らない、っていうのも理由としてあるんだぜ」
「何だか複雑な話になってきたな…」
予想以上に話が膨らんできたのを感じて、面倒臭そうな口調になる、ケビン。
「まぁ、実際の所はどうなのか分からんが、ヘヴィな過去が有る、っていうのは確かだな」
「最悪だ…。そういう手合いの輩は扱い難いんだよなぁ…」
そう言って、深い溜息を吐くケビンに、ジャックが楽しそうな表情で言葉を返す。
「なんだよ、何かあったのか?」
「ああいう手合いはなぁ、自分が世界で一番不幸なんだと思い込んじまうんだよ。だから、幸せな奴は皆、平和ボケしてると思っちまうし、自分は特別だと考えちまうんだよ。程度の差はあるけどな。まぁ、珍しい事じゃないよ」
「やけに詳しいな…?」
「まぁな、俺にもそういう時期があったしな。」
「マジかよ?何があったんだ?」
昔を懐かしむ様な表情のケビンに、意外そうな表情を向ける、ジャックとハロルド。
「俺がそうなっちまったのは、イージスの就任試験に二回落ちた時だったなぁ…」
「…オーケイ。真面目に聞いた、俺が馬鹿だった」
懐かしそうに、語られた過去に対して、呆れた様な声で返す、ジャック。ケビンは心外だとでも言いたげな声で、言葉を返す。
「何でだよ。いいだろ、別に。不幸の形なんて人それぞれさ。問題はそいつがどれだけ、当人にとってキツいかだろ?」
「まぁ、そうだが、とりあえず、お前が幸せな人間だ、って事は分かったよ…」
「ご挨拶だな、ジャック。…?ハロルド、どうしたんだ?」
ケビンがジャックと話していると、今まであまり、喋って無かったハロルドが、いきなり席から立ち上がったのに気付いて、ケビンは声をかける。
「ちょっと、気になる事が出来てな。先に帰る。明日があるんだからあんま飲み過ぎるなよ。後、整備班にも連絡しておけよ」
「おい、ちょっと待てよ、ハロルド。…行っちまった」
ケビンはハロルドを呼び止めるが、ハロルドは代金を置くと、軽く手を挙げて、店から出て行ってしまった。
あとには、呆然とした表情で固まる、ケビンとジャックが残された。
『あの時の光景が蘇る』
『炎上する車両。むせかえる血の臭い。鳴り響く銃声。人々の呻き声。身体に走る痛み』
『目の前に「アレ」が転がっていた』
『私は自由になりたかった』
『私は「アレ」をやっつけた』
『私は笑った。嬉しかった』
『あの人がやって来て、私を叱った』
『あの人は「そんなことは間違ってる」と、言った』
『私は謝った』
『泣きながら謝った』
『あの人は笑顔で許してくれた』
『あの人は、私は強い子だと言ってくれた』
『あの人は……』
「…夢か」
アリスは目を覚ますと、今の時刻を確認しようとする。目の前の机には、明日の為に調べていた、ケビン・カーティスのデータが標示されているパソコンがあった。パソコンの下部に表示されている時計は2時15分と表記されていた。
「失礼、アリス。入れてくれるかい?」
自室としての用途を兼ねている為に、ガレージに取り付けてあるチャイムが鳴ると同時に、スピーカーから自分の上司である、アレンの声が聞こえてくる。
「はい。少し待ってください」
アリスはスピーカーの近くに取り付けられたマイクに向かって、返事をすると、自室用のスペースを出て、整備室に向かう。整備室の端末を操作して、ドアのロックを解除すると、ドアを開き、アレンをガレージの中に入れる。
地下二階ともなれば、ガレージの広さもそれなりにあり、就任時に申請すれば、自室用のスペースも確保することができるのだ。
「どうしたんですか、チーフ。こんな夜遅くに?」
「いや、電話を入れたんだけど、返事がなかったからね。かといって、ガレージの電気は点いてるからね。心配になって、見に来たんだよ」
「すいません、面倒をかけてしまって…」
上司に手間を掛けさせてしまった事に気付き、理由が居眠りだったということもあって、きまりが悪そうに謝罪する、アリス。
「いや、いいんだよ、別に。それより、明日の事もあるんだし、早く寝た方がいいよ」
「分かりました。お手数を掛けさせてしまって、申し訳ありませんでした」
そんなアリスに、アレンは笑って、返事をすると、アリスに早く寝るように促す。その光景は何も知らない者が見れば、親子の様に見えたかもしれない。アリスが敬語を使っている点を除けばだが。
「そういえば、明日の準備は大丈夫なのかい?」
「安心してください。負ける気はありません」
(そう、あんなヤツなんかに絶対負けるもんか…!)
アレンの質問に自信満々で答える、アリス。
そんな、会食での意趣返しに燃えるアリスを見て、アレンは苦笑しつつ、忠告する。
「君のことは信じているが、油断だけはしないほうがいいよ。なんせ、相手はあの彼女の部下だからね」
「…そんなに凄いんですか、あの女?」
アレンは、アリスのシルヴィアに対する敵意がありありと籠められた質問に、どこか懐かしさ口調で答える。
「あぁ。彼女は元、凄腕のG・S乗りだったからね。しかも、ケビン君と同じ近距離戦を得意とするタイプのね。だから、もしかしたらなんらかの策を施して来るかもしれない」
「そうだったんですか…」
アレンの口から思いがけない事実に驚く、アリス。他にも聞いてみようと試みるものの、それはアレンの言葉によって遮られてしまった。
「とにかく、明日のこともあるし、早く寝た方がいい。君の無事も確認できたし、私も寝るとするよ」
「そうですね。すいませんでした、こんな時間に…」
「気にしなくていいよ。それに、君と話せて楽しかったしね。それじゃ、お休み、アリス」
「はい、お休みなさい、チーフ」
アレンは挨拶を交わすと、ガレージから出て行った。アリスはそれを見届けると、自分の部屋に戻り、眠りについた。もしかしたら、夢の続きを見るかもしれないといった考えが浮かんだが、深く考える前に彼女の意識は途切れてしまった。