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HEART Of STEEL  作者: ブッチ
Mad Man
43/44

地底にて…

 地下施設エリア51。イージスの処理によって機能停止に陥ったこの施設の通路を、二人の人間が話しながら歩いていた。性別は両方とも女性。一人は背が高い、モデルの様な体型をした燃えるような赤髪の女性で、もう一人は金髪のおかっぱ髪のそばかすのある少女だった。


「なんなんだよ、まったくー!せっかく人が助けてあげたのに、あの仕打ちー!意味が分からないんだよー!」

「まぁ、落ち着きなさい、カーリー。彼も獲物を盗られて気が立っていたんでしょう」


 機嫌が悪いのか、大声で文句を言いながら手をブンブン振り回して歩くカーリーと呼ばれた少女を、赤毛の女性…エリスが宥める。


「確かに楽しい事を邪魔されて気分が良くないのは解るけどさー、いくらなんでも命の恩人の首を絞めるものなのー!?モラルがどうこうの問題じゃないよ、あのオジサン~!」

「ん~、確かに首を絞めるのはやりすぎですわねぇ…」


 カーリーの言葉に賛同する、エリス。カーリーの首元には彼女の言葉通り、痛々しい痕が残っていた。

 事が起こったのは彼女達がここに到着してすぐだった。

 機体から降りて自己紹介をしようとしたカーリーにラリーは無言で近づくと、そのまま片手でカーリーの首を締め上げたのだ。隣に居たエリスがラリーの頭に拳銃を突きつけ、ラリーもそれに素直に応じたために大事にはならなかったが、それでも首を絞められたカーリーの首には一目で手だと判別できる痕が残っていた。


「それに私の機体の右腕も取れちゃうしさ~。嫌なことばっかりだよ~」

「あら、それなら私だって機体のブースターを壊されましたわ」

「まぁ、そうだけどさ~。はぁ~、またあの絵描きなおさないといけないじゃん~」

「別にあなたが描く訳じゃないでしょう?描くのはヴァイスで」

「ぶっちゃけるとそうなんだけどね~」


 二人は互いに愚痴を零し合いながら歩き続け、そのまま格納庫として利用しているエリアまで辿り着く。


「乗り物でもあったら楽なんだけどね~」

「仕方ないでしょう、ここのシステムは殆ど破壊されていて必要なもの以外復旧できなかったんだから」


 二人が辿り着いたエリア、そこは奇遇な事にアリスとハロルドがフィーの操る無人機と戦闘を繰り広げた場所であった。

 そこには数機のG・Sと装甲車が鎮座しており、その中には先のコロニームスタフ支部への攻撃の際に使用された機体の姿もあった。


「う~ん、やっぱり酷いな~。本拠地に返るまで修復出来ないっていうのに~」


 カーリーは、右腕の消失している光化学迷彩装甲を装着した愛機を眺めて溜め息を吐く。

 現在カーリー達が拠点として使用しているこの施設はコロニー・ムスタフ襲撃の為に臨時よして使用しているに過ぎず、カーリー達の機体が装備しているような特殊な装備のスペアは、別の場所にある本拠地まで引き返さないと手に入らないのだ。

 その隣では、やはり同じ様にエリスが何も装備していない深紅のG・Sの背部を見て憂鬱そうな表情を浮かべている。

 すると、そんな二人の背後に忍び寄る、小さな影があった。


「カーリーお姉ちゃん、カーリーお姉ちゃん」

「ん?あっ、ミリィだ~。どったの~?」


 カーリーは自分の名前を呼ぶ声と服の裾を引っ張られる感覚で後ろを振り向き、そこに立っている紫色の髪の130cmあるかどうかの身長の少女を見つけると、少女の名前を呼びながら頭を撫でる。


「ヴァイスお兄ちゃんはどこに居るの?」

「え~っと…、確かC―23エリアに居たと思うよ?ほら、皆でお話しする所」

「うん、分かった。ありがとう、カーリーお姉ちゃん」

「多分、白髪混じりのオジサンと話してると思うけど、そのオジサンは危ない人だから近づいちゃダメだよ~」

「分かった~」


 少女は元気良く返事すると、そのまま駆け足で出口に向かって走り出す。


「う~ん、ミリィはヴァイスが好きだね~。何であんなに懐いてるんだろー?」

「あら?貴女はヴァイスが嫌いなのかしら?」


 小さくなっていく少女の背中を眺めながらカーリーが首を捻っていると、いつの間にか近くに来ていたエリスが意外そうに質問してくる。


「ん?いや~嫌いじゃないんだけどさ~。何か、苦手っていうかね~。それに、最近妙にピリピリしてるしー?」

「まぁ、彼は私達とは違いますからね。気が立っているのも、前の戦いで殺されかけたのを引きずってるんでしょう。彼は戦うのが嫌いですからね」

「ふ~ん。変なの~。殺し合い程面白い遊びはないのにね~」

「まぁ、彼があの性格だからこそ、我々は今まで生き残ってこれたのですから、感謝こそすれ、好奇の視線を向けるのはお門違いなのですけれどね」

「…は~い」


 エリスは脳内に疑問符を浮かべるカーリーを嗜めると、カーリーの機体の点検が終了するのを待ってから、ヴァイスに会いに行った少女の様子を確認する為にG・Sが鎮座しているエリアを後にした。





