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HEART Of STEEL  作者: ブッチ
第一章 業火の一振り
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Untouchable Zone

主人公組が空気…orz

「え?じゃあ、俺達の機体の修理費を負担してくれたのは、ホーキンスさんなんですか?」


 席に着き、運ばれて来る料理を食べていると、アレンから語られた事実に驚く、ケビン。


「あぁ。かなりの損傷だったからね。時間もそれなりにかかると思って、整備班に回したんだけど、せっかくだから修理費も負担させてもらったよ」


 機体の費用については、弾薬費は支払われるが、機体自体の修理費や、武器の調達に関しては支払われることは無い。

 これらの費用は全て、操縦者の給料からの出費となっている。

 大きな理由としてはイージス職員の給料が、かなりの高額である、という所にある。

 流石に高所得者地域に家を構えるには、地下一階以上でなければ無理だが、一つのコロニーの安全を命懸けで保っているだけあって、その給料はかなりの額である。

 その高額の給料を生み出す仕組みとして、機体整備の費用を給料に回し、整備が必要になったらそこから引き出す、という制度が作られた。

 これには諸説あるが、最も大きな存在理由は、操縦者の育成にあると言われている。

 給料という分かりやすい目安を設けることで、自分の実力を理解し、また、技術向上の原動力にしようといった考えがあると言われている。


「すいません…。手間をかけさせた挙句、修理費まで…」

「いや、いいんだよ。私が勝手にやった事だし、それに君達の活躍からすれば、当然の報酬だしね」

「まぁ、お心遣いには感謝しますが、次からは、私に報告を入れてからにしてほしいものですね。なにか、やましい考えでもあるんならまだしも?」


 申し訳なさそうに言うケビンに対して、フレンドリーに返すアレン。それに対し、シルヴィアが皮肉を 言っている最中、ハロルドの思考は一つの事に囚われていた。

 それは、すなわち、この会食の存在意義である。

 二つの階層のエリアチーフが揃い、その片方は明らかな嫌悪感を、もう片方は正体不明の負い目ともとれる感情を持っている。そればかりか、例のG・Sの件で少し名が広まったとはいえ、低ランクの自分達まで出席している。なぜ、自分達まで呼ばれたのか?あの少女…アリスとやらは、この会食にどういう関係があるのか?二人のエリアチーフの間に、いったいどんな因縁があるのか?そして、アレンというエリアチーフは無理矢理にでも借しを作って、なにを企んでいるのか?これらの疑問が、ハロルドの中で渦巻いていた、その時だった。


「さて、そろそろ本題に入ったらどうです、ミスター・ホーキンス?私は貴方と世間話をして、昼食と洒落込む為に招待された訳では無いのですが?」


 シルヴィアの声のトーンが変わると同時に、まるで敵でも見ているような表情でアレンに話しかける。


「そうだな…。料理もあらかた来たし、本題に入るとしますか」


 それに呼応するかの如く、真剣な表情になったアレンは、今までと違い真剣な声音で話始める。

 ケビン達はその急激な変化に戸惑いながら、黙って話しに耳を傾ける。


「その前に、例のG・Sについての報告は読みましたかな?ミス・ヴァレンタイン?」

「いえ、まだですわ。急な用事が入ったもので」

「…結構。では掻い摘んで報告しましょう。まず最初にあのG・Sの身元が割れました。」

「あら、随分と迅速ですね。ココの情報力では、もう少しかかると踏んでいたのですが」


 情報参謀部が思いの他、迅速な対応を見せた事に皮肉めいた発言をする、シルヴィア。アレンは軽く笑って、「同感です。」と返すと話を続けた。


「操縦者の名前は、コール・ブライアン。コロニー・バウロークの出身で、年齢は記録の時点では四十九歳とあります」

「G・S乗りとしては、かなりの高齢ね。記録の時点では、とはどういう意味でしょうか、ミスター・ホーキンス?」

「彼は四十年前に行方不明になっているのですよ、ミス・ヴァレンタイン。さらに言うと、彼は、コロニー・バウローク所属のイージス職員でした。所属は情報作戦部だったようです」

「四十年前といったら、このコロニーができる前の話、ということになりますね…。その情報作戦部というのは、情報参謀部と同じと考えてよろしいでしょうか?」

「えぇ、その解釈で問題ありません」

「……妙な話ですね。彼等が動くとしたら、極秘任務(シークレットオプス)ということになりますが、記録上はなんと?」


 基本的に情報参謀部は、戦力を所有するものの、それを行使する事はない。情報の収集に関しても、衛星からの映像か、それでは不可能な所には、一般職員に仕事を回して調査させるからだ。もし、行使するとしたらそれはよっぽどの特殊な状況…、文字通りの極秘任務ぐらいなものなのだ。