 エリス達が機体の点検をしている一方で、カーリーの首を締め上げた張本人であるラリーはヴァイスとの話し合いを終えて、ルシアを引き連れてミーティングルームの役割を果たすエリアから退出しようとしていた。


「いいか、作戦はこちらで用意してある。くれぐれも勝手な真似はするなよ?」

「分かったよォ、大将。だからガミガミ言うんじゃねェ、ノイローゼになっちまうだろうが」


 ラリーはヴァイスに悪態を吐くと、機能が停止して開きっぱなしになったドアをくぐってヴァイスの前から姿を消す。しかし、そのまま数歩と歩かない内に差し掛かった曲がり道で腹の辺りに何かが当たる。


「アァン?」

「痛たたたた…」

「何だ、こいつ?」


 視線を下に向けると、紫色の髪の小柄な少女が尻餅を着いていた。恐らく、走っていたところを曲がり角を曲がってきたラリーとぶつかってしまったのだろう。どう見ても子供にしか見えないその容姿を見て、ラリーとルシアが訝しむ。


「あ、あ、あのあの、ヴァイスお兄ちゃんを見ませんでしたか?」

「あの糞野郎なら、ここを曲がったところの部屋に居る。さっさと消え失せろ、クソガキが」

「は、はい…」


 ヴァイスの名前を耳にした瞬間、目に見えてラリーの機嫌が悪くなる。

 それを感じ取った少女は慌てて返事をすると、急いで立ち上がり、駆け足で今しがたラリーが出てきたエリアの中に姿を消す。


「ふん、けったくそ悪ィ」

「…前から不思議だったんだけどさ」

「アァン?」


 ラリーはしかめっ面のまま少女の姿が消えるまで目で追うと、忌々しそうに悪態を吐く。

 そんなラリーを見て、ルシアが質問をぶつけた。


「何で、そんなにアイツのことが気に食わないんだ?確かに、何考えてるのか分からないところがあるけどさ、別に悪い事したわけじゃないだろ?」

「何故って…、そりゃあ、何となくだよゥ」

「ハァ?」


 ラリーの返した答えにルシアは呆れ、思わず間の抜けた声を上げる。

 だが、当の本人はそんなことお構いなしに、しかめっ面のまままるで愚痴でも話すかの様なテンションで口を動かし続ける。


「だって、あいつ、何か胡散臭ェじゃァん?あれは、絶対何か企んでる顔だって。賭けてもいいぜェ?ああいう手合いはなァ…」

「ストップ。分かった、分かった。アンタが何の考えも無しに嫌ってるって事は、よぉーっく分かった」

「はぁ?お前、人を馬鹿みたいにィ…」

「はいはい、もう十分分かったから、部屋に戻ってゲームやろうよ。もうすぐラスボスだったじゃん」

「チッ…。まぁ、いいけどよォ、その前にやる事がある」


 呆れ顔を浮かべながら、会話を無理矢理中断させる、ルシア。ラリーはそれを渋々受け入れると、やっとしかめっ面を引っ込めて歩き始め、ルシアも慌ててそれに続く。


「何すんだよ?」

「んなもん一つしかねェだろうがよォ。“戦利品”を確認するのはゲームでもリアルでも欠いちゃいけねェ段取りだぜェ」

「あのガキを見に行くのか?」

「そうだ。奴等は何も教えなかったがァ、あんだけの大騒ぎ起こして手に入れたモンだ、何か意味があンだろゥ。それがあのクソッタレの頭の中の一ピースだったらさらによしだァ」

「どこに居るか知ってんのかよ?」

「オメェじゃあるまいしィ、ちゃんと調べは付いてんだよゥ。ほら、行くぞォ」


 ラリーはそう答えると、ポケットから地下施設の構造が記された地図を取り出し、自分たちの現在位置を確認してから、ペンで丸を付けた場所を目指して歩を進める。


「さてと、ここかァ」


 元々大勢の人間を収容する施設だけあってかなり巨大な構造であり、それに土地勘が無い事と移動を補助する設備の機能が停止している事が合わさり、結局二人が目的の場所に着いたのは四十分近く経ってからの事だった。

 ラリーはピッタリと閉じた扉の前に立ち、首に掛けていたカードを扉の傍らに設置してある機械にスキャンして扉を開く。ラリーの言う“戦利品”が居るエリアは、殆どの機能が停止しているこの施設内で、数少ない機能回復に成功したエリアなのだ。


「っとォ、何だ暗ェなァ」

「どっかにスイッチがあるんじゃないの?」

「そんな原始的な設計じゃねぇだろゥ、此処は。よっとォ…」


 ラリーは腰にぶら下げていた大型ライトを取り出しスイッチを入れると、小さな棍棒ぐらいの大きさのそれを振り回して、大して広くもないエリアの中を照らす。


「おっ、居た居たァ」


 そして隅の方で縮こまっているいる銀髪の少女の姿を発見すると、少女にライトを当てながら近づいていく。

 少女はライトの光が眩しいのか手をかざしていた為、ラリーからはその表情をはっきりと確認する事は出来なかったが、少女が怯えに怯えているという事は、後ろには壁しか無いにも関わらず必死で後ろに下がろうとする少女の行動で簡単に感じ取れた。


「おゥいおぅい、そんなに怯えんなよォ。オジサンは悪い人じゃないぞォ?」

(いや、どう見ても悪い人だろ…)


 話しを円滑に進める為にも、まずは少女を安心させようと考えたラリーは、満面の笑みを作って少女に話掛ける。だが、その結果ラリーの表情は、ライトで自分の顔を照らしている事も重なってどう贔屓目に見ても悪人としか見えない表情になっており、隣でその様子を見ていたルシアは、思わず心中でツッコミを入れる。

 そして、そう感じたのは少女も同じであったようで、ライトの光の余波でボンヤリと浮かんだ少女の顔には、まるで化け物でも見たかの様な怯えた表情が浮かんでいた。


「う、嘘を吐くな!その顔はどう見ても、私を破か…殺そうとしている者の顔だ!」

「はか…?」

「あぁ、もういいよ。ラリー、アタシがやる」


 ルシアは、少女の言葉について首を捻っているラリーからライトを取り上げると、ラリーを押しのけて少女の目の前に移動し、ズッシリとした感触の大型ライトをの顔に向ける。


「うっ!」


 当然、少女はその眩しさに目を閉じ、両手を顔の前にかざしながらライトの光から顔を背ける。


「よーし、アンタ、知ってる事全部吐き出しな」

「だ、誰が貴様なんかに…ウッ!」


 ルシアは、ライトから顔を背け、怯えながらも抵抗の意思を見せる少女の胸元を掴み、無理矢理自分の方に向かせる。


「アンタ、状況が分かってないんじゃねーの?何なら教えてやるけど、口答え出来る状況じゃねーんだよ、今のアンタは」

「ヒッ…!」

「ハッ!何、泣いてんだよ、ダッセー」


 ルシアが少女に脅しを掛けると、少女から小さな悲鳴が漏れる。そして、次第に少女の両の目に涙が浮かび上がるのを見て、ルシアが口の端を吊り上げながら嘲る。すると、その光景を退屈そうに眺めていたラリーが横槍を入れる。


「おゥい、そいつビビりまくりじゃねぇかよォ。いいのかァ?」

「いいんだよ、これで。アンタみたいに変に優しくするからつけ上がって喋らなくなるんだ。こういうのは、もっと激しくやんなきゃ駄目なんだぜ?」

「い、痛い!痛い!放せ!」


 ルシアはそう言うと、少女の胸元から手を放し、少女の銀色の髪を無造作に掴んで下がりかけていた顔を再び持ち上げる。

 ラリーは、狭い空間の中に響き渡る少女の悲鳴を聞きながら、呆れた口調で言葉を返す。


「んなもん、ゲームの科白だろうがァ。しかも、中盤辺りで死ぬ小悪党の」

「う、うるさいなぁ!今に見てろよ、こいつの知ってる事を全部吐き出させてやるから…」

「ふ~ん。まっ、がんばってねェ」

「へ?ちょ、ちょっと、どこ行くんだよ!?」


 ラリーの適当な返事にルシアが振り向いた時には、もうラリーは部屋の外へと出て行こうとしていた。

 ルシアが慌てて引き止めると、ラリーは振り向いて首に掛かっていたカードをルシアに投げ渡す。


「何か面倒になってきたから、先に帰るはァ。後はガキ同士、仲良く遊んでてくれ。終わったら鍵をちゃんと閉めとけよォ」

「え!?ちょっと待て、これ、アンタが言い出した事じゃん…」


 ルシアは慌てて文句を飛ばそうとするが、ラリーは全くお構いなしに手をヒラヒラと振りながら、曲がり角の向こうに消えてしまった。


「えぇ~…」

「…お、おい、大丈夫か?」


 そのあまりにも身勝手な態度に、思わず放心状態になる、ルシア。だが、それも長く続くことは無く、いたたまれなくなった少女がおずおずと声を掛けるのに反応して、少女の方をキッと睨みつける。


「同情なんかしてんじゃねぇよ!ムカつくんだよ!」

「い、痛い!何で殴るのだ!?」


 狭い空間に、本日二度目の少女の悲鳴が響き渡った。

突然ですが新作を書き始めようと考えており、それにあたってHEART Of STEELの執筆が遅れるとことになると思います。楽しみにして下さっている方々、申し訳ありません。

新作の方はファンタジー系を予定しています。来週のこの時間帯には出来上がっていると思いますので、御暇があれば読んでやってください

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