「あくまで、彼の独断による離反とありますが、その線は薄いでしょうね。上層部が、一般職員ならまだしも、情報部の人間の離反を見逃すとは考えにくい」

「つまり、離反では無く、作戦行動の一環だと?」

「その線が一番有り得るんですが、問題が…」

「四十年経った今、何故このような大胆な事を仕出かしたか、という事ですね?」

「えぇ。今このような事件を起こした所で、メリットが有るとは考えにくい。反政府組織が拿捕して運用しているとは考えられ無いですし、コールは流石に死亡しているでしょうしね」


 イージス所属のG・Sには基本的にプロテクトが掛けられており、部外者は扱えない。これを解除するような、技術を持った反政府組織も存在するが、情報部の機体に掛けられているプロテクトは通常のものとは別格であり、到底、破れるものでは無い。


「とすると、やはりコロニー・バウロークの情報作戦部が動いているという訳でしょうか?」

「そうだと考えているのですが、情報作戦部はその二年後に解散して、今は、同じく情報参謀部に名前を変えていましてね。当時の情報が集めにくいのですよ」

「“火消し”が行なわれたという事でしょうか?ミスター・ホーキンス?」

「私は、そうだと考えています」


(オイオイ、何だか話がヤバい方向に向かってないか?)

(クソッ、ただのランチのはずだったのに、どうしてこうなるんだ!?)


 会食の席で語られる、自分達の理解を超えた内容に、胸中で悪態を吐く、ケビンとハロルド。

 上司二人は話しかけられる状況では無く、アリスは此方にまったくの関心を寄せずに、静かに座っている。肝心の相方との間には問題の上司が座っており、話しかけられる状況では無い、という有り様では二人が不安感を抱くのは無理も無かった。

 せめて、早くこの会食が終了する事を祈る、二人だったが、その祈りは届かず、話しは進んで行く。


「しかし、まったく、気に食わない話しですね。下手をしたら、コロニー・ムスタフの暗部の中でも最底辺を見る事になりかねない」

「確かに、此処が出来たのは、コール失踪の五年後ですからね。企画が上がったのはもっと前でしょうが、コールが無関係とも考え難い。それに造られた当時は、無理矢理、形だけ完成させた様なものでしたからね」

「それに、情報参謀部の動きも奇妙ですね。四十年前の情報部所属の人間を一晩で洗い出すなんて、話が出来すぎている」

「とりあえず、この話は此処までにしましょう。もう一つの話に入っても?ミス・シルヴィア?」

「えぇ、どうぞ」


 話題を変えようとするアレンに対し、シルヴィアはまるで、「好きにしろ。」とでも言いたげな表情で言葉を変えす。

 アレンはそれを聞くと、真剣な表情を僅かに崩して微笑んで、再び話し始めた。


「もう一つ、報告がありましてね、その内容と言うのが、地下二階以上の職員で例のG・Sに対して、大規模な掃討作戦を展開しようといったものなんですよ」

「そうですか。それが私になにか、関係でも?」


 アレンの言葉に対し、威圧感を含む声で返すシルヴィア。アレンはそれに対し、まったく緊張を感じさせ無い声で答える。


「ケビン・カーティス及び、ハロルド・ジョーンズをこの作戦にお借りしたい」

「…そこの少女の為に、ですか?」


 アレンからの突然の要求に侮蔑を含んだ声で返す、シルヴィア。


「…ご明察の通りです。彼女も作戦に参加するつもりなのですが、ご存知の通りバディがいない。その点、彼等は前回の作戦を生き延びた、実力と経験が有る。勿論、彼等を作戦に参加させるにあたって、彼等のガレージを地下二階に移籍させ…」

「お断りです。彼等は私の部下です。貴方はどうか知らないが、私は部下の将来を、その場限りの判断で引っかき回すのを認めるような人間では無いつもりです」


 自分の考えを見透かされたアレンは少しの間、驚いた顔をしていたが、すぐに話を再開しようとする。

しかし、それは、シルヴィアの侮蔑と怒りの込められた声によって遮られる。


「一つ、断言できますが、私は決して…」

「もういいでしょう、チーフ。私なら大丈夫です。それに、彼等の実力では足手纏いになるだけです」


 アレンはなんとかシルヴィアを説得しようとするが、それは、今まで一言も発しなかった、アリスによって再び遮られる。


「アリス。此処は落ち着いて私に任せて…」

「今のは聞き捨てならないわね。ミス・アリス?」


 アレンの言葉は、今までとは口調の違うシルヴィアによって、三度遮られる。


「聞き捨けなくて結構。今日は手間を取らせて申し訳ありませんでした。それでは、失礼いたします」


 そう言って席を立つアリスを見て、小さく笑い始めるシルヴィア。

 その光景をケビンとハロルドはまるで、地雷原のど真ん中に立っているような気分で眺めていた。


「…?なにが可笑しいんですか?」


 小さく笑い続けるシルヴィアに不気味に思ったのか、ドアに向かう足を止めて、声をかけるアリス。すると、シルヴィアは小さく笑うのを止めずに、こう切り出した。


「ごめんなさい、バディを見殺しにした挙句、アホ面下げて帰ってきた、恥さらしのクズが、よくそんな台詞を吐けたものだと思ってね」


 シルヴィアの言葉に一瞬、部屋の空気が凍り付く。

 その中で最初に動き出したのは、他でも無い、アリスだった。


「貴様……!取り消せ!」


 声を荒立て、目に殺気を宿して、シルヴィアに掴み掛かろうとするアリス。


「止めろ!アリス!シルヴィア!」


 アレンが止めようとするがそれは間に合わなかった。

 シルヴィアは、掴み掛かろうとしたアリスの胸元を、右手一本で逆に掴み上げると、思いっきり、壁に叩きつけた。

 衝撃と驚きで思わず座り込もうとするアリスを、シルヴィアは髪を掴んで自分の顔の位地まで引きずり上げる。


「“ミス・ヴァレンタイン”です。ミスター・ホーキンス。さてと…」


 シルヴィアは引きずり上げた、アリスの顔に自分の顔を近づけ、耳打ちするような形で話し始めた。


「いいか?よく聞けよ、私はね、お前の様な過去に依存してる様なクズは嫌いなのよ。とても、とてもね」

「何を…!?」


 髪を掴まれ苦しげな声を上げる、アリスを無視して、シルヴィアは話を続ける。


「やれ、過去にどうこうされて大変だったから、優しくされて当然だとか。やれ、昔にあれこれあって辛かったから、好き勝手やっても許されるべきだとか。そういった、イヌのクソ以下の寝言を喚きながら生きてる、お前みたいなゴミ共は総じて糞以下の臭いがする。まったくもって不愉快極まる」

「私が…!そうだと言うのか…!」

「あら?違うのかしら?礼儀もなにかも無視する様な真似をしておきながら?“育ての親”が見てみたいわね。あぁ…、もう死んでたわね」

「貴様ァ…!」

「手を放したまえ、ミス・ヴァレンタイン」


 少しの間、二人のやり取りを傍観していたアレンが、静かながらも、強い意思の込もった声を上げる。


「…ごめんなさい。少し大人気なかったですわ」


 そう言ってアリスを解放する。

 アレンが、床に座り込むアリスを起こしている間に、シルヴィアはスーツの乱れを直すと、予想外の提案をする。


「ミスター・ホーキンス。気が変わりました。貴方の提案をある程度受け入れますわ」

「…ある程度、とはどういう意味かね…?」


 不信感の込もった声で質問するアレンに対し、シルヴィアは笑顔でこう、返した。


「簡単な事ですわ。二人を貴方の元に渡すのでは無く、彼女を私が引き取ります」

「…!それは彼女を地下三階に移籍させるということか?」

「はい、その通りですわ。作戦についてはご心配なく。手を打ちます」

「ふざけるな!そんな馬鹿な事、認めるもんですか!」


 シルヴィアは、声を荒げて、抗議するアリスを一瞥すると、さも、当たり前だといった口調で話し始めた。


「何がおかしいのかしら?メンタルの切り替えも満足に行なえない上に、上司に殴りかかるような、最底辺のモラルしか持ち合わせない、ド低脳の兵士モドキを使ってやろうって言ってるのよ?少しは感謝したら?」

「貴様ァ!」

「いくらなんでも、その提案は…」


 シルヴィアの予想外の提案に、怒り心頭のアリスを宥めながらも、提案を却下しようとするアレンに、シルヴィアは追い討ちを掛けるかの様に言い放つ。


「悪いけど、それ以外の方法で作戦に参加させるつもりはありませんわ。そちらの方にもアテはありますし」

「なっ…!?」

「…どうしてそこまで…?分かりました。その代わり条件を一つ出させて下さい」

「チーフ!?」

「分かりましたわ」


 自分の上司の思わぬ判断に驚愕するアリスを尻目に、まるで予測済みとも言わん態度で返す、シルヴィア。


「彼女がケビン・カーティスとの一騎討ちで負けたら、といった場合にしてもらいたい」

「俺ですか!?」

「…フフッ。分かりました。ミスター・ホーキンス。その条件を呑みますわ」


 アレンの予想外の条件に一瞬、キョトンとした表情を浮かべた後、面白そうに笑って、承諾する、シルヴィア。

 ケビンも一応抗議の声を上げるが、無視される。


「じゃあ、この条件で構いませんね?」

「えぇ、結構です。申し訳ないが、私達はこれで…」


 その後、アレンは、シルヴィアと少し話し合うと、敵意剥き出しの視線をしたアリスを連れて、部屋から出て行った。ケビンとハロルドはその様子を呆然と見ているしかなかった。


「二人とも、なにしてるの?デザートがくるわよ?」


 そう言って、いつの間にか席に着いていた、シルヴィアに促され、席に着く二人。


「なぁ、ハロルド。どうしてこうなった?」

「……俺に聞くな」


 こうして、『龍天飯店』で行われた会食は幕を閉じた。

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